表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじめまして、君の名前は?  作者: 井上魚煮
第二章 とりあえず握手でもどうかな
47/56

045



 ……どうしてアスがここにいるのでしょう?

 頭に疑問符を沢山浮かべながらも、私は私の表情が動いていないことを自覚します。


──感情を、表に出してはいけない。


 心の奥深くまで刻みつけられたそれに、自然と身体が従いました。アレクと居ると気が緩んで感情が表に出てしまいますが、やはり私の本質はこちらのようです。──7年貴族でいれば、当たり前のことでしょうが。


「ルド?」


 声とともに、視界が白に遮られます。何がと思えば、それはアレクの後頭部でした。どうやら彼は、私とアスの間に立って私に背を向けているようです。背を向けている──いえ、正しくは守っているのでしょう。

 私のことをジルと呼んだ、正体不明の男から。


「誰? 逃げる?」

「あ、待ってください! 彼は違うんです」


 ポソリと尋ねられたそれに慌てて返事をすれば、困惑した目線と驚愕した目線が私を捉えました。

 困惑したのはアレク、驚愕したのは──私の従兄弟の、アスです。


「彼は私の従兄弟のアスです」

「従兄弟……ってことは、あなたもお貴族様?」


 訝しげな表情でアレクがアスを見ると、アスはひくりと眉を寄せました。


「ふうん……ルドよりかは下町慣れされてらっしゃる? 雰囲気がまだ馴染んでるみたいですけれど」

「あ、ええと……」


 アスにアレクを紹介する前に、アレクがアスに話しかけてしまいました。貴族の常識では非常識なこの行動も、市井では非常識に当たらないのでしょうか。あまりにも普通にしているので、非常識ではないようですが……。

 急ににこりと笑ったアスのその目は一切笑っていません。やはり非常識な行動をとったことで苛立っているのでしょう。決まりには厳しいアスですから、アレクの非常識な行為に怒りを覚えているようです。

 私が慌てて弁解しようとしましたが、アスがちらりと私を見て──その眼差しで、開きかけた口を閉じました。


 怒ったアスは怖いのです。


「君がアレク? どうも。ジルが世話になってるようで」

「どーも。ええと、お貴族様なんですよね?」

「そうだよ」

「だいぶ市井慣れされてるように思いますけど、ここには何度か来られてるんですか?」

「いや、ここには初めてきた。いつもは自領の街に下りてるかな」

「はあ……」


 おや、あまり怒ってないのでしょうか。とはいえ、どうしてアスがここに居るのでしょう? 何か緊急な用でもあったのでしょうか?


「アス、何か問題が──」


 私がアスに声をかけようとすると、急にアスはつかつかと此方に歩み寄り、アレクの肩を掴んでアスの方にと引っ張りました。


「えっ」

「なっ!?」


 アレクは体制を崩しましたが、右足を一歩前に出しただけでその場に留まりました。やはり反射神経がいいようです。

 すると、アレクの耳元に顔を近付けたアスはそのまま何かを呟きました。目の前にいるのに、何を言ったのか聞こえません。


「──って?」

「だから─────」

「────」


 そのままボソボソと二人は話し出し、私は一人どうすべきかと悩みました。まさか出会って早々、二人がこんなに仲良くなるとは思ってなかったのです。

 私の方がアレクと過ごした時間は長いですし、アスと過ごした時間も長いんですからね! と変な闘争心を抱いてしまうのはどうしてでしょうか? アスに聞けば教えてくれるでしょうか。

 それにしても長いです。まだ話しています。何をそんなに話すことがあるのか、出会って早々秘密を話し合うのは何事なのかと、少し心配にもなります。それとも、二人は元々知り合いだったのでしょうか?

 いえ、それなら先程のアレクの行動もアスの反応も矛盾が生じますし、今日この時が初対面で間違いはなさそうです。それならばなぜ──。


「───だよ」

「え? なら───……ですか?」

「だから──……」


「……お二人とも、仲良くなるのお早いですね」


 確かに一度目のお忍びの後、アスにはアレクのことを話しました。下町で助けてもらった少年と、また次も約束をしたことも。

 夕会の時間が直ぐでしたので、あまり詳しい話はできませんでしたが──アスはきっと、その少年に興味を持ったのでしょう。なら、影武者をしている筈のアスがここにいるのもわかる気がします。


 私の心からの言葉に、急に二人は私を振り返って──


「「仲良くなんかない(です)(よ)!!!」」


 ──同時に、叫びました。

 叫んだアスにも驚きですが、揃った声にも驚きます。


──いえ、物凄く仲良しに見えますけど。


 それはきっと、言わない方がいいのでしょう。

 私は言いそうになった口を、両手でそっと抑えました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=676279195&s

誤字、脱字などありましたらご報告くだされば有難いです……なるべく無いように頑張ってるんですけど、それでもあるので……(´-`)
(わざわざご報告いただき本当にありがとうございます……!お手数おかけします……!)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