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「コツはねぇ、全体的に語尾の発音を抜くことかな」
「音を抜く……」
「ルドの話し方って丸っきりお手本みたいだからね。ヴィオクの方とかだと浮かないと思うけど、ラミラとか……ブァルムの方だと確実に浮くと思うよ」
「ブァルムの方でもですか?」
「あっち訛りが凄いらしいから」
服を買って、今はアレクと一緒に話し方の練習をしている所です。
本日待ち合わせ場所だった小さな噴水に腰掛け、出店で買ってきた果実水を飲みながら、アレクにここでの話し方を習っています。
ブァルムは、母上の生まれ育った場所です。
母上と話す機会はそれこそ年に三回なのであまり話していませんが、それでも訛りはなかったように思います。
「あの……ブァルムの方とお話したことがあるのですが、訛りはなかったように思うのですが……」
「え? そりゃあそうでしょ。ルドと話すってことはお貴族様でしょ? ってことは幾ら訛りが凄い地域でも綺麗に話せるでしょ」
「なるほど……」
確かにそうです。
幼い頃から話し方も勉強するのが貴族。訛りが強くとも、きっと街には下りないでしょうから──その地域の訛りが強くても、貴族には関係ないことでしょうね。いえ、もしかしたら訛りが強いことも気付いてないのかもしれません。私のようにお忍びで下りる貴族は知っていると思いますが。
「よし、じゃあなんか喋ってみて」
「え?」
「僕の発音の真似をすればいいんだよ」
「発音の真似……こう、かな?」
「お、そうそう! 今までだと『こうですか?』って発音してたでしょ? そんな感じで音を抜くんだ」
「ああ……なんとなくわかった気がする」
「上手い上手い!」
まるで自分の事のように喜んでくれるアレクに、自然と笑みがこぼれます。同い年の筈なのに、アレクは年上のようというか……アスと一緒にいるような心地になります。
「何処か行ってみたい場所ある?」
「うーん、そうだね。と言っても、何が何処にあるのかサッパリわからないんだけど」
「ああ、えっとねぇ」
果実水を飲みながら、アレクは指をさしながら何があるのかを教えてくれます。私はそれに頷きながら、生ぬるい果実水を飲みました。
季節はそろそろ、春が終わる頃です。
冷えた飲み物が恋しくなってきましたが、氷はここでは貴重でしょう。貴族でしたら金を出して持って来させるか作らせるかしそうですが、市井の人たちは冬の間に凍ったものをなるべく寒い地下に置いて、少しずつ削って使っているのだとか。
市井の人たちは魔法が使えません。
それは私の隣に座っているアレクにも言えることです。
彼の真っ白な──雪のように輝き透き通る髪を眺めながら、私は彼が魔法を使えたら、どんなに良いことだっただろうと考えました。
「──とまあ、こんな感じだけど。どこか興味が引かれた所はあった?」
「あ、ごめん。聞いてませんでした」
「おい××」
「アレクに任せるよ。きっと何処に行っても驚くだろうから」
そう言えば、どこか困ったように笑って「どうしようかなぁ」と辺りを見回すアレク。
出会って二日目なのにこんなにも心地良いのは、どことなくアスと似ているからでしょう。……アスに言えば、怒られそうというか……実際怒られましたが。
「よっし、じゃあ皆が居る広場にでも行くか!」
「皆?」
「僕の友達」
ああ、『アレクが友達だと思っている子たち』ですね。
全員が全員、アレクに恋をしているわけではないでしょうが、先程の衣服の業主が言ったように『アレクに恋する子』も居るのでしょう。ナンパなもの言いは無自覚のようですが──将来、大変なことにならないよう祈るばかりです。
そしてアレクが立ち上がり、私の飲み切ったグラスを取って出店の方へと向かって行きました。
「────ジル」
──不意に。
呼ばれない筈のその“私を示す名前”を聞いて、私はそちらへと顔を向けます。
その声は。その呼び名は。
「……アス?」
私の影武者をしてくれているはずのアスが、そこに居ました。




