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妖精巫女様のお悩み相談所  作者: 長島月海
地方都市オイデマセーとゴブリン編
13/20

第13話 唐突の来訪者

 慌ただしい足音と騒がしい声が聞こえたのはエノキステーキもどきと川魚を平らげた頃だった。戸を叩く音がして、空になった木の器に杞憂だったわ〜これ美味しいわ〜と名残を惜しんでいた私は顔を上げた。


『長〜! 長〜!』


『なんじゃ騒がしい!』


『煙だ! 北の山腹から煙がでとると!』


 北の山腹? 私たちが来た方向だ。突然の騒ぎに、注意深そうに見守るジョスに声をかけた。


「火の始末、ちゃんとしましたよね?」


「そのはずです。何かありましたか?」


 グクルカの探るような視線が私達に向けられた。


『お主らでは無いんじゃな? 他に仲間はおらんのか』


「わ、私たち4人と森に妖精が1人いるだけで、他には……」


『お嬢さん、この森で火を使うような知恵があるのは儂らゴブリンくらいじゃ。儂らでないとしたら、お主らが手引きした者が森にいるはず……』


『ミーーーナーーさ〜〜〜〜んっ!!!』


 守衛の頭上を飛び越したミィナが視界の中でズームアップしたと思ったら、そのまま顔面に張り付いた。


「ちょっ、何? どうしたの?」


『森で私、大っきな虫が樹液の取り合いで、そしたらっ』


「待って、ミィナ、ちょっと待って!」


 グクルカと守衛の厳しい視線が肌を刺す。セリーナとカジが不安そうにジョスの反応をうかがっている。


『森でゴブリンが追いかけられてたんですよっ! 人間です! 何人も! 私じゃどうにもできなくて、私、それでっ』


 火。人間がゴブリンを追いかけてる?


 血の気が引くって、どういう感じがするんだろう。喉がきゅっと狭まるような。視界が平らになるような。肺が息をするのを忘れるような。耳が心臓以外の音を拾うのをやめるような……


「ミナさん」


 感触を忘れていた腕にジョスの手が触れた。


「大丈夫ですよ。ほら、何かあったんでしょう?」


 そうだ。


 なんとかしなきゃ。


 そう、私がなんとかするんだ!


「グクルカさん! グラフタさんを呼んでください! 有事の際って、里の防衛はどうしたらいいんですか?!」


『有事?! 何が起こっとるんじゃ? おい、グラフタを呼んでこんか!』


 守衛が転がるように走り出した。


「ねえ、何があったの?」


「強硬派です! 仕掛けてきたんです!!」


 3人に緊張が走った。


『強硬派? 何の話じゃ!』


「ゴブリン狩りが始まったんです!」


 グクルカの顔から表情が消えた。抗いと諦めと恐怖が入り混じって、そのまま抜け落ちたような無表情な目が私を見た。


「守ります! 手出しなんか、させません!」


 外が騒がしい。


 ゴブリンの戦力なんて、どうせたいしたもんじゃない。こんなちいさな集落だ。防衛隊の数なんてたかが知れてる。でも強硬派だって、急に大勢の戦力なんて集められっこない。やってやれないことはない。でも相手の数はどのくらい……。


 そうだ、いた。


 町に着いたあの日、冒険者ギルドで……


「鎧を着たのが9人、弓を持ったのが3人、オレみたいなのが3人、ローブが5人」


 カジが言った。


「町にいた俺ら以外のよそ者と言ったら、冒険者ギルドにいたコイツらっスね」


「あとをつけてきたんだわ」


「ゴージンさんが紹介するとは思えません。私たちに気付いて直接雇ったんでしょう」


 グクルカは、よくできた木彫りの彫刻のように動かない。


『長っ!』


 守衛に連れられ息を切らしたグラフタの視線が、グクルカと私たちを往復した。


『……長?』


 グクルカが静かに、思い出したように息を吐く。瞳孔の小さな目が、ミィナを、ジョスを見、瞳に再び力が宿る。


 思いがけずしっかりした足取りで家の奥に消えたグクルカが、ダンボールの包みを抱えて戻ってきた。


『……こんな日が来ると薄々感じてはおった。それが儂の代になろうとは』


 床に広げた包みからメイスを取り上げて装飾に触れる。グクルカがメイスをジョスの眼前に差し出した。


『手をお貸しくだされ、人間の大神官殿』


 ジョスがメイスを受け取るのを皮切りに、カジとセリーナが各々の武器を手にとった。


「ミィナ、見たことを詳しく聞かせて」


『北側にずーっと降りて行ったところで――』


 感情豊かなミィナの言葉を、整理し、要約し、必要なパーツを拾い上げ、自分の持つパーツと組み合わせていく。


「北の斜面を下る途中で西に走るゴブリンを見たそうです。追っていたのは4人、軽装が3人、ローブが1人。魔法? 残りは鎧9、弓3、ローブ4……このローブって魔法使いのことですか?」


「全員とは言いませんが何人かはそうでしょうね」


 マジで。飛び道具、弓と魔法は怖い。私だってゲームでは隠密からの遠距離攻撃ばかりしてた。


『逃げているのはグクルタじゃろうな。まだ帰ってきとらんからの。里とは違う方向に誘導しようとしておるんじゃろう』


 グクルタが追われている?


「仮に16人が一度に襲ってきたら防衛隊で相手をできますか?」


 グラフタが難しい顔で首を振った。


『蜘蛛ならともかく人間相手れは……。うまく行けば罠で半数、防衛隊30人で相手が8人。厳しいでそうね』


 ゴブリン3人で1人だと厳しい……。こっちで2人引き受ければ相手は6人。


「5人で1人ならどうです? 武器を奪うとか、捕らえるくらいできませんか」


『そのくあいなら』


「ミィナ!」


『はいぃ!』


「救った仲間は数知れず、だっけ? 近くにいない? 相手を無力化できるような。売った恩のお代は体で払ってもらうのよ!」


『き、聞いてみますっ』


「グラフタはセリーナを一緒に連れて行って。罠を仕掛けるなら場所を教えてあげて。セリーナは防衛隊と一緒に。弓と魔法を使う奴がいたら牽制して」


 グラフタとセリーナが互いに頷いて見せた。


「ジョスとカジは追われているゴブリンの救援を。名前はグクルタ! 私の恩人です!」


 服のあちこちにナイフを収納していたカジの手がとまった。


「お嬢はどうするんスか?」


「私の戦力なんか小指一本分の足しにもなんない。だから使いっパシリです! なんでもやります! 連絡係でもなんでも!」


 何もできないなら、できることをやるまでだ。走って、走って、走り回ってやる。


 カジが困ったように笑って何かを差し出した。


「ほんと、変なお嬢様っスね。護身用の武器くらい必要でしょ」


 スカートをたくし上げ、手渡されたナイフをベルトに挟む。


「各部、まずは交渉を試みて。突っぱねるようなら、できる限り生け捕りにしてください!」


『皆を東山の洞窟へ避難させろ! グラフタ! 防衛隊は弓のお嬢さんと共に森の中へ! 一人も通すでない!』


 やってやれないことはない。


 やれないことでもやってやるんだ。

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