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妖精巫女様のお悩み相談所  作者: 長島月海
地方都市オイデマセーとゴブリン編
7/20

第7話 ヤスラ様は見てる

 町の教会のこじんまりした礼拝堂は、旅の神官が説教をするという話が広まり、朝から満員御礼で通路にも人が溢れていた。


 大勢の聴衆の視線を一身に浴び、メイスを手に金刺繍のある緑色のローブを羽織ったジョスがよく通る声で緩急自在に語りかけている。


 一番遠くの壁際にセリーナやカジと並んで聞いている私から見ても、物理的な距離感を忘れてしまうくらい惹き付けられる堂々たる話しぶりだった。


 ハッタリじゃない本物のプレゼン。


 マッチョ化した林檎の人みたいだ。


「……ご友人、ご家族、近しい人々。尊重しあい助け合うことを忘れなければ、やがて魂は巡り、ヤスラ様の導きの元、再び出会うことができるのですから」


 説教が終わると信者たちが祭壇に一輪ずつ白い花を供えていく。お布施を入れるらしい箱の前には列ができていた。


 信者の波を掻き分けながら、ジョスが真面目な顔を崩さないまま着いてこいと言うように目配せをした。人混みから一段高い場所にある頭を目印に、3人で奥へ進む。


 控え室らしい部屋ではジョスが老神官に話しかけていた。


【トウマ】元聖都大神殿務めの神官。老後をオイデマセーでの宣教に捧げた良き人。


「すみません、飛び入りでお話をさせていただいて」


「いえ、昨日からずっと次期大神官様の説教はいつ聞けるのかと問い合わせが絶えませんでしたから。聖都にはいつお戻りに?」


「まだ時ではないと感じています。もうしばらくは各地を回り見聞を広めるつもりです」


 次期大神官……大っていうくらいだから偉いんだろうけど、ジョスの何が特別なんだろう。


 セリーナを見ると、疑問を感じ取ったのか顔を寄せてきた。


「ああ見えて凄い人なのよ。癒やしの力を持ち最年少にして筆頭を務める神官ブラウト様、ってね。聖都に戻ったら大神殿のお偉方の審議があって……そのまま大神官に任命される予定」


「審議の前に1年旅してまわるのが通例なんスけどね。オレたちもう5年は旅してますからねぇ」


 少し寂しそうな声で二人が言った。


 宗教はよくわからないが、周囲の反応や二人の畏まった様子を見るに、大神官はやっぱりかなり偉いらしい。


 聖都>普通の都市、大神殿>町の教会、大神官>神官だから……


 ……ヤスラ教のトップレベル?


 もしかしてヤスラ様、すごく遠回しでもなんでもなく、かなりダイレクトに“なんとかしてくださってる”のかもしれない。


 しばらく会話する神官sを眺めているつもりでいたら、ジョスはあっさりと脱いだローブを荷物にまとめ、別れの挨拶を交わして戻ってきた。


 旅装束に戻ったジョスは、言われなければ本当にただの冒険者だ。凝った装飾の白いメイスさえ見せなければ、実は大物だなんて誰も気づかないかもしれない。


 少し肩透かしをくった気分だ。


 ヤスラ様が魔物族との仲を憂いているなら、せっかくいる信者に代弁させればいいのに。ジョスが声を上げれば通りそうな気がする。なのにさっきの説教やトウマさんとの会話にも、魔物、ゴブリン、強硬派、青年団、そんな話題は何も出てこなかった。


「不満そうですねぇ」


 旅人通りを歩く道すがら、お荷物のダンボールを蹴り上げながら歩く私にジョスが言った。


「でも気持ちはわかりますよ」


 返事をしなかったのに何をどうわかっているんだろう。ジョスもそれ以上何も言わなかったので、結局わからないまま冒険者ギルドにたどり着いた。


 店内のカウンターの向こうで暇そうにしていたゴージンが、私たちに気付いて小さく手をあげた。


「よぅ、食い物にされてないか?」


「おかげさまで、今のところ良くしていただいています」


 簡単に挨拶をすませ、セリーナがゴージンと物資の補充について相談するのをジョスやカジと一緒に眺める。私が寝ていた夕食時に話し合ったらしく、今日から森の調査に行くとのことだった。


 人数分の携帯食、飲料水、中身の詰まったリュック、それから衣類とブーツ?


