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はじめまして、君の名前は?  作者: 井上魚煮
 
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【閑話】001~002

また閑話です。すみません。

別視点での本編(001~002)。



 レヴィーレは両親が亡くなったのを理解したのか、葬儀が終わって暫くした後改めて家に来るように言うと倒れてしまった。

 葬儀中のレヴィーレは、いつものころころと変わる表情が嘘かのように、表情の抜け落ちた顔でぼんやりと己の両親の葬儀を眺めているだけだったのだが──……。


(やはり、キツすぎたか)


 諸々の手続きが落ち着いた屋敷の一室で、ため息をつく。あまりつきすぎると妻に怒られてしまうが、今は許してほしいものだ。

 出された紅茶を飲み、またため息をつく。

 レン・ヴィオクに仕える使用人たち全員の再雇用先も何とかなった。希望者は本家の方に移り、この屋敷の維持管理担当や、レヴィーレ担当になってもらうことになる。

 倒れる直前に見た、レヴィーレの『両親の死を理解した顔』を思い出して──また、ため息をついた。


「──……旦那様」

「ん」


 どこか呆れたような、そんな声音で呼ばれ顔を上げると、そこには声音と合った表情をした爺が扉横で佇んでいた。


「ため息をつき過ぎです。また奥様に叱られますよ」

「今は多目に見てよ、爺。……あとまだ、君の主人じゃないからね」

「存じておりますとも。しかし今日中には本家へと移ります故、間違いではございません」


 呼び方を指摘すれば、この返しだ。爺に勝てる日はくるのだろうかと嘆息して、「ああまた」と苦言を返される。それにまたため息をつきそうになって、慌てて口を閉じると爺が少しだけ笑った。


「ラハト坊っちゃまは昔から変わりませんねぇ」

「……これでもしっかり『ガル』として領地を纏めてるんだけど」

「爺にとって、坊っちゃまはいつまでも坊っちゃまですよ」

「いい歳なんだけどなぁ」

「おや、まだまだひよっこですよ」


 爺と話していると、自分が4児の親であることを忘れそうになる。

 いろいろあって早々に結婚し、両親を追い出すように家を継いだ私はなんとか大人になれたかと思っていたが、まだまだらしい。

 爺は手厳しいなと再び紅茶を口に運ぼうとして、部屋の扉が叩かれる音がした。それに返事をすると、爺が扉を開けてくれる。


「旦那様、レヴィーレ様がお目覚めになられました」

「! 本当か!」


 思わずがばりと立ち上がってしまったが、いつもなら苦言を呈す爺も黙り込んでいる。レヴィーレが倒れた時のことを思い出しているのかもしれない。

 深く頭を下げる使用人──確かタリアといったか──に礼を言い、廊下を走る。緊急時以外走ってはならないとされているが、今は多目に見てほしい。


「レヴィーレ!」

「……ラハトおじさん……」


 広く、閑散とした部屋にある大きなベッドに俯くようにして座っている子供は、私が部屋に入ると驚いたように顔を上げた。その顔は倒れる直前に見た真っ青な顔色ではなく、多少なりとも血色が戻っていてほっとした。

 子供部屋であるのにも関わらずあまりにも物を置いていないので、ラハトに何か買ってやったらどうだと言えば「本人が望むものを与えたいからな。今から性別に関わるような物を買って、あの子の選択を歪めたくないんだ」と言っていたことを思い出す。

 黒を思わせる濃厚な紫の髪は、本人の疲れからかいつもより艶がない。ぼんやりとベッドに座り込んでいるレヴィーレに、怖がらせないようにゆっくりと近付いて、そっとその頭を撫でた。


「大丈夫かい? ……いや、ごめんよ、大丈夫かなんて聞いて……」


 大丈夫な筈がない。

 両親が亡くなったことを、この歳で正確に理解するなんて流石オストとカルラの子供だと思ったが──賢いことも、時には残酷だ。こんな幼子が、両親の死を理解してしまうなんて。


「……ぼくは、大丈夫、です」


 ゆったりと、丁寧に紡ごうとするその言葉にぐっと込み上げるものがある。

 この子供は──レヴィーレは、恐らく理解しているのだろう。両親が亡くなって、残された己の立場を。己の無力さを。

 それまで無邪気に遊び、学んで、大声で笑っていた歳相応の子供は、両親の死を理解すると共に死んでしまった。きらきらと面白いものを探す好奇心旺盛な瞳は、今は冷静に『現状』を見つめている。今年4歳になる子供がする目ではない。

 この子は──未だ神の子であるこの子は、既に大人になろうとしているのか。

 私が変な顔をしていたのか、レヴィーレは不思議そうに少しだけ首を傾げる。その顔は感情が抜け落ちていて、それがまた残酷な頭の良さを物語っていた。

 それから、心配しているであろう今後の予定を告げる。時々わからない言葉を聞き返されたが、全て一度だけで理解できたようだった。ここにもその賢さを感じ、悲しみが心を埋め尽くす。


「レヴィーレ、必ず私が君を守るよ。君が大人になるまで、そのお手伝いをさせてくれないかい?」


 レヴィーレの両手をそっと握り、暗い瞳を見つめながら私は言葉を続ける。

 確認をとっているが、これは決定事項を報告しているに違いはない。もうレヴィーレが本家に来ることは妻にも、子供4人全員にも報告しているし、王の承認も得ている。レヴィーレが拒否することはないだろうが、拒否したとしても連れて行かなければいけないのだ。

 それに、他の分家や──母上に引き取られでもしてしまえば、この子供は確実に不幸せな幼少期を過ごす。そう断言出来るほど、レヴィーレは賢く、美しく、魔力が既に強かった。

 正直、本家に迎えることによってまた新たな問題が浮上するのは確実だが、そんなことは些細なことだ。オストとカルラが残したこの愛すべき子を守るためなら、王家にだって立ち向かう心積りだ。


「……ラハトおじさん」

「なんだい?」

「……よろしく、おねがいします」


 きゅ、と少しだけ両手を握り返しながら、レヴィーレは微笑んだ。とても無理をしているだろうに、懸命に私に──新しい保護者に笑いかけるその子は、少しでも嫌われないようにと気をつかっていることがわかる。


 こんな幼子に気をつかわせてしまうなんて。


 私は思わず、ぎこちなく微笑むその子を抱きしめた。「絶対に幸せにするよ」と言葉で誓いながら、心の中でも誓う。

 何があっても、この子は幸せにならなければいけない。

 子供の時間を手放してしまったこの子に、無邪気で天真爛漫だったこの子に、また心から笑ってもらえるように。


 私は流れる涙を止めることも出来ず、レヴィーレを抱きしめながら──縋りつきながら──どうかこの子の未来が穏やかで優しいものでありますようにと、神に祈った。



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誤字、脱字などありましたらご報告くだされば有難いです……なるべく無いように頑張ってるんですけど、それでもあるので……(´-`)
(わざわざご報告いただき本当にありがとうございます……!お手数おかけします……!)
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