崖にいこう。
私は妻を早くに亡くし、3人の子のシングルファザーとなった。
保育園は予約待ち、父母は他界。仕事なんてできやしない。
つくづく天国に縁のある生活だ。
近いところの親戚とはいろいろあり、疎遠だった。
出不精で頼れる友人もおらず、子ども3人連れてデパ地下で試食をしたりしながら日々を過ごしてきたが、とうとう、首が回らなくなった。
市役所に相談してみたところ、生活保護を勧められた。
わたりに船、当然のように受給申請をした。
が、通らなかった。
生活保護を勧められた場合、大抵申請は通ると聞いていた。
次の日、迷わず子どもたちを施設に預けた。
私は仕事を探した。
しかし、うまくいかない。
せいぜいアルバイトがやっとだ。
いつか子どもたちと生活したい。
その一念でいくつもバイトをかけもちした。
人並みにとは行かないが、貯金も少しでき、子どもたちを迎えに行く決心をした。
月に一度か二度、顔を合わせる程度だった子たち。
いつも、とりたてて特別な会話はしなかったが、幸せな時間だった。
施設に預けてから10余年。
そして、まさかの拒絶。
私は、生きる希望を無くした。
アルバイトは全部やめた。
借りていたアパートも出た。
家財は売ったもの、捨てたもの、なんだかんだで、手元には数千円残った。
そして、ひたすら歩いた。
1日一度、パンを2口かじった。
水はしっかり飲んだ。
歩いて、歩いて、崖に来た。
足の裏は痛いのかなんなのか、ただただ疲れ、天気は意図せず変わり、崖に来るまでの道は、私が歩いてきた人生に似ているな、と感じた。
ここは自殺の名所。だと思う。
崖の下からうっすらと、おいで、おいで、としている手が見えるような気もする。
そして、崖には何足とも靴が並んでいる。
私は、それを見て、
こんなとこに靴を並べておくなんて、
変わったコレクターもいるもんだな、と、、
あぁ、向い風が強い。
絶望の中、心を決めたつもりなのに、わざわざ時間のかかる場所へ。
そして、いざたどり着いてしまったところ、周りを見渡し、現実から目を逸らして、向かい風のせいにする話。