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──これだ!
聞こえてきたその声に、私は走るのをやめ壁に背中を預ける。目を閉じ、その声に集中した。こうすると聞きたい声だけを意識して聞こえるようになるのだ。聞き耳様々である。
(え? なに、国王様の子がどうかしたの)
(どうやら“王子”に“成る”らしいわよ)
(あら、それはおめでたいわね! ……って、あんたそれどこからの情報よ)
(ほら、この前国王様の子の4歳の誕生日だったじゃない? その時に王子に成るって宣言したって街で聞いたのよ)
(ああ、あんた昨日休みだったんだっけ。街におりたんだ?)
(そうそう。もう既にお祝いムードよ。これで5歳になって本当に王子に成ったらどんな規模になるのかしら)
(ああ~……まあ二週間は国総出でお祝いするんじゃない? でもよかったわね。王の第一子だもの、王子になられるのなら国王様も安心でしょうね)
(そうね、まあそう言うように教育されてきたんでしょうけど。そうでなくとも王位継承者第一位ですもの。寧ろ“姫”に成るほうがその後大変でしょうから、いいんじゃないかしら?)
(確かにそうね。性別の教育は4歳になってからって決まりがあるけど、家を継ぐであろう第一子はその前から教育してもいいって暗黙の了解があるし)
(そうなると、本当にレヴィーレ様はご両親から愛されてたのね)
(ほんとほんと。だって4歳になるまで本当に知らなかったんでしょ? 普通なら男に成るように3歳くらいから男として育てるのにね)
(本人の意思を尊重させてあげたいって仰ってたらしいわ)
(ほんと素晴らしい方だったわね……)
──……父さん、母さん。
予想外の話題に唇を噛み締める。目頭が熱くなってきたのを感じて、聞き耳をたてるのをやめてその場にしゃがみ込んだ。
愛されていた。愛していた。
家族として過ごした時間と記憶は少ないけれど、それでも私はあなたたちの子供だ。この世界の死の概念はわからないが、もし天国があるのなら、いつか私がそこに行った時に胸を張って再開の挨拶ができるように頑張ろう。
そのためには。
深呼吸をして、目を開ける。
予想外の話の流れにより、両親についての情報を得たことによって動揺してしまったが、今重要なのはそこじゃない。
──国王様の子、ね。
この国には王がいる。その王がこの国を統治している。……“私”を思い出してから、私は貴族なんじゃないかと思っていたが、どうやら本当に貴族であるという線が濃くなってきた。
というか、子供の誕生日に庭に遊園地作ったり室内プール作ったりする伯父がただの金持ちだとしたら、逆に泡吹いて倒れそうなので貴族だと断言させてほしい。そして安心させてくれ。
国王の子がこの前4歳になり、王子に成ると宣言した。
この重要な情報を今日得られたことは幸福だった。できれば昨日以前に知りたかったが──まあそれでも閉鎖的な空間でこの情報を得られたのは素晴らしいことだ。
きっと伯父はこのことを知っているのだろう。そして、
──あの祖母も。
きっと祖母は近々またこの家に乗り込んでくるだろう。いくら伯父が当主であっても、さすがに実の母を投獄できないだろうし。その次の機会までにどう対応するか対策を考えておかないといけない。
私は立ち上がり、対策を練るためその場から離れる。ちょっと落ち着かなかったため庭に出て剣を振り回していたら、タリアさんに見つかって怒られて取り上げられてしまった。勉強じゃなくて運動だって主張しても駄目だった。解せぬ。




