009
にこにこイチャイチャし出した双子を放置して、私はまたタリアさんを見た。
「性別を決めて、身体を作り替える……んですよね」
「ええ」
「作り替えるってどういう事ですか……? ちょっと理解できないんですけど」
作り替えるって、粘土で出来ているわけでもないんだから。確かにこの身体はよく出来た球体人形のようだが、本当に繋ぎ目や球体関節があるわけではない。
タリアさんは「ああ、」となんでもないように言葉を返した。
「二週間ほど仮死状態になるんです」
「は!?」
「その間に神様が作り替えてくれるので、痛みもないですよ。気付いたらもう性別のある身体になっています」
二週間……10日間仮死状態……だと……!?
そんなに飲まず食わずだったら本当に死ぬじゃないかと思ったが、そういえば私今も飲食してなかった。
その後も質問を続けると、性別ができたら性器や消化器官、肛門などがある『私の知る人間』になるのだそうだ。性別のない今の状態は、『神の子』とされており、儀式が終わるまでは他人の前に余り出してはいけないそう。……だから街とかに降りた記憶がなかったし、ここに移ってからも家に篭ってばかりだったんだね。
人間の身体を借りてこの世に生まれ落ち、性別を持って『人間』と成す──らしい。図書室からとってきた小学校高学年向けくらいの神話な本を見せながら説明してくれたが、双子は聞いていなかった。なんか勝手に積み木で遊んでやがる。
とりあえず、私は人形ではなく、今は神の子とされているが人間らしいと確信が持てて再びほっとした。
「ありがとうございます、わかりやすかったです」
「役に立てたのならよかったです」
「お話おわったー?」
「ながいよ〜」
ぷう、と頬を膨らませながら、双子はせっせと積み木を片付ける(元の籠に雑に投げ入れてる)と私に飛び付いてきた。それまでの動きて予想はできていたが、余り体格差がないのでよろめいてしまう。やめてほしい。
「で、レヴィーレはどうするの!?」
「ぼくはねー、女の子になろうかなぁ」
「ガヴィー女の子になるの? じゃあぼく男の子になろうかなぁ」
「あれ、同じにしないんだ?」
今まで双子はいつでも色違いでお揃いの服を自ら好んで着ていた。今も桃色と水色のふんわりした色違いのスカートを着ている。
てっきり、これからもお揃いコーデをするものだと思っていたし、双子の今日の色違い服をコーディネートするのも楽しみだったのだけれど。
「同じにしちゃうとけっこんできないもん」
「ねー」
「ねー」
「結婚……」
……この世界では兄妹でも結婚できるのだろうか?
ちらりとタリアさんを見ると、困ったように微笑んだ。……多分駄目なんだろうな。
同性だと結婚できないのは、私が覚えている日本でもそうだった。地方によってパートナーシップ制度みたいなものができていたらしいけど、大々的には駄目だったなぁ。私は別に同性でも結婚してもいいじゃんと思っていたけど、この世界でも駄目らしい。まあ、この世界は生まれて自我ができた後で自分の性別を決められるらしいし、性同一性障害にはならなくてすみそうだよね。そういう意味ではまだマシなのかもしれない。
でもま、恋愛は自由だと思うけどね。好きになった人が同性だったなんて、性別を決めた後でも起こりうることだ。いずれこの世界で同性での結婚が許可される日がくるのだろうか。
「ねえねえレヴィーレはぁ?」
「うーん、そうだねぇ……」
男女別の勉強を受けているが、正直どちらも面白くて決めかねているところだ。着飾るのも楽しいし、身体を動かすのも楽しい。
「まだ迷ってるかな」
「そっかぁ」
「でもレヴィーレがどっちになってもきっと美人さんだろうねえ」
「ガヴィーもかわいくなるよ!」
「ガヴァルはかっこよくなるね!」
うふふと笑いあった双子は満足したのか、じゃあねー!と帰っていった。今日から二人も男女の勉強を始めるのだろう。もう既に決めているみたいだから、もしかしたら固定の勉強になるかもね。
そして私は、今日もまた教養にとりかかるのだった。