043
「ルドの髪は綺麗なワガンダだから、どんな色でも似合うね」
アレクはとても楽しそうに、服を選んでは私の前にかざし、選んではかざしを繰り返します。
「そう……でしょうか」
「? うん」
私はそっと、頭に手をやりました。
父によく似たこの髪は、会う人会う人皆に褒められます。
『まるで──のようではないですか』
『これで──も──ですね』
『なんと──な御髪だろうか。素晴らしい』
昔から続くこの声に、初めは純粋に受け止め喜んでおりました。それがいつから、素直に受け止められなくなったのでしょうか。
確かに私は、父上に似ております。母上であるブァルムの血ではなく、ワガンダの血が強く出たのはきっと良い事なのでしょう。両親も周囲も喜んでおりますし、私も父上の後を継ぐと決めたのですし。
しかし、その言葉を言われる度に、何故か胸の奥が痛くなるのです。
もしも。
もしも、私が。
──母上と同じ髪色だったなら──……
「とても綺麗だ」
不意に聞こえたその声と、手を包む温かさに顔を上げます。
いつも間にか服を戻していたアレクは、髪に触れていた私の手をそっと取り両手で握っていました。
「あなたのその髪は、まるで全てを包み込む夜空のようで、光に艷めくその煌めきは夜空に輝く星のようだ。黒水晶のような大きな瞳も、あなたの感情で七色に光る。それに、」
そして彼は──アレクは、とても。とても柔らかく微笑んで。
「──例え君がどんな髪色だったとしても、私は君が好きだよ」
──そう言った。
「アレク×××ったら、また口説いてるの? 懲りないわねぇ」
「えっ?」
止まった空気が、不意にかけられる声で再び動き始めます。その後、アレクと業主が何やらやり取りをしていたようですが、私の脳内は先程のアレクの言葉を何度も繰り返されていました。
──例えどんな髪色でも。
それは、その言葉は、ゆっくりと私の中に溶け込んでいきます。
父上に似たこの髪は私の誇りです。
ですが同時に、とても嫌だったのです。
なぜだかとても泣きたくなって、でも泣きたくなくて。
まだ業主とやり取りをしているアレクに掴まれたままの手を解き、逆にその手を握りしめました。
「ルド?」
「……っ」
アレクの柔らかな声がかけられると同時に、胸の奥から何かが急に込み上げてきます。熱くなる目元を見られたくなくて、私は目の前の肩に頭を押し付けました。
これを人に見られていたならば、きっと私は叱られてしまうでしょう。
でも今、私は『貴族のジェラルド』ではない。
ここにいるのは、『ただのルド』です。
「……っありが、とう」
込み上げるものを抑えられず、声は震えてしまいました。
しかしアレクはそれを咎めるわけでもなく、笑うわけでもなく。微かに動いたと思えば、そっと私の頭に何かが触れました。──いえ、これは“撫でて”いるのでしたね。
「礼を言うのはまだ早いでしょ? 探索はまだ始まってもいないよ」
「……っ、うん……っ」
私が泣いてしまっていることにも気付いているでしょうに、アレクは何でもないように静かに私の頭を撫でています。
「ほらぁ、口説いてるわよ」
「だから口説いてないって!」
「この前もシンシアとラティに甘いこと言ってたじゃない。お姉さん聞いちゃったんだからね」
「甘いことって……僕は別に本心を言っただけで」
「タチ悪いわぁアレク×××、男の子も女の子も見境ないんだから」
「なんか凄い酷い×みたいじゃん!? やめてよ、ルドが引いちゃうだろ! 折角友達になったのに!」
「友達ねえ」
そう思ってるのはアレク×××だけだと思うわよ、と続ける業主に酷い!、と返すアレクは恐らく言葉通りに捉えているのでしょう。
アレクみたいな人を……なんと言うのでしたっけ。侍女たちが噂していたのを聞いたとは思うのですが……。
「……なんぱ……?」
「えっ」
「あら、そうよ坊ちゃん。アレク×××みたいな子がすることをナンパって言うのよ」
「なっ! 違うよ! ナンパなんてしてないって!」
「そうなんですね……」
「ちょっルド!」
「しかも性別関係なく口説くもんだから、この辺りに住む子みーんなアレク×××のことが好きなのよ」
「ははぁ……」
「ルードー!?」
ナンパなんてしてないから! 誤解だから! と言いながら、アレクは私の両肩を掴んで前後に揺らします。
いつの間にか涙は止まっていて、私は笑っていました。
必死に言い募るアレクが面白くて、おかしくて。
ああ、この子と出会えて良かったと、心から思ったのです。




