相談室の日々2
2
翌日、学校へ登校すると、二本木は、黙りこくって一言もしゃべらなかった。二本木の目のあたりに青あざができていて、理由を聞いても話さない。そんな状態だから、機嫌が悪いのも無理はないと思って、放っておくことにした。
昨日、東が見つからなかったので、コロナと昼休みに探す約束をした。二本木も誘ったが、
ついてこなかった。察するにこれはコロナと何かあったと、感じた。
コロナがツナ缶を持って、中庭の隅の茂みに顔を突っ込んでいるのを見つけた。
「学校の外にいってるかもな」
「東は頭いい。帰ってくる」
コロナに付き合って、校内をうろついていると、駐車場で猫の鳴き声がした。僕らは、並んでいる車の下を覗き込んでいった。
猫が悲鳴に近い声を上げたので、どこにいるかわかったが、そこには、男がいた。そいつは、車のドアに手を突いて、猫に向かって石を投げた。何をしていたか明白だった。やつは、僕らに気づいて、偏屈そうに眉毛をまげ、睨みつけてくる。制服を着ているから、ここの学生だ。
「うー…」
「いつも水利ちゃん言ってるぞ」
コロナがやつに飛び掛っていきそうになったので、僕はあわてて彼女の腕を取った。
「その猫、いじめないでくれますか」
「俺の猫をどうしようが、勝手だ。消えろ。くずが」
「あたしたちの猫だ!」
「そんな証拠どこにある?」
「東って名前だ!」
「俺だって、猫に名前くらいつけられるぞ。あほ猫、クズ猫」
そいつは、車のドアを蹴って見せた。その衝撃で猫は、驚いてフギャーと叫び、走り去った。
誰の車かわからないが、ドアがへこんでしまった。
「お前らのせいで、シツケができなくなった。どうしてくれる?」
車を凹ませたことで僕らが、おびえているように感じているようでやつは、嘲りの笑みを浮かべた。僕は、ひるんだが、コロナは違う。
「どうするって…」
「ついてこい」
逃げようと思ったが、コロナが、やつの後を離れようとしなかった。中庭に差し掛かったとき、僕はもうコロナを抑える気力が失せた。
「遅れてすみませ~ん」
タイミングが悪いこところに、水利ちゃんが、やってきた。
遅かった。僕はコロナの手を離していた。
やつは、コロナの拳を支点にして、体をくの字折り曲げ、腹を押さえて、うずくまった。
水利ちゃんは、僕らを通り越し、その男子生徒を気にして、しゃがみこんだ。
「やめて!コロちゃん!」
「ミズリ、こいつ、東をいじめてた!とってもとっても悪いやつだ!」
「本当なんですか…皆藤さん」
「俺に触るな!」
やつは、立って、地面に唾を吐いた。
「お前、このくずどもと知り合いか」
「はい…」
水利ちゃんは、うつむいて、消え入りそうな声だった。水利ちゃんこそこんなやつと知り合いなのか?
