030
思い付きで言ってみたが、『ガル・ヴィオクの管理下になったあの家の管理人になる』というのはあり得る話だと思う。むしろ、一年で抹消する家名の家に戻るのならばその方法しかないと思うのだ。
そうすれば、『レン・ヴィオク』のまま──没落した家名のまま、存在するけど存在しない立場のままで管理人となれることだろう。『本家』に隠された『潰えた分家』の一人として。
「……大分、いろいろなことを知っているんだね……誰から聞いたのか、教えてくれるかな」
「……祖母から聞きました」
「…………そうか」
祖母とのお茶会の時、その場にはここの使用人も控えていたはずだ。でも伯父に話の内容が伝わっていないということは、祖母が何かしたのだろうか? それとも、ここの使用人はどんな話でも機密を守る素晴らしい使用人だったということだろうか。
「……先に一つ、聞かせてもらえるかな」
「? はい」
「……前に、レヴィーレの計画を聞いたと思うけれど……アレはまだ有効なのかい?」
「……そうですね。むしろ、聞いた話が本当でしたら、実行したいと思っています」
いろいろ今後のことを考えたけど、全てをひっくるめて──どんなことがあったとしても、当初の予定だと対応できる。最悪の場合を想定した予定だったが、考えておいてよかったと昔の自分を褒めた。
「なら……黙っていても仕方がない、か」
ふう、と天井を見上げた伯父さんは、何かを覚悟したかのようだった。
顔を戻し、私を見つめる伯父はちょっと困ったような顔で笑う。
「本当に、君は──オストに似ているね」
「父さんですか?」
「ああ。変に頭が切れてね、私はいつもオストに助けられていたよ」
だから私が大人ぶっていても変に思われなかったのだろうか。
同級生が近くにいれば、私の子供らしさが不自然なことなど早々に気付くに違いない。しかし、そんな私を変だと思わず(もしかしたら変だと思ってたかもしれないけど)傍で見守ってくれていたのだ。本当に頭が上がらない。
「私は、お世話になっている伯父さんに──『ガル・ヴィオク』に、迷惑をかけたくないのです」
「……迷惑だと思わなくてもかい?」
「そうだとしても、私が私を許せません」
「ふふ、頑固だね」
伯父さんは笑って、くしゃくしゃになってしまった書類を机に置くと席を立つ。そして私の傍まで来ると、しゃがんで私と視線をあわせた。
「オストの代わりになればと思っていたけど、私では頼りなかったかな」
「いいえ。でも、何も知らないまま守られるのは嫌です。これは私の我が儘です」
「……そうか」
伯父と伯母に感謝こそすれ、恨みなど一つもない。私が子供で、何の力もない存在なのは事実であり、守られる立場であることは重々承知である。それを良しとしない私自身が駄目なことなど、私が一番よく知っている。
歯向かう力もないくせに守られるのを嫌がる──うわ、クソめんどくさい奴じゃん。大人しく守られてたほうがよかった? いや、でもなぁ──……。
「全部答えてあげたいところだけど、あまり時間もない。だから3個だけ、一問一答形式で答えよう」
「3個……わかりました。では、早速」
「まず一つ目。レン・ヴィオク家の家名の保存は一年で、没落するのは本当ですか」
「そうだね。君の存在は公表できないし、このまま行けば『レン・ヴィオク家』は潰える。なんとか潰えないようにと頑張ってはいるんだが、あまり強くも出れなくてね。他の分家の手前、いくら『レン』とは言え特別扱いができない。レヴィーレとの約束に背くことになるかもしれないが、家に戻したいと思っているのは本当だよ」
……確かに、あの時伯父は『この家に帰る』とは言ったが、『家名を存続させる』とは言っていない。レン・ヴィオクが潰えたら、あの家は恐らくガル・ヴィオクの管理下になるようにいろいろ手続きや手回しをしているのだろう。家名がなくなって貴族でなくなる私を、どうやってあの家の管理人にするのかはわからないが──まあそこにも何か考えがあるのだろう。
そういえば、あの時もう一つ私に向けて言っていた気がするが、なんだっただろうか? わからない単語でちょっとスルーしたが……ええと、『私の子供に』……って言ってた気が……? 養子、か?
「二つ目。私が女になって養子に入ったとして、双方の不利益は?」
「……そうだね。まずガル・ヴィオクにとって、だけど。君が前から言っているとおり、王子の花嫁候補として名を連ねられるだろう。このままいけばガヴィーもだね。というか、君たちの年代はほぼそういう扱いになると言っていい。正直ヴィオク家にとって王家と繋がる利点もないし、私としては二人には好きな人と結婚してもらいたいが──母上はそうは思わないだろうね。君は祖母の政治的な駒に成りたくなくともならざるをえないだろう。ガヴィーも。正直、君が女になることで得られる利益はほぼないと言っていい。不利益もほぼないかな。でも……そうだね、君にとっては不利益なことが沢山降りかかるだろうね」
うっ気になる。その沢山の不利益の中身をすごく聞きたい。聞きたいが──……次に聞くのが最後だ。女を聞いたのだから、次は。
「最後です。私が男になって養子に入ったとして、双方の不利益は?」
「……ガル・ヴィオク家は荒れるだろうね。どんなに君が望んでいなくとも、周りがそれを許さない。私や妻、ガヴァルやガヴィーも君の味方になるだろうが、それ以外は敵になってしまうと言っていい。……そんな感じかな」
えっ待って気になる! 気になるよ! やっぱり男に成ったほうがいろいろ駄目なんだ!? 女になるよりも酷そうだな!? くそう、詳しく聞きたいのに終わってしまった……!




