第一話:自らに捧げる鎮魂歌(4)
やっぱり。
王太子のボディガードを1時間、たったそれだけでアルテイシアは結論を下した。
やっぱり、厄介事だった。
王太子は、とんでもない人物だった。
まず、王太子の部屋に通されてはじめに目に入ったものは、やたらお顔が優秀な騎士たちだった。そして、その騎士たちはお顔しか優秀でないことがこの1時間でわかった。
この1時間で、王太子が6回も命をねらわれたのだ。10分に1回。しかし彼らは見ているだけ。
お茶に毒が入っていようと、贈り物に毒虫が潜んでいようと、上から物が墜ちてこようと、明らかに不審な男が近寄ろうとも完全に無視、見ているだけ。
これなら置物の方が投げられるだけまだ使えるだろう。
そして、王太子のまわりに侍っている美少年や美少女たち。
どう見ても十代前な彼らは、四六時中、例え王太子がトイレであろうとついて行く。
美形置物騎士と人形愛玩美少年少女。何ともシュールな光景だ。
一番信じられないのが、王太子本人。
6回の襲撃にも全く気づくことなくさわやかに王宮内を闊歩する彼に殺意が沸くほどだ。どれだけアルテイシアが肝を冷やしただろう。
「殿下、お命をねらわれる心当たりは?」
「命をねらわれる?何のことだ。私は今日も愛されている。」
頭が痛い。
文武両道という噂はガセだろうか。頭がおかしいとしか思えない。
何よりも、この見目麗しい集団の中でも光り輝かんばかりの美貌がもう鬱陶しい。
垂れ流しの色気に惑わされ、男も女もふらふらと王太子に吸い寄せられていく。
守りにくいことこの上ない。
(いっそ監禁してしまいたい)
王宮の渡り廊下で、仮面をつけた怪しい集団に王太子がずかずか近づいていったときなど絞め殺してやりたくなった。
結局、仮面をつけた怪しい集団は王太子を美の女神の化身と崇める<女神の僕>(名前も何か安直で不愉快だ)という集団だった。仮面をかぶるのは美の女神の前では、素顔を晒すのは失礼に当たるかららしい。不審者が混じってなかったからよかったものの、全員ぶん殴ってやりたいなと思うほどにはイラッとした。




