夢であれば。
テーマパークの、写真やポストカードの売り場。
このテーマパークには半年に1度は来るが、今までこんなところがあっただろうか。
入口には、柔らかい笑顔のお姉さん。
そのお姉さんが話かけてくる。
「今なら並ばずに入れますよ」
このテーマパークは、そこそこ有名なところだから、どこもかしこも行列。
並ばなくても良いならと入ろうとした。
すると、入口の前に立ちはだかり、
「何枚ぐらいお買いになりますか?」
と、聞かれた。
少しの色気も出してみて
10枚かな、と答えた。
「10枚ですね、宜しいですね」
ええ、と軽く会釈をして扉を開けた。
一歩二歩と踏み出すと音も無く扉は閉まり、さすがだなと関心した。
中には壁にポストカードや写真が20枚貼られている。
各々、番号がふってあり、それを反対側のレジで直接書き込んで買うシステムらしい。
紙を持ちながらそこへ書くスタイルの注文はしていないようで、かなり面倒に思えた。
一先ず、気に入ったのを3枚選んだ。
そして、レジで番号を書いた。
レジのお姉さんは、あと7枚ですね、と言った。
「いや、気に入ったのがこれだったもので……じゃあ今追加をしますね」
なんだか嫌な気分だ。枚数を指定されるとは。
外と中でやりとりでもしているんだろうか。
「10枚きっちりですよ、お選びください」
仕方なしに振り返ると、先程よりおびただしい量の写真が壁1面に並んでいた。40~50枚はあるのだろうか。
「え、なんで?」
しかも、すべて違う写真に変わっていた。
お姉さんは私の無言の問いに答えた。
「こちらから見ると、こんな感じです」
入口の方に手を差し出し、
「アチラからだと普通に見えます」
その、「こちら」から写真をみると、おどろおどろしいものばかり。
どれもいらない。
顔に見えるシミ、切ると呪われそうな木、目のくぼんだ奇怪なカエル。
「こちらから買うのはダメですよ、きちんとアチラから見て買ってくださいね」
仕方なく入口の方へ戻った。
何かおかしい。
すると、お姉さんがまた教えてくれた。
「1分おきに、ランダムに配置が変わるんです、つまり、配置を覚えて、1分経過するまでにこちらに注文を」
なんだ、そういうアトラクションか……悪趣味も良いところだ。
私がため息をつくと、
「「10枚」ですよ」
と言った。
もう良いや、適当で……
10枚分、見もせずに雑に書いた。
お姉さんは口をひん曲げて言った。
「違いますね」
「はい?」
「お客様は先程、3枚注文なされました。今、追加で7枚注文なされました」
「はい、そうです、10枚ですよ、文句ないでしょうに」
「いいえ、お客様が最初に選んだ3枚がきちんと含まれておりません、今ご指定の7枚は受け付けいたしました」
「はぁ?」
黙ってお姉さんは入口の方を指さした。
まぁ、3枚覚えて、1分以内に書けば良いわけだ。
しっかり見て、すぐさま注文表に書いた。覚えている3枚とさっきの適当な7枚。
「違いますね、お客様が注文されたうち、6枚が含まれておりません」
「オイオイ、待てよ、全部きっちり?」
そもそも何を7枚選んだのか覚えてない、そのうちの1枚は偶然に当たったようだが。
これはもう宝くじよろしく、当たらないだろう。面倒くさい。
「もう出ますよ、疲れました」
「お客様の注文は10枚です」
「最初は適当にそうは言いましたが、もう良いです、やめます」
「お客様は、10枚買うとおっしゃいましたよね」
「はい、でもリタイアです」
「10枚、きちんと、買ってください」
「……あの」
私の声を遮り、彼女は言った。
「もう1度言いますね、10枚、きちんと、買ってください」
そして、入口の方へ向かえとばかりに顎で促された。
時計もない、他の客もない。
私は出られない。
何度も挑戦するがわからない。
8枚当たったり、間に合わずに2枚だったり。
気がつけば写真は増えたり減ったり。
ぼーっとして、適当に書いてまた出す。
なんだか、書くこと自体を思い出して、適当に書いてまた出す。
そんな夢を見た、なんて思いたいものだ。
これは夢なんだと。
ここは、夢、の、だからこそ。
単純に求めた結果の話。
視点が変われば考えや見え方も変わる。
1歩目の思考を大切にせず、相手の気持ちも理解しなかった話。