1.私の仕える主④
……知らなかった。ジェイルーン様が辺境伯爵だったなんて。
事の始まりは仕事が終わったときのこと。「伯爵様がお呼び」とのことだったので、部屋を訪ねようと歩き始め気づいたのです。どこに行けばいいのか分からないことに。そこで、ターシャに相談すると「案内してあげる」と私を部屋まで案内してくれました。
「失礼します」
部屋に入ると、私が想像していた人とは違う人、ジェイルーン様と執事の方が居ました。
「お疲れ様、ニーナ。さぁ、座って」
ジェイルーン様は既に椅子に掛けていて、私にその相向かいに座るように促します。「ここで結構です」と言おうとしたのですが、有無を言わせない眼力に負け恐る恐る椅子に掛けました。
「し、失礼します」
私が掛けるとすぐに執事の方により目の前には紅茶が運ばれました。
「急ぎじゃなかったから、伝言という形になってしまったけど部屋大丈夫だった?」
「・・・」
「その表情だと無理なだったようだね」
「…ん…た」
「ん?」
「申し訳ありません。ジェイルーン様が辺境伯爵になられたのを知りませんでした」
「気にすることはないよニーナ。辺境伯爵になったのも最近のことだし、お母さんのことで色々大変だったであろうニーナに知らせなかったのはわたしだからね」
相変わらずジェイルーン様は優しい。8歳になってからはこの屋敷に出入りすることはなくなってしまった。それでも兄のように慕うジェイルーン様に相談したいことが沢山あった私は年に何回か手紙を送っていました。
「あの、お話とは?」
「うん、やっと準備が整ってね。ニー、」
カリカリカリカリ。
話を遮るようなタイミングで、突然ドアの向こうからドアを何かで引っ掻くような音がし始める。
「…丁度いい。ルドア中に入れててあげて」
執事さんがドアを開けると、お昼に出会ったあの黒ネコが部屋へと入ってきたのでした。
「お昼のときの黒ネコちゃん…」
「ん?もう知り合いなの?この子はわたしの飼っているクロ」
「賢そうな子ですね」
どうやらオスらしく、人間であったならさぞ麗しい顔だろうななどと考えていた私の膝にクロが乗ってきた。
「なかなか人に懐かない子なのにもう懐いてるようだね」
「嬉しいです」
私の膝の上で寛いでいるクロを見たあと、遮られた話の続きをするらしく、ジェイルーン様が私の顔を見つめる。
「でね、ニーナ。君にはネコの世話係になって欲しいんだ」
幼い頃から猫は好きですし、世話をするのはいいのですが……世話係とは一体?と頭の中をぐるぐるさせている私をよそにジェイルーン様はにっこりと微笑むと
「ニーナになら安心して頼める。今日はもう遅いから続きはまた明日にしよう」
「……分かりました」
結局世話係がよく分からないまま、私は部屋を出ました。