013
「ねえレヴィーレちゃん? 今いくつなのかしら? それにどうして男の子のような服装をしているの? しかも髪も適当にして。可愛いのに勿体ないわ。ねえラハト、あなた一体どういうつもり? どうしてこの子にこんな格好をさせているの?」
「……今日はこれから剣術を……」
「あら! 必要ないわ、だってレヴィーレちゃんは女の子になるんだもの。ねえレヴィーレちゃん、これからお祖母様とお茶会をしないこと? ええ、そうねそれがいいわ! そうとなれば早速ドレスに着替えないとね、レヴィーレちゃん。ほら、あなたのお部屋はどちら? 一緒に行きましょう」
………………なんだこの人。
あまりのマシンガントークに、話しかけられているにも関わらずぼんやりとしてしまった。我が道をゆく人なのだろう。こんな人からラハト伯父さんやオスト父さんが生まれたのかと思うと、よく真っ直ぐに育ったなと関心してしまう。
そして私を“女の子”だと断言し、知らないであろう自室に引っ張っていこうとするのに反感を覚えた。
「失礼ですが、私は男です」
私のその言葉にはっとしたのは、伯父さんとラグーンさんだった。ひたりとその瞳を見つめ、口裏を合わせるよう目で頼む。
「……何を言ってるのかしら? あなたは女の子になるのよ」
「太母様が何を仰られているのかわかりかねますが……私は男で、女にはなれませんよ」
「そうです。レヴィーレは男の子です。女の子だなんて戯言はやめてください、母上」
「……あら、あなたまでそんな事言うの? ラハト」
咄嗟に『既に儀式を終えて身体を作り替えてます』作戦を実行したが、祖母の反応的に正解とは言えないようだ。
どこからか出した、これまたセンスの悪いと言ってはいけないと思うが、ふわっふわのファーにギラギラの宝石がついた扇子のようなもので口元を隠した祖母は、その瞳に剣呑な色を乗せた。
「母のことを侮るのも程々になさいな」
「……侮ってなど」
「××にしていると言った方がよろしくて?」
この祖母の言葉は、時々理解できない。ここ数ヶ月で大部分の単語を理解し、発言できるようになったと思っていたのだが、まだ勉強が足りなかったようだ。
──それとも、辞書に載っていないような悪い言葉なのか?
前の発言からも、今回の発言からもなんとなく推測できるように、わからない単語は悪い意味を持っていると断言してもいい。
希望してすぐプレゼントされた分厚い辞書は、高貴な人が使う為の辞書──つまり、『馬鹿』や『阿呆』などの言葉は載っていないのである。
「レヴィーレ、あなた今4歳でしょう」
「……!」
疑問じゃなく、確定。
細められた冷たい眼差しが私に降り注ぐ。日本人の知識はあれど、私としては対人経験があまりないため今の少しの会話だけで何をミスしたのかわからなかった。
「……“どうしてバレたのか”、って顔をしてるわね? 駄目よ、いつ何時でも動揺を見せてしまっては。×××××な××だと思ったけど、やっぱり子供ね。わたくしを出し抜こうなんていい度胸じゃない。そういう可愛げが無いところはあの××に似たのかしら」
「っ母上! いい加減に……っ!」
「あら、事実でしょう?」
じっと祖母を睨み付けていると、「ほんと×××な子」と軽蔑した眼差しを向けてくる。祖母ということは血が繋がっているだろうが、仲良くなれる自信は遠になかった。
祖母はジロジロと私を値踏みするように上から下までじっくり眺めると、「いいわ、わたくし優しいですから。どうしてあなたが無性別で4歳だと気付いたのか教えて差し上げましょう」とにんまり笑った。頬の肉が持ち上がり、肉に埋もれた瞳が糸のようになる。目を大きく見せるためのアイライナーも、ここまでくると意味をなしえてない。
「一つ。わたくしの“女の子になる”という言葉に何の反応を持たなかったわ。3歳であれば性別に関する知識は持っていないものですもの、少しくらいの動揺や疑問を顔に浮かべるはず。勿論家によっては──××な生まれの家ならば先に話してしまうところもあるでしょうけど、ラハトはそういうしきたりをちゃんと守る子よ。上手いこと無表情を取り繕っているのかとも思ったけど──まだまだね。だからあなたは今少なくとも4歳で、性別に関することを教えてもらっていると思ったのよ」
「……なるほど。ですがその条件ですと“4歳以上”ということになりませんか? 私が5歳でも6歳でも有り得ることでしょう」
「あら、本気で言ってるの? あなたならもう気付いてるんじゃない?」
ちらりと周りの大人を視線だけで見回す。
伯父さんはまた苦虫を噛み潰したような顔をしていて、ラグーンさんは一見無表情だが、その両手は拳を握りしめておりブルブルと震えている。追ってきた使用人たちはおろおろと泣きそうな顔をしたり、怒ったような顔をしたり、様々だ。
やはり、私にはまだまだ対人経験が不足していたらしい。実際、家族と第二の家族、使用人以外の他人と関わったことがなかったのだから──まあ、今の年齢を考えるとそれも仕方のないことだが。
根本的な理由を忘れるくらいにはそれに馴染んでいて、咄嗟の判断ができなかった。きっと伯父さんもそうなのだろう。
私はゆっくりと目を伏せ、そうして顔を上げた。
「──私が、レヴィーレ……“紫の分家第一位の一子”だから、ですね」




