014
「そうよ、流石に気付いたのね? そういう賢いところはオストに似たのかしら」
にんまりと祖母が笑う。
そう、そもそも最初から──自己紹介された時から“無性別である”と主張しているのだった。
レヴィーレ……紫の分家第一位の一子だという呼び名は、性別が決まる4歳までの仮の名前だ。性別が決まってようやく、その性別にあった名前をつけられる。そう、伯父さんからも言われていたはずなのに。
「……ですが、“レヴィーレ”が“私の本当の名前”だったらどうするのです?」
「いいえ、ラハトもオストもそんな××な名前は付けないわ。わたくしの子は××ではありませんもの。まあもしかしたらあの××がそう付ける可能性もありますけれど──流石に、ねえ?」
罵倒の語彙力が凄くないか? というくらい、とりあえず今まで理解できなかった単語は全て違う。罵倒であると決まったわけではないが、もうここまでくると疑いようもなかった。
──この人、嫌いだ。
どうやら私自身を嫌っているわけではなさそうだが、その言葉の端々で“私を通した誰か”を貶めているように思う。私の勘が正しいのであれば、この人が貶めている人物は──……。
「……いい加減にしてください」
今まで聞いたことがないような、地の底から響いてくる低い声を出したラハト伯父さんは、誰が見てもわかるようにキレていた。後ろに控えていた使用人たちが、はっと姿勢を正す。私も思わずそれに倣って背筋をのばした。
「実の息子の葬儀にも出なかったあなたが、今更一体なんのおつもりなのですか」
「あら、わたくしだってオストは愛していたもの。わたくしも出たかったわ。三日三晩泣き続けて、それからふた月ほど部屋から出る元気もなかったのよ。体重もごっそり減ってしまったわ」
──それで!? その体型で“ごっそり減った状態”なの!? いやもう逆に健康が心配だよおばあちゃん!! 逆によかったな減って!!
「出たかった、ということはどうしても外せない用事があった、と? 実の息子の葬儀より優先される用事とは一体なんだったのです?」
「あら、用事なんてないわ。ただ──」
一度言葉を区切った祖母は、その顔を憎悪に歪ませる。ちらりと私に視線をやり、そして何かを睨むかのように空中に視線を彷徨わせた。
「──あの××の葬儀に参列したくなかっただけよ」
背後に控える、いつも冷静沈着なラグーンさんの怒りがこちらに伝わってくる。それで、なんとなく予想していた“私を通した誰か”が誰なのかがわかり、その罵倒の単語もなんとなくわかった気がした。
──この人、私の母さんを嫌ってる……いや、もう嫌うとかいうレベルじゃない。憎悪してるんだ。
どうして憎悪しているのか、その背景は知らないし知りたくもないが、記憶に残る優しい母さんを思い出してどこに嫌う要素があるのかと憤る。
むしろ、そんな嫌っているであろう母さんの血をひく私に今更──本当に今更だ──どうして会いにきたのか疑問だ。そして、どうしてそんなに“女の子”にしたいのか。
「ともかく、帰ってください」
「何よラハト、何の権限があってわたくしを──」
「本家の当主は私だ。いくら母上であっても、当家へのこの行為は不法であり罰せられても仕方のないことだとお忘れになられましたか? このまま捕らえて牢に閉じ込めてもいいのですよ」
「なによ、可愛げの無い子ね」
冷たく言い放ち、お帰りはあちらですと玄関の方を指さす。
有無を言わさない息子のその行動に若干たじろいだ祖母は、私を見てまたにっこりとその肉を持ち上げた。
「またね、レヴィーレちゃん」
「会える機会がございましたら、是非」
遠回しに、会える機会が存在しないであろうことを告げれば、「本当に可愛げの無い子」と踵を返す。可愛げなくて結構ですけど〜?
「じゃあ、今日のところはこれで帰るけれど……次はあなたの子供を紹介しなさいね」
「…………」
「また来るわ」
そのまま、祖母はまた使用人を引き連れて歩いていく。その背が消え、完全にいなくなってから──伯父さんは長いため息をついた。
「ラハト伯父さん」
「……ごめんね、レヴィーレ。私のせいだ」
「いいえ、私が騒いでしまったのが悪いのです。そうでなければ気付かれずに済みました」
「いいや、あの人は何があっても乗り込んできていただろう……もう少し私に、咄嗟の判断ができれば……」
あの人は昔から苦手なんだ、と首をふる伯父は疲れきっていて、わかりますと大きく頷いた。アレと血の繋がりがあるとか、正直最悪だ。きっと伯父さんと父さんは反面教師にしてきたのだろう。
そのままそっと抱きしめられるのを享受し、その体温の温かさにそっと息をつく。自分が思っていたより緊張していたらしく、身体の力が抜けるのを感じた。
「レヴィーレ……君が……君がたとえ、女の子になっても……男の子になっても……、私がちゃんと守るから。君の好きな方を選んでほしい。……何も心配しなくていいから、全て私に任せてくれ」
「……はい」
そう言って身体を離した伯父さんは、何かを決意したような強い眼差しで微笑む。
私はそれに頷いて、バレないようにそっと拳を握りしめた。




