007
「神殿……ですか?」
あれからまた一ヶ月ほど経ち、距離感を掴みかねていたガヴァルやガヴィーともちゃんと遊ぶようになり(どちらかというと保護者目線のような感じでの対応になってしまっているが)、勉強もだいぶ捗って、連日発声練習をしていたお陰か舌っ足らずな口調もだいぶマシになってきた。
人形だから口がうまく回らないのかと思っていたが、そんなことはないらしく。マシになってきた自分の喋り方に満足を覚えるとともに、今までの口調はもしかしたら「それが欲しい」を「そりぇとって」と言っていたのかもしれないと思いちょっと凹んだ。自分ではしっかり話せてると思っていても、他人が聞くとそうでもない時ってあるよね……。
まあそんなこんなで。
3月第7週の3日。今日は私の誕生日だ。まあまあ覚えやすい日程なのでこの誕生日に設定してくれたのは助かった。できれば全部同じ数字の方がわかりやすかったんだけど……まあ仕方ないか。
“私”の日本の表現に変えると、『3月第7週の3日』は大体『6月末』というところだろうか? なんとこの世界、一年が400日もあるらしいのだ。そしてひと月50日もある。ひと月大体30日の感覚でいた“私”にとって、違和感が半端ない。まあ慣れだわな。
そんな夏の日差しが強い私の誕生日は、それはもうしっかりと祝ってくれた。お世話になっている身だし、祝わなくていいと遠慮すれば遠慮するほど、叔父と叔母は張り切ってしまい、主役のはずの私を置いてどんどん準備を進めてしまった時は遠い目になってしまった。
自分の両親が他人を気にかけている現状に子供たちが反感を抱くかもしれない──という焦りは不要だったようで、ガヴァルとガヴィーも楽しんでいるようだった。このくらいの歳ならば、『パパとママはぼくの!』と独占欲や嫉妬心を抱くものだと思っていたのだが──どうやら二人はお互いがいれば別にいいらしい。
準備ができるまで部屋から出てはいけないと言い渡された私は、二週間ほど軟禁状態にあったのだが──準備が整ったと、庭に出てその理由に愕然とした。
庭に遊園地ができてる。
いや、どうやらこの世界には余り技術は発展していないらしく、一つ一つは素朴な作りながら、それはどう見ても『遊園地』だった。
──いや、子供の誕生日に庭に遊園地作ってしまうってどんな親だよ!? しかも実子じゃねえんだぞ!? っていうか遊園地が作れる広さの庭って、改めて考えると有り得ない広さだな!? 迷子になるぞ!? って、この規模を二週間!? たったの!? 二週間っていや10日だぞ!!? どんな魔法使ったんだ!!
脳内でツッコミが炸裂するが、喜んでくれるかとワクワクした表情でこちらの様子を伺ってくる叔父さんと叔母さんを見れば、もう何も言えなかった。
無理です。元日本人でチキンの私には、好意であろう行動に苦言を呈すなど無理です。別に嫌ではないし、規模がおかしいだけで嬉しいのは確かだからね。
そして私は満面の笑みを浮かべ(られていたか自信はないが)、ガヴァルとガヴィーとともに、叔父さんや叔母さん、使用人さんたちが見守る中心ゆくまで遊び尽くした。流石にこれは楽しくて、年甲斐もなくはしゃいでしまった──年相応と言ったほうが正しいか。
そして夜になり、お風呂に入ってから(人形なのに水はいいのか? と思ったが、特に問題はないらしく普通に入っている)部屋に戻ると、叔父さんが私を待っていた。
珍しいなと首を傾げつつ促されたソファに座ると、叔父さんはおもむろに喋りだした。
そして冒頭のセリフに至る。
「そう、来年の5歳の誕生日には神殿に行くことになるんだ」
「はあ……」
神殿……神殿か。日本では馴染みがなかったが、この世界ではしっかり宗教があるらしい。無宗教だった“私”にとっては、なんだか遠いもののようだ。
「そこで神様から神託をいただいて、性別を決めることになる」
「はい!?」
今この人なんて言った!? 性別を……決める?
「そして身体を作り替えて、それが終わったら君に本当の名前をつけるんだ。『レヴィーレ』は『紫の分家第一位の一子』だからね。名前は君のお父さんとお母さんから聞いてるから、どっちを選んでも大丈夫だよ。これから一年間、両方を学んでどっちがいいか決めるといい。どっちを選んでも私は君を大切にしよう。君の好きな方を選ぶといい」
また詳しい話は後で話そうね。今日はゆっくりおやすみ。
そう言って叔父さんは微笑んだ後、そっと扉を開けて部屋から出ていった。私はふらふらとベッドに行き、モゾモゾと這い上がり、布団を被る。
──……………………いやどういう事ぉ?
疲れ切った私に思考することは難しく、そのまま泥のように眠ってしまったのだった。