022
一年間……?
両親が亡くなった時のことを私はほぼ覚えていない。
当時は日付の感覚がよくわかっていなかったので曖昧だが、知った今逆算すると……多分亡くなったのは2月の頭か1月の末だろう。この世界の葬式やら手続きが何日かかるかわからないが、遊園地の製作や室内プールが2週間という驚異の速さを考えれば、諸々の手続きは1週間もあれば終わるのではないだろうか。
いや、書類などの手続きは時間がかかるのかもしれないし、少なくとも『レン・ヴィオク』は『紫の分家第一位』だ。本家に次ぐ権力保持家だろう。そうなると通常より面倒なことが多いのかもしれない。
あくまでも予測の域を出ないので何とも言えないが、まあ大体1月末に亡くなったとしよう。私の誕生日は3月7週の3日だ。家名の保護が一年間として──私の5歳の誕生日を迎えるのに、約2ヶ月の期間が空いている。
……遅いとは、こういうことか。
いやでも、私の誕生日を詐称すればいいのではないだろうか? 2ヶ月後とは言え、5歳になるのだ。それに祖母は私の正確な誕生日を知らないはず。これは私の動揺を誘う言葉ではないだろうか。
そう思うと、少し冷静になれた。ここまで思考が回るのは“私”であるからであって、これが本当の4歳児であればこうはいかないだろう。……というか、4歳児に惑わすような言葉使うんじゃねえよ。確かに子供の方が騙しやすいけどさ。
「……両親が亡くなった時には私はもう4歳でした。なので何が遅いのかわからないのですが」
「あらぁ、本当に頭だけは回るのね。賢いところはオストに似たんでしょうけど、悪知恵が働くところはあの××似ね」
前回も聞いた「恐らく母さんを貶めている言葉」に眉根が寄った。多分私が理解していないことを知った上で言っているのだろう。質が悪い。
「でもね、神殿では神の子の誕生日を全て記録しているから嘘はつけないのよ」
「……嘘ではありません」
「4歳なのに神殿に行って神託を受けようとすれば、本人だけじゃなくて保護者にも罰が下るわよ」
その言葉が嘘でも真実でも、言葉に詰まってしまった。
正直、私だけが罰せられるなら嘘をついて来年の1月の頭にでも行ってやろうと思っていたのだ。
幸いにも“私”のお陰で、多少の年齢詐称で不利になることはほぼない。体力の面で多少不利になるかもしれないが、それも誤差の範囲だ。ほぼ丸々一年違う誕生日でも同級生と一纏めにされるのだから、たかが2ヶ月の差異など問題がない。
しかし、保護者にも罰が下るのなら──今の私の保護者は伯父と伯母だ──その方法は、使えない。
その罰がどういったものか、どの程度の罰なのかはわからないが、世話になっている伯父と伯母に恩を仇で返すような真似はしたくない。少なくとも今現時点で既に迷惑をかけているのだ。伯父や伯母は気にしていないと笑って、まるで本当の自分の子供のように接してくれているが──きっと私がここにお邪魔しなければ、祖母も来なかっただろう。……断言はできないけれど。
それにしても、そもそもどうやって“私が存在していること”を祖母は知ったのだろうか。──この根本的なものも知らない時点で、私は祖母に負けている。
無言でいる時間が長かったからか、祖母は心底面白そうににんまり笑ったあと、「やっぱり4歳になってなかったのね」と言った。
「……罰云々は嘘ですか」
「いいえ、本当よ。そもそも神を騙せるわけないじゃない。まあ騙そうっていう考えなど最初から持たないのが普通ですけれどね」
ええどうせ私は普通じゃないですよ!
どうしても日本人の感覚が残っているため、神という存在が遠く感じる。これがもし日本人じゃなくて──いや、日本人でも宗教を信じている立場であったのなら、こういう考えも持たなかったのだろうとは思うが。いやうん待てよ? 私は“私”の個人的なことは全部忘れているわけだから、もし“私”が熱烈な信者だったとしても意味がないのでは? 日本の一般的な常識と知識しか持っていない私がどうこう言える問題じゃなかった。神が信じられている国に生まれていればこうではなかったのだろうなぁ。
「順当に行けばレン・ヴィオクはこのまま没落。あなたは5歳の誕生日後にお披露目があったとしても、もうレン・ヴィオクは名乗れないわ。家名のない子になるか、ガル・ヴィオクに養子として入るかだけれど……ラハトは優しいから養子に入るように言ってくるでしょうね」
「……私は別に、家名などなくとも……」
「家名がなくなれば平民落ちよ。5歳になったらそのまま市街に放り出されるわ」
えっ、5歳でホームレスですか? 厳しすぎません?




