1.私の仕える主③
「えぇっ!ニーナってばひとり部屋なの?」
「うん。ターシャは違うの?」
お昼になり、再びターシャと合流した時に「年もそんなに変わらないし、仕事以外でかしこまらないで」と言われてしまったので、それ以降は気を付けるように心掛けている。
「最大4人部屋で、仕事とかによっては2人部屋とかになるの」
「んー。部屋の数が足りなかったとか?」
思いついたことを言ってみると、即座に否定される。
「それはないわ。だって私の部屋は4人部屋だけどベッドは1つ余ってるのよ?」
ふと、ジェイルーン様に部屋まで案内されたことを思い出したけれど、そのまま静かに胸のうちへとしまっておくことにした。
それからはまた、他愛のない話をして私たちは仕事へと戻る。
スカラリーとして働き始めてから、2週間程が経過した。その頃にはターシャともすっかり打ち解け、空いている時間はよく2人で、過ごしていた。
そして今日も、シェフのまかないを食べ終え厨房へ食器を返しに行った帰り。近くの草むらが突然ガサガサとしたと思えば、そこから黒い塊が飛び出てきたのだ。
「え?ネコ……でもどうしてここに」
「あら?ニーナはまだ知らなかったのね“辺境猫伯”」
「へ、辺境猫伯……?」
「そう。ジェイルーン様についた呼び名みたいなものね」
ジェイルーン様にそんな呼び名が……。一方草むらから出てきた黒い塊…黒ネコは私が目が合うと足元へとやってきた。隣では、そんな様子を見てかターシャが瞳を輝かせていた。
「珍しいこともあるのね!この子から人に近づくところ、初めて見たわ」
「こんにちは。初めまして」
近付いてきたネコを驚かせないよう、そっと手を近づけ匂いを嗅いでもらう。
「ニーナはネコに慣れてるみたいね」
「家で飼ってたの」
私の家で飼っていた白ネコのミルクは今から2年前、ジェイルーン様から頂いたネコだった。今回こちらで働くことになり、ミルクは近所の方に預かってもらっている。
(ミルク元気にしているかしら)
黒猫を抱えたままぼーっとしていると、ターシャに声を掛けられた。
「……ニーナ?伯爵様がお呼びみたいよ」
どうやら私がぼーっとしている間に呼びに来た人がいたらしいが、話を聞ける雰囲気ではなかったので、ターシャに伝言を残したらしかった。
「今から行けばいいのかしら?」
「“急ぎではないので、本日の仕事が終わってからでいい”そうよ」
「あ、そうなんですね」
「さてと、もうひと踏ん張りして早く仕事を終わりにしちゃいましょ」
「はい、そうですね!」