第20話 幕間① ★
漂う飛沫に冷やされた風が、張り付いた汗と埃を拭うように頬を撫でていく。
オイデマセーへの帰り道、私たちは今、水の補給と休憩を兼ねてあの滝に立ち寄っている。
目にするのは何度目かになる滝を見上げると、ゴツゴツとしたむき出しの岩場に溜め息が漏れた。あんな上から落ちてよく無事で済んだものだ。もしかしたら今頃は滝壺の底か、下流か、とにかく水の中で冷たくなっていたかもしれない。
「ほんっと、フォリボラ様々。ミィナが起きたら褒めてあげなきゃ」
「フォリボラ様? 妖精王様? でしたっけ?」
背後の声に振り返ると、少し疲れた顔が同じように滝を見上げていた。
「私もよくは知らないんですよね〜。なんでも最古の生命体?の始祖様で?宇宙を宿す、とか? いつも寝てるとか言うからどんな怠け者かと思ったら、ホントにナマケモノでしょ? 何だそれ、って」
「怠け者が怠け者……それは確かに何だそれですね」
一定の、どんな状況で聞いても変わらない滝の音に小さな笑い声が重なった。立て続けの疑問形が可笑しかったらしい。つられて笑っていると軽い足取りが隣に並んだ。
「ちょっと顔洗ってきますね! 私、なんかもうドロっドロ……」
「落ちないでくださいよ?」
「大丈夫ですって! そうだ、知ってます? 滝壺って危ないんですよ? 落ちてくる水で縦に渦が巻くでしょ? それに嵌ると――」
およそ体験したことの無さそうな知識を得意げに語りながら、随分低い位置にある頭がひょこひょこと横を追い越していく。小さな木屑、朽ち葉の破片、土埃。払い落とした方がいいだろうか。
「そうそう!」
振り向いた勢いで髪が揺れ、いくつかの破片が落ちていった。
「ありがとうございます。捕まえてくれて」
咄嗟に返事ができないでいると、汗の浮いた顔を拭った手がひらひらと動いた。
「ほら、落ちた時? 助けてくれたでしょ?」
「結局落ちましたしね。気にしないでください」
「まあ、ほら。気持ちが大事?ってことで!」
水辺に駆けていく後ろ姿に首をひねった。同じくたびれた様子でも、数日前とは印象がまるで違う。もっと追い詰められたような顔をしていたような気がする。
「そんなに気になるならサクッといきゃいいんスよ。滝に飛び込む度胸があるなら、思いきって飛び降りるくらいできるでしょ?」
呆れた声に向き合う気になれない。カジが背後でどんな顔をしているかなんて、振り向かなくてもわかる。言われて見上げた先の滝は、上から見下ろした時よりも高く感じた。あの時は目の前しか見えていなかったから。
「なんなら神頼みでもしてみるとか。ちょっとくらいのお願いなら聞いてもらえるんじゃないッスか?」
「そうですねぇ。ちょっとくらいなら……」
風が水と花の匂いを運んでくる。
ちょっとくらいなら、期待したっていいのかもしれない。
イラスト/月塚彩さん
◆第二部 準備中です




