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はじめまして、君の名前は?  作者: 井上魚煮
第二章 とりあえず握手でもどうかな
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037



「すみません、湾曲的な言い回しは得意ではありませんので、直接的に、はっきりと申し上げても?」


 その発言に首を傾げますと、「失礼なことを言ったと罰せられたくはありませんので……」と苦笑したので、なるほどと首肯します。

 市井の者を守る立場ではありますが、守るべきその命は軽い。正確にはまだ私も大人に護られる立場であるので、市井の者と何ら変わりないと思うのですが──そうではないと諭されたのは、少し前の話です。


「大丈夫です」

「少し口が悪くなってもよろしいですか?」

「ええ、……私が理解できる範囲で、お願いします」

「ああ、そうですね、わかりました。では早速」


 ぴ、と右手の2の指だけを上に向け、他の指は握り込んだ状態の手を目の前に突き出し、「まず一つ目」とアレクは言いました。


「ここの言葉が通じないこと」

「……いや、通じていないわけでは……」

「でも訛りとか速さがあって聞き取れてないですよね? 例え×ほら、こうやって××××だけ速く喋×××××聞こえ×××××? ……今僕がなんて言ったかわかりました?」

「……」

「ほらね。これで少なくともここの人じゃないってことがわかります」


 因みにさっきの速さと訛りはここでは普通ですよ、と続けたアレクは、次に3の指を上に向け、二本を拳から出した奇妙な形の右手を掲げます。


「次、二つ目。さっきのとほぼ似ていますが、言葉遣いが丁寧な挙句訛りがない。幾らここの出身でなくとも、言葉遣いは乱れているものです。特にお貴族様の……ええと、失礼ですがご年齢は?」

「今年で8歳です」

「8歳ですか。×××××××……、私と同い年ですね!」


 途中で何を言ったのかわかりませんでしたが、同い年ということに意識を持っていかれる。多分同い年だろうと思っていましたが、本当に同い年だと知れば、少しだけ距離が近くなったように思えました。


「失礼。えーと、それでですね。8歳ならば普通は言葉遣いが乱れているものです。大声をあげたり、笑ったりするのは当たり前だし、思いっきり泣いたり……は、まあ人によるのでわかりませんが、転んで泣いたりしますよ」

「そんな事をして許されるんですか?」

「……ええ、まあ。というか、皆感情の赴くままに行動していますよ」

「感情の、赴くままに……」


 思わず呟けば、何故かアレクが悲しげに顔を曇らせます。感情を出してはならない、隙を作ってはならないと教えられ自分を律することを“普通”としてきましたが、ここではそれが“異常”であるみたいです。やはり、自分の常識である貴族と、市井の常識は異なるようですね。学んでいたとは言え、同年代の子供についてまでは知りませんでした。

 なるほどと関心していると、ふっと頭上に影が落ちます。気付かない内に俯いていたようです。

 そして、頭に何かが乗ったと思えば、その何かがゆるゆると左右に揺れます。顔を上げると、少しだけ困ったような表情のアレクが目の前にいました。何が頭に乗っているかと思えば、それは彼の右手のようでした。感覚的に、手のひらを置いて……動かしている……?


「……何をしているのですか?」

「頭を撫でています」

「……頭を撫でる……?」

「えっまさかこれもわからない!? 想像以上に身分の高いお貴族様!? それともお貴族様は頭を撫でたりしない!? ××××、これ無礼に値す××××!? や××××っ!?」


 あっと思う間もなく、頭上にあった手は外されてしまいました。

 それに何故か少しだけ寂しく思えてしまって、自分のその気持ちに困惑します。


「えーと、……申し訳ございません」

「い、いえ。別に怒ってないです。……ええと、今のは……?」

「今のは……うーん、親が子供を褒めたり、宥めたりする時の触れ合い……ですかね? お貴族様はあんまりこういうことなされないかもしれませんが、ここではさっきのように頭に触れたりとか、抱き上げたりとか、夜一緒の布団で寝たりとかしますね」

「そ、そうなんですか……」


 あまりの違いに、何度目かわからないほどの困惑が私に降りかかります。親と子の距離が近いのは、物理的だけではなく心理的にもなのですか。

 私は年に三度ほどしか、親に会えないのに。……人になってからはそれでも多少マシにはなりましたけど。──マシになって、三回だ。



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誤字、脱字などありましたらご報告くだされば有難いです……なるべく無いように頑張ってるんですけど、それでもあるので……(´-`)
(わざわざご報告いただき本当にありがとうございます……!お手数おかけします……!)
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