人肉ふりかけ
友人が突然訪ねてきた。
飯を1杯くれというので炊きたてのメシを椀によそうと、友人が
「めずらしいものがある」
と、カバンからひとつ小袋を取り出した。
全面白地のパッケージに色気のない青い字で人肉フリカケとだけ書いてあるのが見えた。
友人は裏面を私に見せてきた。なにやら氏名、出身県名、写真(40歳くらいの女性だろうか)がプリントされていた。
私が複雑な表情で友人を見ると、
「これがふりかけの元なんだよ」
と、ためらいなく言った。
何の冗談だろうか。
真実にしても何の理由でこの女性はふりかけになったのだろうか。
いぶかしげな表情をうかべる私に友人はこう言った。
「ほら、最近流行ってるだろ、エステで肉を吸い出したり。それだけじゃ脂っぽいから肉を切り出して混ぜて乾燥させるんだとよ、もったいない精神とカニバリズムの利害一致ってやつさ」
と冗談を言うように、にやついた。
なんにしても、これを食う気はしない。
だけれども私の意など介さずに友人は封を開け、チャッチャッとそれをメシの上にかけた。
メシの湯気と共に、鰹節のようなニオイが広がり、食欲をそそる。
だけれどもこれは人の肉じゃないのか。
「こういうものを扱う表には出ない食品会社に知り合いがいてさ」
友人はそんな事を言いながらメシを口内へとかきこんだ。
あまりにうまそうな食いっぷりであるから、確かに少しは興味が湧く。
ハシのできるだけ先っぽでそのフリカケを探ってみる。
はて、これは鰹節では無いにしろ、魚粉の類いではないか?
次は指先でつまんでみる。色も匂いも質感も魚のそれのように感じた。
だが、こんな奇妙なものを食べるのはやはり遠慮したい。
目の前に人肉フリカケが置かれたが友人に突き返す。
友人はどうしてこんなうまいもの食わないのかと言ったが、逆にどうしてこんなものが食えるのか聞きたい。
まぁ、カエルやヘビなんかまだしも、なにやら危険そうなものやら脳みそや目玉なんかだって食うやつは日本人にだっている。
一度食ってうまいと感じれば、ゲテモノであっても平気なものだ。
だがしかし、それほどまでにうまいものなのだろうか。
さすがにすぐ試す気にはならないもんだし、いろいろ友人と問答しているうちに、一袋譲り受ける事になった。
友人が帰った後、どうしたものかと思った矢先、後輩が家へ来た。
そんなところ、いたずら心が出た。
「お前、お腹すいてないか?」
人の肉であることは隠してふりかけご飯と簡単な漬け物をふるまってやると、後輩はうまいうまいと食った。
そうしてから、
「これは魚ですね、なんの魚でしょうか」
と聞くものだから、実は人の肉だよ。と答えた。
しばらく話をしたのだが、彼はついに信じずに笑いながら帰ってしまった。
これには黙っておけないので、意を決し、フリカケの余りを少し舐めると、どうしたって魚の味がする。
人の肉は魚の味がするのか?
私は少し仲良くしている隣家にも行って、自家製だから味見してくれと、嘘をついて少し舐めさせたが、やはり魚だと言った。
間違いない。
私は疑念を確信に変えるために、魚のふりかけを様々買って、ご飯にかけて食べた。
やはり。
あのふりかけの人の肉と同じ味がした。
そうか、そういう事だったのか。
人、友達や知り合いなどの距離感の話。
遠くの知らない人が死んでも気にならないのに。
仮に双葉ちゃん(5歳)行方不明
と聞いただけで少しの同情が生まれる。