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とまあそんな感じで、気付いたら二週間が経っていた。なんと熱は一週間──5日も続いてしまった。前世のインフルでもここまで熱が長引いたことはないぞ? ……ん? これエピソード記憶じゃないか?
最初は頭が痛かったのに、気付いたら心臓のあたりが痛くなってしんどすぎた。痛いというか、熱いというか……なにかこう、血が逆流するような痛みをずっと感じていた。
死ぬのこれ? と思いながらぼんやりと過ごしていると、視界の端にちょこちょこガヴァルやガヴィーが見えた。その後直ぐ各自についている使用人が視界に入り消えていったので、勉強を抜け出してここに来たのだろう。私を心配しての行動だろうが、全く困ったものだ。
そうして原因不明(祖母が原因だと思うけど)の熱が引いても、大事をとって一週間ベッドから出してくれずゴロゴロしていた。
あまりにも暇でこっそり勉強──前世で言う教科書のようなものを読んでいたら、タリアさんに凄く叱られてしまった。タリアさんが居なくなってまた読んでいたらラグーンさんにも叱られた。そんで没収された。ちくしょう。
そんなこんなで──あれから二週間が経った。
「完・全・復・活!!」
思わず両拳を上にあげる。流石に二週間動いていなかったので身体がだるい。今日はとりあえず庭をジョギングして、師匠に稽古をつけてもらってーの男の子コースだな。淑女の日でも暫くはジョギングした方がいい気がする。
祖母から言われたことを伯父に確認しなければという気持ちもあるが、如何せん日が空いてしまったのでちょっと言いにくい。気にせず聞きに行ってもいいとは思うが、まだ心の整理というか、心の準備ができていないのだ。チキンだ? なんとでも好きに呼ぶがいい。
軽く柔軟体操をして身体を温め、ジョギングの前準備をする。ラジオ体操第一~、と脳内で曲を流しながら動いているとタリアさんやラグーンさんに変な目で見られるのだが、もしかしてこの世界に柔軟体操というものはないのだろうか? ……ないかもしれない。そうなると完全に変人だ。
十分に身体が温まったところで、軽く走り出す。
季節はすっかり冬になっていて、ちらちらと雪が降っていた。まだ大丈夫だとは思うが、もう少し経てば地面を覆い隠す日も近いだろう。“私”の日付感覚で言うと11月末あたりだろうか? この世界の今日の日付は6月第7週1日なので、『6月は梅雨』という当たり前の常識から随分と外れてしまった。
白くなる息が私の後ろへと揺らいでいく。
なんとはなしに走り出したものの、これ見つかったら怒られるんじゃないか? 病み上がりの癖に、雪がちらつく外でお供もつけずにジョギングする──あ、駄目だ怒られそう。
ふっとそんな考えに至り、慌てていつものコースから人目のつかないコースへと足を向ける。
シャクシャクと軽やかな音をたてて芝生を進み、庭園の端を通って草木が生い茂る裏庭へ。
遊園地や室内プールなどが作られた広大な庭は、それでもまだ土地を余らせており家(もはや城)の裏には手付かずの自然が残っている。一見森のように見える裏庭にはいろいろな仕掛けが施してあるらしい。見た目は完全な森なのに。
ほっほっと一定の呼吸をしながら走り回っていると、なんだか家の方が騒がしくなった。
──バレた。
聞こえてくる声に、どうやら私が部屋にいないことが騒ぎになっているらしい。やばい、やっぱりこっそり出るんじゃなくって一言言ってから出るほうがよかったかも? いやでも言ったら言ったで多分出してもらえないだろうしなぁ……。
ちなみに今の時間は5時過ぎである。早寝早起きの習慣を身につけられている私の起床時間は基本5時で、ジョギングのために抜け出したのは恐らく4時頃だろう。私を起こしに来たのにいなかったからこんなことになっちゃってるのか。
本当はバレる前に部屋に戻っている予定だったんだけど仕方ない。というか、ぼーっとしながら走ってたけど、わりと時間経過してたのね。
致し方あるまい。怒られるか。
ふっと方向転換し、家へと向かう。
森を抜け、いつも剣の稽古をつけてもらっている広場に足を踏み入れた途端、──私はその場に転がった。
「!」
ごろごろと転がって元居た場所を離れ、足を引いて体制を整え飛び起きる。
ちらちらと舞う雪の白さの向こうに見えた剣と彼に──私は声をあげた。




