2.辺境猫伯爵②
夕食を食べ終え、残りの仕事に取り組んでいると、お茶を運びに来たルドアは何やら嬉しそうな表情を浮かべている。
「ジェイルーン様、どうやら説得は成功したようですな」
「そうだけど…言ったっけ?」
「言わずとも、執務がそれほどまでに捗っていればすぐにわかりますよ」
…うっ、よく見てるなぁ。なんて思いつつお茶をもらう。
「ところで…ニーナ様に変なことはなさっていませんよね?」
「変なことって…頭は撫ではしたけど…」
「ふむ。それは良しとしましょう」
そうは言いつつも、他にもまだ言いたそうなルドア。
「まだ何か言いたそうだな」
「いえ、別に何もございません」
ふふ。と笑いながらルドアは部屋から出ていった。
1人部屋に残され、ふと考えてしまうのはニーナのことだった。私の言葉に真剣に悩む姿に思わず彼女の頭に触れてしまった。
その後「引き受ける」と言ってくれた時には少し顔が赤くなっていて再び手が伸びてしまった。
「……はぁ、可愛すぎる…」
彼女との出会いはこの屋敷。ハウスメイドとして働いていた彼女の母が屋敷に連れてきたのだった。
初めて会った時、彼女の可愛らしさに思わず息をのんだのは今でも覚えている。
(あれからもう12年も経ったのか)
お互いが年頃になるころには、彼女が屋敷を出入りすることはなくなったが、それでも年に数回は相談や報告を綴った内容の手紙が届いていた。
彼女の唯一の肉親である母親が亡くなった際にはたまらず声をかけてしまった。
どうすれば彼女に男として見てもらえるのか。どうすれば頼ってもらえるのか。
きっと彼女は兄のように慕ってくれているだろう。
いや…彼女を近くで見ているだけで心は十分満たされる。
「さて、仕事仕事」
彼女に、そしてネコに会える時間が少しでも多く増えるよう、机に向かい合うのだった。