「くずめ…こいつらを殴らせろ」
「だめです…」
「俺は殴られたんだぞ!」
「ごめんなさい…」
「こいつらを黙って殴らせられないなら、お前が殴られる覚悟はできているんだろうな?」
「はい…」
「まてよ!あんた、本気か!」
やつは、すでに腕を振りかぶっていたので、僕は水利ちゃんを守るように突っ込んだ。
僕は、平手を受けたが、すぐにしゃんとたって、そいつと対峙した。
「これで満足だろ?」
「馬鹿か?今のは、俺の手に頭突きをしたんだろうが。手がいたくてしかたねえ。あと四発、殴らせろ。後ろの女もだぞ」
「全部僕が、殴られるからコロナは、許してやってくれないか?」
僕が言い終わる瞬間に、やつは僕の腹を二回殴り、倒れた僕の背中を何度も蹴った。
「やめろーーー!」
コロナが、水利ちゃんに抱きしめられて叫んでいる。僕は頭を抱えて、抵抗しなかった。
「鈴子、こんな偽善マゾ野郎と付き合うのはやめろ。虫唾が走る」
「お、お友達なんです…乱暴しないで」
「くずガキ同士、一生やってろ」
憂さが晴れたようで、やつは、肩で風を切って校舎の中へ入っていった。
「ごめんなさいキスケさん…ごめんなさん」
水利ちゃんは、僕の顔にかかったあいつの唾を拭いてくれた。コロナが、僕の顔を見つめて、呆然としている。背中がひどく痛むけど、僕は笑った。
「水利ちゃんが謝ることなんて一つもないよ。全部あいつが悪いんだ」
「でも、でも、あの人は…」
目に貯めていた涙が、彼女の頬へ零れ落ちた。
「水利の婚約者なんです…」
僕は、続きの言葉が出なくなった。
昼休みが終わりを告げる鐘が鳴っていた。
どうして、水利ちゃんのようないい子が、あんなやつと結婚することになっているのだろう。授業中、そのことを考えていた。あの男を前にした水利ちゃんは、僕が知っている元気な子ではなくなっていた。きっと、気のいい水利ちゃんに付け込んで、あいつが、強引に迫ったのだ。考えれば考えるほど、許せない。僕は、はやく相談室へ行きたくてしかたなかった。エマさんなら何とかしてくれるに違いない。そう思った。
放課後になって、教室を出ようとすると、二本木に止められた。
「どこいく?」
「相談室、いっしょにくるか?」
「いかない。今日は、心の整理をする」
「昨日、コロナとなんかあったの?」
二本木は、目が血走って鬼気迫る感じで、少々、不気味だった。
「コロナちゃんにコクったら、殴られた。けど、脈ありと思ったね。俺は、あのパンチから愛を感じたよ。へへ、へへ…」
そのあざは、コロナのせいか…
「そ、そう…お大事にな…」
それにしても、二本木の恋煩いは、かなりの重症なようだ。僕は、逃げるように相談室へいった。
早く来すぎたようで、部屋の鍵が開いていなかった。中で北が僕の気配に気づいて、にゃんにゃん、鳴いている。やはり、ここで猫を飼うのはかわいそうだから、コロナに言い聞かせないといけない。といっても、僕の家にはもう南がいるから、どうしようもないが。
五分ほどすると、エマさんが、やってきて、僕に微笑んで、近づくなり、頭をなでてきた。
「やめてくださいよ…」
「はは、お前が、居つくとは、思ってなかったもんでさ。こうして待っているところを見ると、一年くらい前の水利を思い出して」
僕は、はっとした。エマさんの笑顔に見とれてしまっていた。エマさんの口の悪さなんて、この笑顔に比べれば、取るに足らないことなんだろう。
「水利ちゃんがですか?」
「毎日きてたよ」
部屋に入って、エマさんは、お茶をいれてくれた。お礼を言うと、彼女は、「たまにはいいだろう」と、ぶっきら棒に答えた。
「その水利ちゃんのことなんですが…」
エマさんは、僕に話があることが、わかっていたようで、静かに耳を澄ましている。
「今日、水利ちゃんの婚約者って人を見たんです…エマさんは、聞いてますか?」
「ああ」
「じゃあ、水利ちゃんは、結婚相手のことをエマさんに相談したんですね!」
エマさんは、無表情になって黙っている。
「どう思いました?」
「水利の意向にしたがう」
「え?」
「俺がとやかく言えることじゃないんだ」
「とやかくって、水利ちゃんは、エマさんを頼って話したんでしょ?」
「まあな」
