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妖精巫女様のお悩み相談所  作者: 長島月海
地方都市オイデマセーとゴブリン編
15/20

第15話 夜明け

 遠くない朝の気配。青いフィルターが森にかかる。湿気を含んだ空気が冷たく顔を撫でていく。気がつくとランタンの明かりに頼らずに進んでいた。


 柔らかい物に足を取られて手をついた。顔を上げると3つの……顔?


「っいぅえ!」


 驚いて飛び上がって距離をとると、拘束された3体の人間が並ぶように転がっていた。


【タック、チッパ】鷺の嘴団に所属する盗賊三兄弟。気がつくと全身黒で統一しがちな長男、可愛いモノ好きをひた隠す次男。


【モリモヒ】鷺の嘴団の女魔法使い。心は永遠の17才。


 気絶しているらしい。


 沢に沿って森を歩き始めてからしばらく経つ。グクルタを追っていた内の3人だとしたら、滝にたどり着く前にジョスたちに合流できるかもしれない。そう思ってホッとしたのも束の間、何かが足を撫でて再び飛び上がった。


 足元に蠢くツルに見覚えがある。エノキステーキもどき、マキマキツルルンだ。たしかこのツルは捕虫器で……


 あかんあかんあかんダメダメダメダメ!


 命を狙ってくるような連中でも、魔物のエサになるのを見逃すなんて寝覚めが悪い。もぞもぞと3人の足元に絡みつこうとするツルを急いで払いのけた。未練がましくツルルンが揺れ動く。


「ステイ! 食べちゃだめ! 言うこと聞かないなら根っこまで輪切りにして蒸してやるんだから!」


 マキマキツルルンの動きが止まった。


 通じた?


「えぇと……他に人間見なかった?」


 蛇の頭のようにツルの先が持ち上がり、ちょいちょいっと滝の音のする方向を指した。


「……あっち?」


 ツルの先端が頷いた。あっちらしい。


「んー……ありがとう?」


 おじぎをすると、おじぎが返ってきた。マキマキツルルン、けっこう社交的な性格だったようだ。


 想定外のアシストを受けて滝を目指す。


 ジメジメとした森を進むと、絶え間なく続く流れの音に話し声が混じりはじめた。


 森のきれ目にたどり着くと、視界が開けた。夜空が朝に向かってほんのりと色を変える。穏やかな浅い川の両岸に人影があった。


 向こう岸に切り結ぶ大小ニつの影。大きいのはジョス、小さい人影は何か長いものを振り回している。


【トット】鷺の嘴団に所属する盗賊三兄弟。スタッズやチェーンをこよなく愛する三男。


 拗らせた感のある三男が持っているのは……鎖鎌?


 鎖に繋がった分銅がメイスに絡みついた。激しく引っ張るも大きなガタイはびくともしないらしく、三男が手元の鎌で斬りかかる。


「お嬢!」


 呼びかけにハッとして視線を下げると川の手前にカジがいた。カジが手当てしているらしい隣の人影が振り向く。ゴブリンの大きな丸い目が私を見る。


「っしゃああ!!」


 突然の叫び声に向こう岸に視線を上げると、足を滑らせたのか体勢を崩したジョスと一瞬目が合った気がした。メイスが鎖を離れて宙を舞い、水面で音をたてて飛沫を上げた。


 考えもなく飛び出した。


 振り下ろされた鎌を避けるようにジョスが川へ転げ込む。追い打ちをかけるように飛ぶ分銅が、何度も何度も後を追って水面を打つ。


 岩場を蹴ってカジとグクルタを通り過ぎる。ブーツが水面を踏み抜いて浅い川底を蹴った。


 三男から距離を取るジョスが、薄っすら黄色くなり始めた空を背景に、じわじわと川下へ追い詰められる。


 濡れたメイスを拾い上げた。


 コントロールなんて知らない。


 どれだけ遠くまで届くかなんて知らない。


 ジョスの腕に鎖が絡みつく。


 とにかく投げた。ゆっくりと回りながら飛んでいくメイスが空高く弧を描く。襲いかかる鎌を腕の鎖で防いだジョスがそれに気付き、三男を蹴り飛ばした。鎖は外れない。メイスの軌道の先にのばされた手が……


 掴み取ったメイスが川底に手をつく三男に突き付けられた。


「ここまでです。観念なさい」


 間に合った……良かった、間に合った……!


 勢いそのままに、動きを止めて睨み合う二人に駆け寄った。


「お嬢! だめッスよ!」


 カジの声に振り向く隙もなく、鎖鎌を投げ捨てた三男が飛び起きて向かってきた。ホワイトノイズをBGMに、袖を掴まれ、引っ張られる。


 夜明けを待つ空を背景に、足元の水流がその先に落ちる滝へと吸い込まれる。この先に行っては駄目だと脳が言っているのに、袖を掴む手に抗う上半身に気を取られ、咄嗟に止められない足が、重心をとろうと前へ前へと進んでいく。


 袖を勢いよく引かれ、急に立ち止まった三男を中心に回るように後ろを向いた。


 笑う三男にカジが組みかかる。


 二人の横をジョスが走り抜ける。


 よろめく足が川底を踏み外す。


 伸ばした手首を捕まえたジョスの足元に、三男の手が伸びる。


 踏み外した足が宙を泳いだ。


 落ちる?!


『こんなところで終わらせませんっ!』


 悲鳴をあげようとした私の耳元でミィナが叫んだ。肩にしがみついて羽ばたいていた。支えられっこないのに。


 倒れ込む体、視界が森と川の風景から、空と流れ落ちる滝に変わる。掴まれた手首、その先で足を取られたジョスが宙に浮いている。


 落ちる……。


『早く起きて! 起きてってば! ねえ、フォリボラ様っ!!』


 滝が全ての音を飲み込んでいく。


 ザザッと視界一面に走査線が走った。


 最後に見えたのは、ゆっくりと羽ばたくミィナの半透明な羽と、驚くジョスの顔。それから……


 夜明け直前の紺と赤のグラデーションが、とても綺麗だった。

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