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妖精巫女様のお悩み相談所  作者: 長島月海
地方都市オイデマセーとゴブリン編
3/20

第3話 にぎわし3人組

 私は今、ダンボールの上に正座している。


「……危ない遊びはしてはいけないと、せめて他に人がいないか確認してからにしなさいと親御さんから教わりませんでしたか?」


「……はい。はい、ごもっともです。申し訳ありません」


 24歳にして危ない遊びで叱られるなんて思いもしなかった。


「いいのよ、気付かなかったこの人だって悪いんだから」


「気付いてなかったのはあなたもでしょ?」


「そうですぜアネキ! 町が見えてきて油断したなんて、アニキに限ってそんなことッ! ギリギリ! ギリギリのところで避けようとしたんスよ! ね!」


 棒がクリーンヒットしたらしく、ジョスと呼ばれた男の額からは少し血が流れている。


「あの、大丈夫ですか? ハンカチとか持ってなくて」


「ああ、これくらいなら治りますから」


 額にあてたジョスの手が仄かに光り、さっと血を拭うと赤く腫れた皮膚だけが残った。回復魔法ってやつ?


「傷は癒えても痛みはあるんです。これからは気をつけてくださいね?」


 子供に言い聞かせるようなお説教が心に痛い。


【ジョス】霊神ヤスラを信奉する神官、正統派マッスル冒険者。


【セリーナ】弓使い、脱がなくても凄いG級冒険者。


【カジ】盗賊ギルドへの会費を滞納中の盗賊兼冒険者。


 それぞれ、メイスらしき柄の長い鈍器を携えた回復魔法を使う大柄な神官、革の胸当てが見るからに苦しそうな弓使い、ヒョロっとした見た目でノリの軽い盗賊。


 見たところ、この背の高い神官を中心にした冒険者グループであるらしい。


「お嬢さん、オイデマセーの方っスか?」


 カジが身をかがめて覗き込んできた。


「旅人ってわけでもなさそうだし、町の外に1人は危ないっスよ」


 私の事情って会ったばかりの人にペラペラ漏らしていいものなんだろうか。右も左も、これから何が起こるかもわからない。とりあえずこの世界に馴染むまでしばらく黙っておこう。となるとビッグバードに攫われた話がテッパンか?


「どこから来たのか……自分の名前くらいしか思い出せないんです。庭にいてビッグバードに攫われたような記憶はあるんですが……」


 正座する私を囲んだ3人が顔を見合わせた。セリーナとカジがジョスを覗っている。


「これは……」


「ねぇ……」


「迷うまでもなく保護するしかないでしょう!」


 さすが神官! 弱者に優しい! どんな神様かは知らないけどヤスラ様ありがとう!


 正直なところ、ホッとした。町についたところで一人でやっていけるとは思えない。一人暮らし歴6年で身の回りのことはできるとはいえ、バイトだって小遣い程度に居酒屋でホールスタッフ。専門はニッチ過ぎて手に職というものでもない。


 こんな私が未知の世界で無一文で……


(チッカ。チッカ。)


 真っ白な画面で点滅する縦線が脳裏に浮かび、惨めさに胸が締め付けられた。


「心配しなくても大丈夫っスよ。オイデマセーには小さいなりに盗賊ギルドの支部があるし、何かしら噂が聞けるかも」


 顔を歪めた私の表情に不安を感じ取ったのか、カジが慰めるように微笑んだ。グクルタといい、この3人といい、初めて出会うのが優しい人たちで良かった……。


「それにその格好。そんな複雑な色柄の服、そうそう買えるもんじゃないでしょ。ひらひらで見るからに外歩き用じゃない、人に見せるためのものっスね。裕福な家のお嬢様が記憶喪失で行方不明となったら、この情報高く買い取ってもらえるハズ! 除名回避! ゴチっス!」


 こ、これが盗賊の観察眼。たくましさがあからさま過ぎて逆に清々するわ。


「ごめんなさいね、カジったら盗賊ギルドへの会費を滞納してるらしいのよ。あそこ、会費とかがめついだけあって情報は豊富だから、期待していいかも」


 情報屋さんのようなものだろうか。


「それに冒険者ギルドの方でも何かわかるかもしれない。旅の資金はジョスにタカればいいんだし、贅沢しなければ一人分増えたところで大丈夫でしょ」


「タカるって……神殿からの援助は無尽蔵じゃないんですよ? まぁ、豪商なり貴族なりに恩を売れるとなったら文句は言われないでしょうけど」


 どこぞのお嬢様扱いになってるけど……私が言ったんじゃないからいいか。


「さっき名前は覚えてると言ってました?」


 ジョスが長い腕を上げて胸に手を当てた。


「自己紹介がまだでしたが、私はジョス。冒険者を兼ねて宣教の旅をしています。こちらの二人は同郷で、セリーナの弓の腕はかなりのものですよ。カジは……まぁ、こんな感じです」


「よろしくっス!」


「仲良くしましょ。暑苦しいのよ、この二人」


「アネキ酷いっス!」


 正座した私の頭の上で賑わしい三人組が言い合っている。キツイ言葉が交じることもあるのに皆表情は穏やかで、気心の知れた仲なのだろうとすぐわかる。


 やっていけるだろうか。私みたいな、人違いで連れてこられた取り柄もないダメ学生。


 でも、人と魔物の仲直り、だっけ?


 こうなったら、なるようになる、かな?


「それで、お嬢さんのお名前は?」


「松ば……ミナです! よろしくお願いします!」


 立ち上がって同じ目線になる。


 なんとなく、気持ちが軽くなった気がした。

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