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※虫が苦手な方少々注意
カタカタと微弱な揺れに揺られながら、私は祖母の家へと向かう。
この世界にも馬車のようなものはあるようで、魔力を使わずとも移動ができるらしい。というか、どうやら魔力のない人間も普通にいるらしく、自分もそれならどうしようと思ってしまった。
魔力を使った移動手段もあるが、基本は魔力の使わない原始的な移動が一般的らしく、別にこの移動はおかしくないらしい。むしろ、危篤や異常事態でない限りは普通の移動だ。
というか前世の知識で『馬車のようなもの』と言ったが、全く似ても似つかない。
今まで家の敷地内から出ることはなかったし、そういう移動手段を見ることもなかったから何の疑問も抱いていなかったが──はじめて“馬車”を見たときは驚いて大声をあげるところだった。
──凄くでかい多足虫の上に家みたいなのが乗っかってる。
多足虫……なんだろう、ムカデとか、海にいるフナムシみたいな……あのひっくり返したら足が気持ち悪いくらいあるあの虫……に似た生き物が、大人しく御者と小さい家みたいなのを乗せてそこに居た。どうやらこれがこの世界の“馬車”らしく、周囲を見回しても何の反応もない。
その虫は横と縦の大きさだけで言えば小型トラックほどあり、高さは私の膝より少し上くらい。要はとても平べったいのだ。背中は何でできているのか不明だが、何か鎧のようなしっかりした皮膚が、ダンゴムシのように綺麗に並んでいる。緊急時になると丸まるのかもしれない。
別に虫が苦手ではないのだが、こんなに大きな虫をみたことがなかったためドン引きだ。そんな私を見て、タリアさんは「やっぱり驚きました?」と笑った。
「私も初めて虫家を見たときは驚いてしまいました。でもこの子たちはとても大人しくて優しいんですよ」
「優しい……んですか!?」
虫なのに!?
「ええ。この子は一番大きいサイズですけれど、通常は……ほら、あの大きさが一般的です。普通でしたら、あの大きさの虫の上に荷物と御者だけ乗せたり、車を引かせて大人数での移動に使ったりします」
すい、と動いた視線を追いかけると、一人用サイズであろう虫がいた。その虫は“虫家”と呼ばれるやつと種類が違うらしく、大きさもそこまで大きくはない。平べったいのは同じだが、縦横のサイズだけで言えば大型バイクくらいの長細い虫だった。その上に、ずれないように椅子が固定されていて、後ろには荷物が入るように籠がとりつけられている。
確かに図鑑で見たことはあったが、名前と見た目しか載っていないものだったため用途はわからなかった。あとサイズも。ということは、前世と似た動物でも全然違う生き物が沢山いるかもしれない。
タリアさんはそのまま、『どこかのご令嬢』ということで虫家に入ってもらった。
どうやらこの虫、揺れは少ないし移動は早いしで移動中に寝ることもできる。しかも飯はそこらへんに落ちている小石みたいで、懐にも優しい。いや、詳しく聞けば普通の小石ではいけないらしいのだが、それでも便利に変わりない。凄い……いい奴じゃん虫……。
一番大きい虫家にはタリアさんと、タリアさん付きの使用人としてタリアさんの同僚が。その後ろに一回り小さい虫家には私が居る。その周りを固めるように一人用の虫が居て、総勢13名の一行だ。
御者含め5人守るために8人は居すぎじゃないかと思ったが、どうやら普通らしい。むしろちょっと少ないんだとか。
そんなこんなで、今私は祖母の家へと向かっている。
カモフラージュのためこじんまりした屋根の下に一人でいるが、これがなかなか快適である。
窓にかかったカーテンを開ければ護衛の人と目が合ってしまうのだが、開けなければ一人の空間だ。ちょっとした秘密基地っぽくてわくわくする。あと仕方ないことだけど、一応身分も高いっぽいから一人の時間もほぼないからね。
ふいーっと後ろへと寝転がる。
本日の服装は男の子だ。祖母に会いに行くのは私だが、隠れている身でもあるため仰々しい服装はできない。かと言って、軽装でも失礼にあたる。
祖母もこちらの状況をわかっているだろうし、着飾れない女の子よりかは、部分部分でいいものを使ってある服の男の子のほうが適切だと判断したのだ。それに動きやすいしね。
ふふーんと鼻歌を歌いながら寝転んでいると、急に外が騒がしくなった。ざわざわと外が蠢くのを耳が拾う。
「盗賊だーーっ!!!」
聞こえたその声に、私は──がばりと身を起こし、扉を開けた。




