021
「……どういう意味ですか?」
私のためという言葉に眉を顰める。女になって祖母の駒になる以上に男になれば悪いことがあるのだろうか。
「あなたが男に成れば、ガル・ヴィオク家の跡継ぎにと担ぎ上げられるでしょうね」
「……はい?」
この人は一体何を言っているのだろうか。私がガル・ヴィオク家の跡継ぎに?
ガヴァルとガヴィーは三番目と四番目のガル・ヴィオク家の子供だ。祖母に存在を知らさないようにしているのは、きっと私のように駒にさせようと近づいてくるのを阻止するためだろう。王子と同い年らしいし、婚姻相手としては丁度いいのだから。
存在が知らされている一番目と二番目は現在、学園に通っているらしい。世間との繋がりがない私でも、それが長男と長女であるという情報はもっている。……名前を入手することはできなかったけど。
いやおかしくない? この家の子なんだよね? そこまで徹底して隠す必要ある? どうやら上の性別によってどちらにするかの判断を鈍らせるのを阻止するためらしいが──5歳になるまでは兄や姉に会えないのはどうなんだろう。
話を戻そう。
そう、ガル・ヴィオク家には長男がいる。ガヴァルがこのまま男に成るなら、次男もいることになり跡継ぎの問題を考える必要はないだろう。これで一番目と二番目が両方姉ならば、必然的にガヴァルが跡継ぎになるだろうが。
この世界の跡継ぎ問題についてはよく知らないが、普通は長男が継ぐものではないのだろうか? もし長男に問題があれば次男が継ぐだろうが──でも少なくとも、部外者である私が跡継ぎ問題に関与することはないはずだ。
私はレヴィーレ。伯父と伯母から養子に入るかと打診されたが、私はレン・ヴィオク=レンのままである。つまり、ガル・ヴィオク家とは関係のないレン・ヴィオク家の一人ということだ。……まあ、レン・ヴィオク家はもう私しかいないのだが。
レヴィーレと呼ばれ慣れていたというのもあるし、私以外いなくなってしまったレン・ヴィオク家を残しておきたいという気持ちもある。家も伯父の約束通り定期的に掃除をされているらしいし、独り立ちができるようになればその家に帰るつもりだ。
『レン・ヴィオク』である私がどうして『ガル・ヴィオク』の跡継ぎに担ぎ上げられるのだろうか?
あまりにも意味不明で眉根を寄せていたのを見た祖母が、「変な顔をするのはおやめなさい」と馬鹿にしたように笑った。それにむっとしながらも、やはり理解はできずどうしてですがと言葉をつなぐ。
「ガル・ヴィオク家には長男がいるはずです」
「あら、それも知っているの? あなた神の子なのに世間のこといろいろ知ってるじゃない。噂好きなのね、女に向いてるわよ」
「話を逸らさないでください。普通跡は長男が継ぐものではないのですか? それに私はレン・ヴィオクです。いくらガル・ヴィオク家にお世話になっているとはいえ、私には継ぐ資格も理由もありません」
「そうね。もしもレン・ヴィオク家があなただけじゃなくもう一人子供がいて、レン・ヴィオク家が『レン・ヴィオク家』として動いていれば、あなたが跡継ぎに担ぎ上げられることもなかったでしょうね」
さっぱり理解できない。どういう意味だろうか。
「……噂好きでも、しょせん神の子ねぇ。知らないはずのことを知っていて得意になったつもりかしら? みっともないからお止めになったほうが良くてよ」
いらっとしながらも、正論のため無言に徹する。
──確かに、大分この世界のことを知ってきたし調子に乗っていたのかもしれない。まだまだ自分には知らないことが沢山ある。社会や世論をほぼ知らない私はまだ大人とやりあえる情報も言葉も持たない。
「……すみません」
「まあいいわ。あなた、今レン・ヴィオク家がどうなってるのか知っていて?」
「……世間的にはレン・ヴィオク家は没落したものと思われているでしょうね。私の存在は知られていないのですから、もう血は潰えたものかと」
「そうね。いくらあなたが『レン・ヴィオク』であったとしても、知られていなければ意味はないわ。来年、あなたが5歳になればレン・ヴィオク家はまだ潰えていないことを知らせることができるけど──それじゃあちょっと遅いのよねぇ」
「…………どういう、意味ですか」
今レン・ヴィオク家は存在していない。伯父が家を守ってくれているようだが、それはきっと世間から見ればガル・ヴィオク家が保護・運用しているように思われていることだろう。
しかしそれが何か問題があるのだろうか? 遅いとは、どういう意味だろうか?
「あなたが知らないのは無理がないけれど──没落した家名の保護は一年間なのよ」




