第二話:繰り返す夢(1)
朝焼けがまぶしい。
「・・・。」
徹夜してしまったアルテイシアは、目の前で幸せそうに惰眠をむさぼる王子を(ある意味)覚悟を持って拳を握りしめ・・・。
殴った。
一発や二発ではなく、複数回殴った。
パーではなく、グーで。
「う〜ん。むにゅむにゃ」
幸せそうな寝顔に殺意が沸く。
昨晩王子が消えて、まず真っ先に向かったのはロウの所だった。
必死だった。無我夢中だった。
しかし、いつもは隊長室にいるはずのロウの行方はしれず、黒曜隊は誰一人としていない。
本当に真っ青になって、城中を駆けずり回った。
それなのに、朝戻ってきてみれば探されていた本人は惰眠をむさぼっている。
それに、あれほど反発していたロウに真っ先に頼ろうとした自分が不甲斐なくて情けない。ほぼ無意識にロウのもとに行ったのだ。
消化できない怒りに駆られて、ついつい短剣を引き抜いて振りかぶる。
今ならわかる。この王子は殺されて当然だ。
殺ろう。
チャンスは今しかない。
「て、洒落にならんからやめろ。何やってんだ。」
あと一歩のところで、たくましい腕に止められた。
短剣を握った手がびくともしない。
「ロウ・・・。」
そこには、昨日あれほど頼りたかった黒曜隊隊長があきれた顔で立っていた。
その顔を見たら、なんだか安心してしまって笑っていた膝から一気に力が抜けた。
「あっ・・・。」
「おっと。なんだよ腰が抜けたのか。」
気がついたら片手で腰を支えられていた。
とたんに安心していた心が、不安で恥ずかしくてどうしようもなくなる。
「はっ離してください!自分で立てます!!」
あわてて突き飛ばそうとするが、ロウの身体はびくともしない。
「嘘つけ。一晩中走り回ってたんだろ?休む時間をやる。寝てこい。」
急に世界が逆転する。
気がつけばロウの肩に担がれていた。
「なっ。なんで知ってるんですか!まさか、知ってて!?」
アルテイシアがじたばたともがいても、がっしりと腰を抱えられていてはどうしようもない。
「城内で俺が知らないことはない。ま、良い経験になったろ?次は気をつけろよ。」
にしてもお前腰細いなー、ちゃんと食ってんのか?など言いながら王子の部屋を出て行く。
「僕には王子の警護が!」
「変わりをよこした。もう良いから寝とけ。」
そう言って仮眠用の部屋に放り込まれる。
それでも起き上がろうとすると、ハンカチを口に押し当てられる。
「!?」
「おやすみ。3時間だけだから、根性で起きてこい」
眠り薬を使って、3時間で起きられるわけがない。
そう反論したかったのに、急激な睡魔に襲われてアルテイシアは意識を手放した。




