人間
「人間とは何ですか」
ある聖職者に聞いたところ、
「人間は神の子である」
ある紳士に聞いたところ、
「私たちの事だろう」
ある妊婦に聞いたところ、
「おなかにいるこの子もそうですよ」
私は妊婦にふと疑問をぶつけてみた。
「お腹の子はあなたの子ですよね?」
妊婦は腹立たしいような顔をして答えた。
「もちろんそうに決まってるじゃない」
「ならばあなたの子は人間じゃあないのですね」
妊婦は私に平手打ちをして向こうを向いてしまった。
私は腑に落ちない気持ちで再び聖職者に尋ねた。
「人間とは何ですか」
「人間は神の子である」
妊婦を指差し、また尋ねた。
「あのお腹の中の子は人間ですか」
「そうである、あの子も人間である」
私は顔が青くなった。
今まで神に対してなんたる冒涜をしたことか。
今まで懐中にしのばせていた今となっては意味のない像を投げ捨て……妊婦……ではない、神の前へひざまずく。
「神よ、私はあなたの子です」
「そんな事があるわけないじゃない!」
神はお怒りのまま赤い顔をして立ち去られた。
私は一層青くなった。
私が神の子でないのだとしたら、私は人間ではなくなってしまう。
私は再び聖職者に尋ねた。
「私は誰の子でしょうか、私は人間なのでしょうか」
「あなたは神の子である、あなたは人間である」
私は嬉しくなり我が家に帰った。
そして母の前にひざまづいた。
「神よ…」
タイムリープの、時間軸の無い話。
メビウスの輪のような話。