011
「レヴィーレー!」
うげっと反射で肩を竦めてしまったのは許して欲しい。いつ何時もポーカーフェイスを、と教えられているが、まだまだ子供なのだ。言い訳? 純粋な子供じゃないだろって? うるせえ。
そろりと振り返ると、廊下の奥から使用人を置き去りにしてこちらに走ってくるガヴァルの姿があった。にこにこと手を振る姿はとても可愛いが、今はちょっと勘弁して欲しい。
「レヴィーレも今からいくのー!? ししょーもう待ってるかなー? いっしょにいこー!」
「ガヴァル、しーっ! しーっ!」
口に指先を当て黙るようにジェスチャーをするが、全く伝わっていないらしく「何そのポーズ? なんか面白いね!」と真似している。
いや可愛いよ? 可愛いけどね?
そうこうしている内に、こちらの声に気付いたのか玄関の声が大きくなった。
「──えたわ! こちらね!?」
「──ださい、突然上がり込むなんて非常識だ!」
「──、お待ち下──!」
バタバタと数人が走る音とそれを咎める使用人たちの声。どうやら此方に向かっているらしい。
ガヴァルを見れば、その大声や物騒な物音に気付いたのかビクリと身体を竦ませ、笑っていたその顔が心細い表情へと変わる。遠目からでもガヴァルの目元に涙が光ったのが見えて、舌打ちしたい心持ちだった。
そうこうしている内に、やっとガヴァル付きである使用人が追いついたようで、さっとその身を抱き抱える。そして目線を私に向けたのを見て、こくりと頷いてやった。
「レヴィーレ様、」
「いい」
ラグーンさんが小声で窘めるのを遮り、再度ガヴァル付きの使用人に頷いてみせる。
それに戸惑いを見せた使用人だったが、ラグーンさんにもちらりと目をやり、やっと頷いた。胸元で縮こまる怯えた子供に何か呟いたあと、近くの部屋へとその身を滑り込ませる。
そうしてただっ広い廊下には私とラグーンさんだけが残されたが、声の主たちは正確にこちらに向かってきているようで、今いる人数に反し五月蝿いことこの上ない。
「レヴィーレ様……」
「いいんですラグーンさん。どなたかは知りませんが、どうやら無作法な方のようですし、目的はラグーンさんの行動から察するに、私、か……ガヴァルでしょう? ここに誰かがいない限りこの付近の部屋の扉を見つかるまで開けていたことでしょう。そうなると下手をすれば私もガヴァルも両方見つかります。その場にいたあなた達ももしかしたら咎められるかもしれません。なら、どちらかがこの場にいた方がいい。そしてこの場合、正確に今の状況を理解している私の方が適役だった。それだけです」
初めてこんなに長文を喋ったかもしれない。数歩前に出て、ラグーンさんを振り仰ぎ微笑めば、しわくちゃでいつも笑っているように見える細目をこれでもかと開いていた。どうやら驚いているらしい。
そして彼はそっと胸元に手をやり、深々と頭を下げた。
「レヴィーレ様のお望みどおりに」
「ありがとう、爺」
わざと昔の呼び名と砕けた口調でそう言えば、嬉しそうに微笑んでくれた。4歳になってから始まった丁寧な口調で話すという勉強は男女ともに共通で、多少の語尾の違いはあれど目上の人に対しては丁寧に……日本でいう『丁寧語』を使うよう指導された。
まあ元々そういう話し方になるように気をつけていた分もあって割と直ぐマスターしたのだが、どうやらラグーンさんはちょっと寂しかったらしい。(ラグーンさんは前の家での筆頭執事だったので敬語、タリアさんは私付きのメイドで私の方が立場が上なので砕けた口調が許されている)
そうして少しだけほっこりと微笑みあっていると、バタバタという今まで聞いた事のない騒音とともに、問題の方と伯父さん、数人の使用人がこの場にやってきた。




