006
あ~~そうか~~……両親が造ったか依頼したかわかんないけど、伯父さんが、両親が残した私を引き取ったのはどう処分すればいいのかわからなかったからかもしれない……。
しょんぼり。しょんぼりだ。
そこから数日は布団に引きこもっていたが、そんな私を心配して伯父さんや伯母さんがちょくちょく私の顔を見に来たので、申し訳なくなって布団から出ることにした。
まあ、こうなればもう仕方ない。私は人形。それがどうした。私には両親に愛された記憶がある。伯父さんにも伯母さんにも、タリアさんもラグーンさんも私を愛してくれている。はず。ウジウジしてても仕方ない。
そうして『異世界転生していた“私”、実は意思のある人形だった──!?』というショックからなんとか持ち直した私は、これ以外でもなにか“私”の常識と異なることが起こったらそのショックに打ちのめされる可能性があると勉強することにしたのだ。打ちのめされるのならなるべく早いほうがいい。
とりあえず私がどうして意思を持っているのか、どうやって動いているのか、どうして触覚や痛覚があるのか──そんなことから知ろうと思ったのだが、うん、3歳児では無理だ。読めねえし書けねえし発音できねえ。クソ3コンボ。やったね! ──嬉しくねえよこのやろう。
いやあ、それにしても不思議だ。“私”は一体どっちだったのだろう。男だったのか女だったのか。
こうしていろいろ考えていると、自分の口の悪さに男かと思うが、それと同時に“私”が男だったことに違和感を覚える。
──じゃあ女? いやでもなぁ……。
私が“私”の性別を予想してうんうん唸っていたのも恐らく5分程度で──この身体が人形としても、意識は3歳児なのだ──寝る前の布団で考えていたからか、スコーンと寝てしまった。
翌朝、『ま、どっちでもいっか!』という結論に至ったのは仕方ないと思う。だってどんなに考えても、今の私には関係ないのだ。“私”の知識が役に立っているとはいえ、“私”の性別が私に関係することはない。
男でも女でも、無性別でも人間でなくても、私は私だ。そう思うと心が軽くなった。うん、大丈夫。
そうして勉強を続けていたら、また一つ気付いた。
私の名前はレン・ヴィオク=レン。レン・ヴィオクが苗字、レンが名前……と思っていたのだが、ちょっと違うのかもしれない。
というのも、実はこの『レン』、『1』という意味なのだ。そしてヴィオクは『紫』という意味である。
レン・ヴィオク=レン……『1の紫の1』……『紫1番目の1子』……? こうすると、どう考えても人間の名前とは思えない。まあ、苗字はどちらかというと家名って感じなので、『紫・序列1位』という訳し方のほうが近いだろうか。にしても家名に数字って……いやわかりやすいけど……。
ちなみに『ガル・ヴィオク』である伯父さんの家名は『紫・序列0位』である。おおう、0位もあるのか。マイナスは流石にないよな。
で、まあ“私”の知識からすると、恐らく『ガル』である伯父さんの方が『レン』よりも序列は上だと言える。まあ父さんの兄だしね。序列が上なのは納得。
というか、そうなると私って結構な地位だったんだな……? いや、正確には私じゃなくて父さんが、だけど。両親がいなくなった『レン』の生き残りは私だけなので、上から数えて紫で2位ということになる。
というか、『紫・序列1位』ってことは2位や3位もいるんだろうし、他の色もいるはずだ。まだ見たことないけど。どうやらこの世界は“色”で分けられているらしい。正直公爵だの伯爵だのだと覚えられなかったから助かった。……他の色の序列1位と自分のところだと、どっちが上なんだろ。同じなのかな。
まだまだわからないことだらけだが、これを理解するとどうして自分が『レヴィーレ』と呼ばれているのかがわかった。
レ(レン・)ヴィー(ヴィオク=)レ(レン)。
『紫・序列1位の1子』を表しているのである。すごい。こんなに短く表現できるなんて便利すぎる。
ちなみに、伯父さんの子供であるガヴァルとガヴィーにも同じことが言える。
ガ(ガル・)ヴァ(ヴィオク=)ル(ヴァル)。
ガ(ガル・)ヴィ(ヴィオク=)ー(ツー)。
そう、本当は『ヴァル』と『ツー』という名前なのだが、こちらも短縮しているのだ。あ、『ヴァル』は3、『ツー』は4という意味だ。会ったことはないが、この法則だと上に二人の兄か姉がいるのだろう。“私”の記憶だと「ツー」は2という意味なので、ちょっと混乱してしまったのは内緒だ。
どうしてただの数字であるこんな名前なのか、どうしてタリアさんもラグーンさんも伯父さんも、普通の──数字の意味でない普通の名前──なのか、わからないままである。
まあこれも、勉強を続けていればいずれわかるだろう。
そうして、私は『第一子』という変な名前を付けられている人形である──という認識を誤認だと気付くのは、4歳になった後だった。