「ミナ嬢〜、こっち〜!」


 セリーナが手招きした。


「その足元はすぐ怪我すると思う。用意してもらったから着替えてみて。靴は紐を絞めてサイズ確認ね。大きいようなら敷物入れてもらうから」


 レギンスとオフィスサンダルにダメ出しが入った。昨日はそこまで考えないで森の中を歩いていたけど、サンダルは言わずもがな、レギンスは所々引っ掛かった跡がほつれていた。何かに刺されたり噛まれたりしたら確かに痛そうだ。


「そっちの部屋使わせてくれるって」


 カウンター奥の事務所らしい小さな部屋で畳まれた衣類を広げてみると、上から下までの衣類セットだった。


 これって、衣食住一通り揃ったよね。ただジョス達が気を使ってくれただけ? それとも昨日ミィナに愚痴を言ったから? ヤスラ様は見てる的な? どっちだ?


 悶々としながらゆったりした白いズボンと青いフード付きのワンピースに着替えると随分楽ちんになった。袖口の広がる長い袖や、フード、身頃の裾に刺繍があって、かなり豪華に見える。魔法使いのローブのようで少しテンションが上がった。ブーツの大きさは違和感が無いものの、こればかりはしばらく歩いてみないとわからない。


 最後に残った光沢のあるポーチは、衣類に隠れるように紛れ込んでいたものだ。開けると青い石の髪留めが入っていた。オプション的なものだろうか。


 髪留めを付けて、替えの衣類と簡単な旅の一式が入っているらしいリュックに着ていたものを詰め込んだ。


 そんな格好で戻ると、3人がぎょっとしたように目を見張った。


「え、おかしいですかね?」


「いやぁ、なんと言いますか」


「んー、なんか豪華な感じ」


「見るからに金持ってそうっスね」


 んんん?


 ゴージンの深いため息が聞こえた。


「一晩で用意できた中で一番地味なのがこれなんだから仕方ないだろ。神官ブラウト様御一行から至急で女性物の旅装束のご依頼だぜ? 靴屋から服屋から気合入るに決まってんじゃねえか。宝飾店までしゃしゃり出てきやがって」


 それを聞いた3人が納得したように、あ〜〜っ、と呟いた。ツッコミ不在か。3人の普段の様子から察するに旅が長すぎて立場的な感覚が麻痺しがちらしい。


「た、高そうだし、元の服に着替えてきます!」


「まあ、せっかくだし、そのままでいいんじゃないですかね」


 ジョスが嬉しそうに言った。


「いつもいつも私だけ目立っていて、それはそれで疲れるんですよねぇ。これなら私の方がお付きの人に見えるし、その服装で全然いいと私は思いますよ」


 ご機嫌に笑う次期大神官に、セリーナが呆れたような視線を向けた。コイツ……。張り倒したくなるセリーナの気持ちもちょっとわかるわ。


 物資と私の荷物一式、全品買い取りということでジョスが支払い、私以外の3人が手慣れた手つきで荷物の点検を終えた。ダンボール箱は邪魔だということで折って巻かれてしまった。ベコベコになったら森に捨ててしまおう。


「わかっていると思うが、そのまま森に直行したら怪しまれるぞ。手を出してくることは無いだろうが」


「町から十分離れてから森に入ろうかと。オイシスに引き返すていで町を出るつもりですので、話を合わせていただけますか」


「おうよ。気を付けろよ」


 メインストリートを下ってウェルカム広場に入ると、来たときと同じように男女が列をなしていた。


「またのお越しをー!」


「「「お待ちしておりまーーすっ!!!」」」


 高級レストラン&高級ホテルでの滞在だったけど、ご飯も宿もお風呂もいい町だった。PRがうまく行けば旅人の往来も増えるかもしれない。森にちょっかい出すんじゃなく正攻法で魅力発信できるといいよね。青年団がんば。

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