012
そうしてやってきた人は──紫色の髪(不自然な濃さ……染めてる?)と同色の瞳を持った、伯父さんよりも年上のおばさ……お婆さん? だった。なんか随分若作りをしていて、見ててイタい。まあ自分の好きな服を自分が着たい時に着ればいいと思うけど、流石にショッキングピンクはないんじゃないかな。しかも光沢のある生地を使っているようで、動く度にキラキラと目を刺激してくる。
思わず顔を顰める。落ち着いた若草色とかどうですか。目にも優しいしおススメだよ。髪と同系統がいいなら、紺とか藍色とかそっちもいいんじゃないかな。
どんだけ重ねているんだろう厚手のファンデーション(この世界にも日本に似た化粧品はあるが、質はこちらの方が悪いみたい)に、真っ赤な口紅。目元は真っ黒で少しでも目を大きく見せようとする女心が見える。う〜ん、皺を隠したいんだろうけど……隠さない方が目立たない気がする……。
あと顔をどうこうするより体型をどうこうした方がいいんじゃないかな……細すぎは駄目だとは思うけど、流石に太り過ぎじゃない? 横が普通の人間の二倍はあるよ? 健康が心配。
そう私が考えていることなど露知らず、そんな化けも……ゔぅんっ……お婆さんは、私を見て「あらあらまあまあ!」と今まで聞こえてきた声のトーンより数トーン高い声をあげた。
「あなた、もしかしてレヴィーレちゃん!? 今いくつになるの!?」
「……はじめまして、おはようございます」
どう返していいかわからなかった為、とりあえず無難に微笑んでおく。因みにさっきの意訳は『はじめて会うし自己紹介もしていないにも関わらず名前を呼び、しかも重ねて別の質問をするとはどんな神経をしているのですか? しかもこんな朝早くから訪ねてきて、貴女には常識というものが備わっていないのでは?』だ。この嫌味が通じないのであれば、その程度の人間だというもの。
私の言葉を聞いて、「あら」と少し嫌そうな表情をしたお婆さんを見て、ああ嫌味は通じたのかと少しだけほっとする。でも感情を顔に出すとは、わざとなのか隠せない馬鹿なのか判断しかねるところだ。
「なぁに、可愛げのない子ね。誰に似たのかしら。ああ、あの××に似たのかもしれないわね。なら仕方ないわ。可哀想な子」
「……?」
「母上っ!!」
前後の言葉でなんとなく馬鹿にされたのはわかったが聞いた事のない単語に眉根を寄せていると、追ってきたのであろう伯父さんが紳士ギリギリ許容範囲内の競歩で姿を表した。
急いでいても紳士であることを忘れない伯父さんカッコいい! 見習いたいです! 目指せ伯父さんみたいな紳士! ……ん? 今伯父さんなんて言った? 母上……?
「もういない方を貶めるのはおやめください!」
「あらラハト。貶めてなんかいないわ、事実だもの」
「だからそれが……っ!」
「あの、伯父さん」
ぶるぶると両拳を握りしめ、今にも殴りかからんとする伯父さんの意識をなんとかこちらに持ってこさせようと声をかける。
射殺すような視線をお婆さんに向けていた伯父さんは、私に目をやるとふっと目元を綻ばせた。
「この方は……」
「……ああ……」
初対面の人会う時は、基本はその橋渡し役となる人物が互いを紹介し合うのがマナーだ。要は、AとCを引き合せる時は、AとC両方の知り合いであるBがその場を調節し、AにはCを、CにはAを紹介してやっと知り合いになるのだ。そこから仲を深めるかはそれぞれによるが、片方が一方的に知っていても紹介されるまでは声をかけてはいけないルールがある。
にも関わらず、このお婆さんは私に声をかけ、名前を呼び、質問をしてきた。あえてルールを無視をしたのか、ルールを知らなかったのかわからないが──ともかく、第一印象は既に最悪と言えよう。
もちろんこのルールには抜け道もあるのだが、今は割愛しておこう。
「……レヴィーレ、君は初めて会うかもしれないね。この人はガル・ヴィオク=アザベル=ウィオスラクト。私の母上……そして、君の祖母だ」
「ウィオスラクト……?」
「まあ! やっぱりあなたがレヴィーレちゃんなのね! まああ……この髪の色。きっとオストに似たのね!」
そう言ってお婆さん……祖母は私の両手を無理やり掴み、こちらを見るように引っ張ってきた。よろめく身体にラグーンさんが身動ぎするがそれを目で制し、こちらへの紹介がまだなのにも関わらず手を掴むという行動にどうすべきかと伯父を仰いだ。
伯父さんは苦虫を噛み潰したような表情で掴まれていた私の手をそっと剥がすと、嫌そうに──本当に嫌そうに、私を祖母に紹介した。
「……母上、この子はレン・ヴィオク=レン。貴女の二番目の息子の……レン・ヴィオク=オストの子供だ」




