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妖精巫女様のお悩み相談所  作者: 長島月海
地方都市オイデマセーとゴブリン編
6/20

第6話 妖精ミィナとフォリボラ様

 まだ日が高いうちに宿に着くと、それぞれ個室に通された。夕食まで自由時間だと言われたけど、杖と捨てるタイミングを逃したダンボールをベッド脇の壁に立て掛けただけでやることが終わってしまった。


「つーかーれーたー……」


 とりあえずベッドに横になる。


 長いのか短いのかよくわからない1日だった……。朝起きて、午前中に講義を2コマ受けたっけ。夜までずーっとパソコンに向かって鬱々して。


 自分のことなのに、なんだか凄く遠い存在に思える。


 こっちに来たと思ったらゴブリンとトレッキング。ジョスたちに便乗してご飯と宿を集って。ゴブリンの里が大変らしくて……


 ねむ……


 ……かんっ。


 物音がして目を開けると、いつの間にか日も落ちて暗くなっていた。窓の下の通りの灯りが天井を照らし室内が仄かに明るい。


 ……かんっ。……かんっ。


 この音、窓から?


 見ると視界に文字が浮かんだ。


【ミィナ】長生きしたことで妖精になった甲虫。妖精王の使い。


『ミ〜ナ〜さーーん!!』


 叫びそうになって慌てて口をおさえた。


 いたああぁぁ!!! いたよ謎生物っ!!!!


『あーけーてーーーくださーーーーい!』


「ちょい待ちっ! ここ絶対高い宿だから!」


 慌てて駆け寄るも生憎窓がはめ殺しで開けられない。


 改めてガラス越しに至近距離で見るそいつは、本当にカブトムシのような角が生えていて、髪も生えていて顔もあった。服?もカブトムシっぽい硬そうな茶色の服……先入観からか見れば見るほどカブトムシに見えてきた。


「えぇと、カブ子」


『それぜったいワザとでしょ!? ミィナですー!』


 待っててとジェスチャーして窓際に椅子を寄せると、ミィナが窓枠に膝をついてガラスにぺったりくっついていた。


『うぅ……入れないよぅ……』


「ちょっと、泣いてないでいろいろ説明しなさいよ」


『あ、人間-魔物間トラブル対処に向けて動き出したと聞きましたよ。初日からお務めご苦労さまです〜。さすがは私の見込んだ巫女様?だけありますね! これからもそんな感じでお願いします!』


 見込んだ? 人違いで連れてきたくせに調子のいいことを……こっちは先のことを考えると途方に暮れそうなのに。


「そんな感じって……この世界がどういうシステムかも知らないし、身一つで放り出されてんのよ? これからどうしろっての」


『どうしろ、とは……』


「普段の生活とか? 衣食住とかどうするの?」


 ピンと来ない顔だ。


「土の中で寝て樹液舐めてればいいってわけじゃないのよ?」


 ガーンと効果音の聞こえてきそうな顔だ。ほんとにカブトムシかよ。


「えーと……ほら、妖精王? あなたの上司なんでしょ? そういう細かい打ち合わせってなかったの?」


 今のところ私が知っているのは、人と魔物の仲が悪くなってきたから仲介して欲しいということ、そのために妖精王に呼ばれたということだけだ。何をどうしろとか具体的なものは聞いていないし、その間どうやって生活すればいいのかもわからない。


『どうなんでしょう……そのへんはヤスラ様にお任せしているんです。うちのフォリボラ様はあくまで転移魔法担当ということでしたから』


「ヤスラ様って神様でしょ? フォリボラ様?」


『タヨーセ最古の生命体、妖精族の始祖にして王、その身に宇宙を宿すとも謂われる、妖精王フォリボラ様です!』


 最古、始祖、宇宙を宿す……何それ超偉大じゃん! ちょっとクトゥルフ的な姿を思い浮かべてしまった……物の怪的な怖いヒトじゃないといいけど……。大丈夫か。使いがこのミィナだし。


