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「すみません、湾曲的な言い回しは得意ではありませんので、直接的に、はっきりと申し上げても?」
その発言に首を傾げますと、「失礼なことを言ったと罰せられたくはありませんので……」と苦笑したので、なるほどと首肯します。
市井の者を守る立場ではありますが、守るべきその命は軽い。正確にはまだ私も大人に護られる立場であるので、市井の者と何ら変わりないと思うのですが──そうではないと諭されたのは、少し前の話です。
「大丈夫です」
「少し口が悪くなってもよろしいですか?」
「ええ、……私が理解できる範囲で、お願いします」
「ああ、そうですね、わかりました。では早速」
ぴ、と右手の2の指だけを上に向け、他の指は握り込んだ状態の手を目の前に突き出し、「まず一つ目」とアレクは言いました。
「ここの言葉が通じないこと」
「……いや、通じていないわけでは……」
「でも訛りとか速さがあって聞き取れてないですよね? 例え×ほら、こうやって××××だけ速く喋×××××聞こえ×××××? ……今僕がなんて言ったかわかりました?」
「……」
「ほらね。これで少なくともここの人じゃないってことがわかります」
因みにさっきの速さと訛りはここでは普通ですよ、と続けたアレクは、次に3の指を上に向け、二本を拳から出した奇妙な形の右手を掲げます。
「次、二つ目。さっきのとほぼ似ていますが、言葉遣いが丁寧な挙句訛りがない。幾らここの出身でなくとも、言葉遣いは乱れているものです。特にお貴族様の……ええと、失礼ですがご年齢は?」
「今年で8歳です」
「8歳ですか。×××××××……、私と同い年ですね!」
途中で何を言ったのかわかりませんでしたが、同い年ということに意識を持っていかれる。多分同い年だろうと思っていましたが、本当に同い年だと知れば、少しだけ距離が近くなったように思えました。
「失礼。えーと、それでですね。8歳ならば普通は言葉遣いが乱れているものです。大声をあげたり、笑ったりするのは当たり前だし、思いっきり泣いたり……は、まあ人によるのでわかりませんが、転んで泣いたりしますよ」
「そんな事をして許されるんですか?」
「……ええ、まあ。というか、皆感情の赴くままに行動していますよ」
「感情の、赴くままに……」
思わず呟けば、何故かアレクが悲しげに顔を曇らせます。感情を出してはならない、隙を作ってはならないと教えられ自分を律することを“普通”としてきましたが、ここではそれが“異常”であるみたいです。やはり、自分の常識である貴族と、市井の常識は異なるようですね。学んでいたとは言え、同年代の子供についてまでは知りませんでした。
なるほどと関心していると、ふっと頭上に影が落ちます。気付かない内に俯いていたようです。
そして、頭に何かが乗ったと思えば、その何かがゆるゆると左右に揺れます。顔を上げると、少しだけ困ったような表情のアレクが目の前にいました。何が頭に乗っているかと思えば、それは彼の右手のようでした。感覚的に、手のひらを置いて……動かしている……?
「……何をしているのですか?」
「頭を撫でています」
「……頭を撫でる……?」
「えっまさかこれもわからない!? 想像以上に身分の高いお貴族様!? それともお貴族様は頭を撫でたりしない!? ××××、これ無礼に値す××××!? や××××っ!?」
あっと思う間もなく、頭上にあった手は外されてしまいました。
それに何故か少しだけ寂しく思えてしまって、自分のその気持ちに困惑します。
「えーと、……申し訳ございません」
「い、いえ。別に怒ってないです。……ええと、今のは……?」
「今のは……うーん、親が子供を褒めたり、宥めたりする時の触れ合い……ですかね? お貴族様はあんまりこういうことなされないかもしれませんが、ここではさっきのように頭に触れたりとか、抱き上げたりとか、夜一緒の布団で寝たりとかしますね」
「そ、そうなんですか……」
あまりの違いに、何度目かわからないほどの困惑が私に降りかかります。親と子の距離が近いのは、物理的だけではなく心理的にもなのですか。
私は年に三度ほどしか、親に会えないのに。……人になってからはそれでも多少マシにはなりましたけど。──マシになって、三回だ。




