018
祖母の突撃訪問から一週間後。彼女は再び訪れていた。今回もアポイントメントをとっていない常識外れな訪問である。
(子供に対して気を使うということを思いつかないタイプというか……自分の子供には何しても許されるとでも思ってるのかな。どちらにせよ非常識だよね)
再び玄関が五月蝿くなるのを、玄関からは見えない廊下で聞く。まあそんな事をしなくとも聞き耳をたてれば聞こえてくるのだが、これは誰にも教えていないため、常識の範囲内での立ち聞きしているのである。
ちなみに、本日の服装は鮮やかな青色のシンプルだがリボンが可愛いドレスだ。タリアさん監修の髪型は、編み込みとハーフアップの合わせ技で、青色と白色の小さな生花が所々に散りばめられている。自分では絶対できないが、可愛らしくてテンションが上がった。
ガヴァルとガヴィーには、部屋から出て来ないように伯父さんが言いつけてある。恐らく今日は文字や簡単な計算などの座学がメインになるだろう。机の前にじっとするのは苦手なようだが、今日だけは頑張ってほしい。
「タリアさん、これからの私の行動全て、私の責任だからね。もし何か起こっても、『わからない』で通してね」
「…………」
「タリアさん」
「……はい」
「うん、ありがとう」
斜め後ろに佇むタリアさんに振り返って『お願い』をする。普通(“私”の普通だ)4歳がこんな言動はしないと思うが、元々いろいろとやらかしてしまっているし、私は大人びているという認識をしてくれているようで正直助かる。
そうそう、4歳になって教養だけでなく座学も始まったが、予想通り私は普通よりもできるようだった。
ガヴァルとガヴィーが4歳になった後は一緒に座学を受けることとなったが、レベルが違いすぎて即座に別々になった。わざわざ私のために家庭教師を用意してくれた伯父さんには、本当に頭が上がらない。
閑話休題。
私はさっと姿勢を正すと、未だ五月蝿い玄関へと足を動かす。後ろからタリアさんがついてくる気配がして、そっと両手を握り締めた。
「──お祖母様」
ただっ広い玄関ホールには、伯父と祖母、多くの使用人が集まっている。服装が若干違う使用人は、恐らく祖母が連れてきた者達だろう。主人の都合に振り回される使用人も大変である。
私の声に反応し、その場にいる全員がこちらを向く。視線が絡まったのを確認して、そっと微笑んだ。
「あら、レヴィーレちゃん! こんにちは、今日は可愛らしいのねえ! よく似合ってるわ!」
「ありがとうございます」
──あなたの毒々しい赤黒いドレスは正直どうかと思うよ……いや好きな服着ればいいけどさ。
相変わらずの騒々しさで、祖母は大袈裟に声をあげる。女の子の格好をしているからか、最初から上機嫌だ。
私がゆっくりと階段を降りると、あと数段で終わりというところで伯父が手を差し出してくれた。その手を取って、階段を降りきる。
『ありがとう』と言うようににっこり笑って見上げると、伯父は少し心配そうな、苦そうな表情でこちらを見てきた。にっこりと見つめたまま、ぎゅっとその手を握り締める。4歳の思い切りの力なんてたかが知れてるが、私の気持ちは伝わっただろう。
するりとその手を離し、祖母に向き直る。にこにこと上機嫌に笑っている祖母の瞳は笑っていない。頭の上からつま先までじっくり観察されるのを感じながら、私は「そうだわ」と手を打った。
「お祖母様、よろしければこれから一緒に私とお話しませんか? 今日の教養はお茶会ですの。お祖母様がよければ、私のお手本になってくださいませんか?」
「あら、いいわねぇ。是非参加するわ」
「ありがとうございます! では、準備を」
お茶会に誘われるのが目的だったのだろう、途端に祖母は身体を揺らし、こちらへと促す使用人の声よりも先に歩き出した。元はここに住んでいたのだから、何処でお茶会をするかを知っているのだろうが──案内よりも先に動いてしまうとは、到底『お手本』とは言えない。
視線を感じ振り返ると、心配そうな伯父とタリアさんがいた。
私がこれから祖母の相手をすることが不安なのだろう。でも、それを阻止したくともどうしようもないこともわかっている。だからこそのこの表情だ。
私は本当に愛されてるなぁと思いながら、二人に笑いかける。淑女の微笑みではなく、悪戯っ子の男の子っぽい笑みを意識して笑えば、二人はちょっと安心したように、困ったように微笑んだ。
私は踵を返し、お茶会の会場となる部屋へと向かう。控えていた使用人が近付き、ドアをノックし私の訪れを告げた。
中の使用人が返事をし、ドアが開かれる。
──さて、勝負だ。




