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(アレクが普通の子供じゃないなんて……)
あれから隙を見て何度か城を抜け出そうとしましたが、毎回誰かに邪魔されてしまい街に下りることは叶いませんでした。なので、あの二回目のお忍びからアレクに会うことができていません。
とは言え、私も日々忙しい身。週末の4日と5日は休みですが、4日は自習しています。お忍びができなくなった今、5日も自習です。元々休みの日には自習していたので、お忍びをした二日間だけ自習をしなかった、と言ったほうが正しいでしょう。
アスに問うても、『まだ調査が終わっておりませんので』よ一点張りです。……こう思いたくはないですが、本当は終わっていて、嘘をついているのではないかと疑ってしまいます。
読んでいた課題書物を閉じ、私は窓の外を見詰めました。
そこには空しか見えず、立って窓際まで近付かなければ城下街は見下ろせません。どこまでも遠い世界に、3つの頃に読んだ『幸せな小鳥』という本を思い出しました。
小鳥はしあわせです。
あらそいもなく、
あめにもかぜにも
さらされることはなく、
毎日ぶじに、
あんしんであんぜんな
おいしいごはんを
食べられるのです。
小鳥はしあわせです。
たとえ羽がきられていても、
かごの外へいけなくても、
小鳥は
おいしいごはんを食べて、
毎日うつくしい歌を
うたっています。
小鳥はしあわせです。
外のせかいをしらなくても
ここにいれば
ぶじに過ごせるのですから。
初めてこの本を読んだ時、よくわからないまま『幸せなのてすね』と感じたものですが、今ではそうは思いません。
外の世界を知らないままでカゴの中で生きているだけなのは、本当に幸せなのでしょうか? 小鳥は本当に、幸せだったのでしょうか?
少なくとも私は──私が小鳥なら、カゴの外に出てみたい。
外の世界がどんなに厳しく、危険で、食べ物も満足に得られなくても。
それらを知らなければ、カゴの中は幸せだったと感じられないでしょう。
始めから、死ぬまでずっとカゴの中で生きたのならば──そもそも、外に出てみたいという気持ちも湧かないかもしれませんが。
しかし、私は知ってしまった。
外の世界を。
この城の中に渦巻く陰謀を。
私を見詰める瞳の中にある打算を。
(無知のままなら、どんなに幸せだったでしょうね──あの話の小鳥は無知だったのでしょうか。それならば、『しあわせです』と言い切っていたのも頷けますが)
でももう、あの話は皮肉としか受け止めきれなくなってしまいました。あの小鳥はきっと、私のような子供を比喩しているのでしょう。
どうしてそのような本がこの城にあるのかは不明ですが──きっと、城に務める誰かが書いてひっそり紛れ込ませたのでしょう。随分古い冊子でしたから、誰が書いたのかも探せないでしょうね。
私はそっと椅子からおりて、窓際へと近付きました。
小さく見える城下街に、私はそっと息をつきます。
私が下りる街は、ここから見える場所にはありません。転移陣を使って、遠く離れたサリクタの街に行っています。ああ、いえ、街ではなく町なのでしたか。アレクが訂正していたのを思い出して一人くすりと笑います。
流石に王都に下りれば直ぐみつかってしまうので、王都から離れた──“ワガンダ”を知らない町へと向かったのでした。
ワガンダが王族であることは、三大貴族のガル、レイ……この6家しか知りません。それ以外の貴族と公に王宮で会う時には、“ワガンダ”を隠して“王族”として会うので、隠した姿を王族だと思っていることでしょう。
城に務める者には、王族の本当の姿を自分の家族にすら他言できない契約が交わされているようですが──そこまでして、暗殺を警戒しなくともと思わなくもありません。
既に何度か、殺されそうになったことはありますが。
世に知られている“隠した姿”より“本当の姿”の方が街に下りてもバレないとは、なんだかおかしく感じます。
この髪色を褒めるのも当たり前ですが城に務める者ばかりで、裏にある打算に嫌になっていたものですが。
(アレクは純粋に、本当に褒めてくれた)
隠した姿の時も、髪色を褒められますが──やはり、それも打算塗れの貴族ばかりで。
そんな打算の欠片もないアレクに、私は酷く救われた気持ちになっていたのですが──……。
私は街を見下ろしながら、見えない彼を思いため息をこぼしました。