 当のミィナは羨望の入り混じった目をこちらに向けている。


『フォリボラ様、太古の昔にミナさんの世界から来られたそうですよ。まさか実際にその世界を目にすることになるなんて……』


 私にとってはこちらの世界の方が夢みたいだ。魔物がいて妖精がいて冒険者がいて……。


『そんな縁もあり、フォリボラ様が人間族の守護神ヤスラ様から魔物族との仲介を頼まれた際、第三者をそちらの世界から仲介人として転移させることをご提案されたのですっ』


「そんなに凄いヒトなら自分で何とかなんないの?」


『フォリボラ様はほとんど眠っていて滅多に起きてこられないんです。私たち妖精族にしても特殊な魔法が使えるくらいで数も少ないですし。人間族や魔物族ほどの勢力もないので。仲介しようにも話を聞いてもらえるかどうか……言葉の問題もありますし』


 妖精族の特殊な魔法、ねぇ。ということは特殊じゃない魔法もあると。ジョスが怪我を治してたあれが回復魔法だとすると、攻撃魔法とか補助魔法とかあるんだろうか。


「魔法って、私も何か使えたりするのかな〜?」


 火とか水とか氷とか? わ、ワクワクなんてしてないよ? 気になっただけ。


『魔法ですか? 人間族の方で適正があれば自然の力を借りる魔法を使えたりしますけど、その、ミナさんは向いてないかなー……なんて?』


 そういえば適正がどうとか出会い頭にかまされたわ。


『あ! 治癒系の魔法ならヤスラ様がお気に入りの信者に授けてるらしいですよ! 衣食住?はヤスラ様がなんとかしてくださる?ので? えーと、祈願するとか?すればワンチャンあるかも……』


 だめだ、疾風怒濤の仮定に呑まれて頭が痛くなりそう。魔法は期待しないでおこう……。


「ヤスラ様ねぇ」


 確かに、いい食事といい宿にありつけたのはヤスラ教の神官様に拾ってもらったおかげだ。保護してくれたことになっているし、しばらくは一緒にいさせて貰えそうな雰囲気もある。もしかして、すごく遠回しに“なんとかしてくださってる”のかもしれない。


「ミナ嬢〜、起きてる〜?」


 突然のノックに飛び上がった。ミィナも同じだったらしく、文字通りぱっと飛び上がった。


『わ、私もう行きますね! 見つかっちゃうので!!』


「は? 一緒にいてくれるんじゃないの?!」


『その予定ですけど、見世物にされるのは勘弁なので!』


「見世物?! 何それ、根性なし!」


『ちょっ、似た名前のよしみで優しくしてくださいよ! ともかくお腹も空いたし、また寄りますので! 頑張ってくださいね! ファイト〜! おー!』


 ミィナが夜の闇に消えていく。


 おー、って……


「ミナ嬢? どうかした?」


 セリーナの声だ。


「起きてます! 大丈夫です!」


「そう? 寝てたみたいだから夕食先に食べちゃった。部屋に運んでもらう?」


 夕食と聞いてお腹が鳴った。


「ありがとうございます! お願いします!」


「はいはーい。疲れてるでしょ? ゆっくり休んでね〜」


 扉に寄って耳をあてると遠ざかる足音が聞こえた。安堵に胸をなでおろす。あーびっくりした……。


 しばらくしてノックの音に扉を開けると、夕食がカートで運ばれて来たところだった。クロッシュ?高そうな店で見るようなイメージの丸い蓋がされたお皿がトレイにいくつも並んでいる。部屋のテーブルをセッティングするというスタッフさんに断りを入れカートごと受け取った。


「よろしいんですか?」


「大丈夫です! 終わったら出しておくので、回収だけお願いできますか? あと、お風呂とかあれば嬉しいです」


「浴場がございます。後でお声がけしましょうか?」


 ありがたくお願いして、カートを押して部屋に戻った。美味しそうな匂いにお腹が鳴った。


 これもヤスラ様のおかげ? 霊神ヤスラ、だっけ。霊神というだけあって御利益マシマシなのかもしれない。


 食事を前に手を合わせ、いただきます。


 とりあえずヤスラ様を思い浮かべながら言ってみた。

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