029
少し待てば頭痛は治まったので、そっと息をつく。今日は5日。休日だ。
外はすっかり銀世界で、積もった雪は主要道路以外は自然のままになっている。最初ははしゃいでいたガヴァルとガヴィーも、飽きたのかあまり外に出なくなった。庭でやっていた稽古は、無駄に広いダンスホールでやっている。
主要道路の雪かきは魔法でやっているようで、よく歩くところやバラ園に雪はない。少し積もっても、気付いたら地面の色が見えている。
魔法はとても便利だが、出来ないことも多いようだ。本格的な勉強は5歳になってからで、せめて何か情報だけでも!、と聞き耳をたてても魔法についての話題は皆無と言っていい。なのでまだ魔法についてはわからないことだらけだ。いや、この世界もまだわからないことだらけなんだろうが。
早く魔法が使えるようになりたいし、魔法の勉強を始めたい。前世の影響か『魔法』というものにとても強い興味をもっている。やっぱ憧れだよね! 私はちゃんと魔法を使えるんだろうか? 前世流行ってたラノベでは、転生した主人公はチートか一切魔法を使えないかの完全ぶっちぎりの二択しかなかったように思うけど、私はどちらに該当するのだろうか。チートまでは望まなくとも、魔力皆無は嫌だ。せっかく魔法のある世界に生まれたみたいなのだから、魔法使ってみたい。
ぽんぽんと飛んでいく思考のまま、私は伯父の書斎へと向かう。
5日は休日で、伯父も伯母もこの日は二人そろって休み、夫婦二人で街に出掛けたり(デートですね、まだまだ熱々なようでなによりです)ガヴァルやガヴィーの相手をしたりしている(私はそれに時々お邪魔して、双子を見守ったり遊んだりしている)。
しかし、ここ最近伯父は休んでいない。何が原因でそんなに忙しそうなのかはわからないが、私のせいじゃないだろうか。勿論『ガル』である伯父は広大な領地を治めているだろうし、そういう方面で問題が起こったのかもしれない。だが、どうしても私に関する問題で頭を悩ましているのではないかと思ってしまう。
これが気のせいだったらいいのだが──……やはり今までのことを思い返すと鎌首をもたげる。
伯父の書斎の前まで来ると、書斎前に佇んでいた使用人──警備員かな?──が私の代わりに扉を叩いてくれ、入室が可能かどうかの確認をとってくれる。
4歳になってから家の中ならわりと自由に移動してきたが、流石に伯父の書斎に自由に入るなんてことはできない。前回──祖母への対策を練るために相談をしに行ったあの時が、実は初めての入室だった。
確認がとれたようで、ドアマンがこちらを振り返って頷いてくれる。それに頷き返し、「失礼します」と中に声をかけた。
「やあ、レヴィーレ。どうしたんだい?」
柔らかく目を細め、伯父は笑う。その顔はいつもより若干疲れているようだった。
私はそっと深呼吸をする。
「ラハト伯父さん。──聞きたいことがあります」
「? 何かな?」
私にソファを勧めながらも、本人は書斎机の前から動かず、手には書類を持っている。本当に忙しいのだろう。
私は首を振ってソファを断る。これから聞く内容を思えば、ゆっくり座って話すなんてことはできそうもない。あんまり長居する予定もないしね。
「私が男と成れば、“ガル・ヴィオク家”のご迷惑になると聞いたのですが──それは本当でしょうか?」
「──……誰に聞いたの?」
くしゃりと、伯父の手元の書類に皺が寄る。
伯父は柔らかい表情のままだが、手には戸惑いと苛立ちが表れている。私に向かってではなく、そのことを伝えた誰かに向けて怒りを表しているのだろう。ということは、“本当”だ。
「伯父さんは私を引き取ってくださる時に仰ってましたよね。『レン・ヴィオクのままで、大きくなったらこの家に帰ってきてもいい』と。でも、没落した家名の保存期間は一年と伺いました。そしてその一年後、私はまだ4歳。私はまだ神の子です。5歳になって私の存在を知らしめても、家名は既にない。そうなると、──私はもうあの家には戻れないのでは? それとも、あの家はガル・ヴィオク家の管理下になり、私はその家の管理人として過ごすということになるのでしょうか?」
じっと伯父の神秘的な瞳を見つめながら、問いを連ねる。こんなにも長文を話したのは初めてかもしれない。
伯父の手が震えている。力が入りすぎているのだ。その手が示しているのは苛立ちが焦りか──はたまた、私を引き取った後悔か。