「そ、それだけですか?僕がこんなことを言うのはお節介かもしれませんけど…あの人は、水利ちゃんにふさわしくないですよ。てっきり、エマさんも僕と同じ意見なのかと思ったんです」
エマさんが、何も言わないので、僕は、はがゆくなった。
「婚約者だなんてやめさせるべきですよ」
「水利は、それを望んじゃいない」
「どうしてですか?ここへ相談しにきた意味がないじゃないですか」
エマさんは深くため息をついた。
「この話は、そう単純にはならない。皆藤と水利の家同士の約束事を俺が、でしゃばって反故にできるはずないだろう?個人の力の及ぶ範疇じゃないんだ」
「どういうことですか…いまいち、よくわからないんですが…」
「政略結婚だよ」
「親が勝手に決めた結婚だっていうんですか?そんな時代錯誤な」
「時代なんか関係ない。この学校じゃ日常茶飯事のことだ。半分以上が、婚約者がいる同士で入学してくるんだからな」
「そ、そうなんですか?」
「お前のようなやつは、めずらしい」
違う。僕の場合、特殊かもしれないが、フィアンセのようなものは、いる。一度も、当人に会ったことがないというだけで。
「だからって、水利ちゃんの相手はひどすぎますよ!結婚するってことは、あんなやつと夫婦区画へ行くことになるんでしょう?一年間も!幸せなはずないじゃないですか!」
あの皆藤という男は、八つ当たりに水利ちゃんを傷つけようとした。
「俺だってなあ!」
エマさんが、感情に任せて立ち上がった。
「…水利は、あいつを変えようとしてる。俺がなにかすると水利の努力が無駄になるんだ。だから、見守るしかない…俺は、ただ話を聞くだけ。水利の友達でいてやる」
「許せないですよ…僕は…こんなことをさせるなんて」
僕は、昨日、ここで水利ちゃんが言ったことを思い出した。
―寮に夫婦で入って新婚生活するんですよ。好きな人と同じ部屋で暮らすんです。みんなの憧れです―
エマさんは、窓を開けて空気を入れ替えた。
「友達か…」
外を眺めている彼女が、そうつぶやいたのが、聞こえた。
その後、コロナが、僕と同じようにエマさんに水利ちゃんの婚約者の話をした。エマさんは、冷静にコロナをなだめた。水利ちゃんは、この日、相談室へ来なかった。
それから、数日間、水利ちゃんと何回か会ったが、彼女の婚約者について、聞くことはしなかった。水利ちゃんは、変わりなく元気にみえた。
僕は、自分の婚約者みたいなものについて考えることが多くなった。結婚なんてするつもりはないけれど、気にはなっている。都川のおじさんの娘も同じように思っているのだろうか。都川刹那のほうは、今日まで、僕の前に姿を現していないのだから、その気がないのかもしれない。
昼休みに屋上で堂々巡りの考え事をしていると、コロナが、例の口笛を吹きながらふらっとやってきた。
「キスケ、みつけた」
「よくここだってわかったな」
「三本木に聞いた」
「一本多い。二本木だよ。で、あいつは?」
「なんかニヤニヤして気持ち悪いから逃げてきた」
僕は、あいつになんと言ってやればいいのだろう…
「ミズリのところ、いってお弁当たべよう。最近元気ない」
プラスチックの小さなお弁当箱を持っている。
「そうか?元気ないかな?」
「うん」
「僕は、もう食べたけど…いってみるか」
コロナが、気の使うなんてめずらしいから、同意した。
水利ちゃんのクラスにいくのは初めてだった。高学年の教室に進んでいくなんてコロナくらいなものだろう。
教室の入り口からコロナと中を覗いて水利ちゃんを探した。
水利ちゃんは、自分の席で女子生徒と話し合っていた。
「あ!」
僕は、慌てて、コロナの口を押さえた。水利ちゃんの話し相手は、あの古谷真冬だった。
コロナが僕の手をつねって、非難の目を向けた。口から手を離してやる。
「古谷真冬だ。静かに様子を見よう」
僕らは黙って彼女たちを観察した。
水利ちゃんが、席から立った。どこかへ行くみたいだ。僕たちは廊下の窓側の壁に張り付いて、二人が教室を出るのを待ち、気づかれないように尾行した。
一階まで下りて、玄関を通り、渡り廊下から仲介所へ向かっているのは明らかだった。
「ミズリが、エマちゃんのライバルの仲間になっちゃった…」
「馬鹿なこというなよ…水利ちゃんが仲介所に関るわけがない」
「でも、中に入るよ」
コロナが、水利ちゃんの元へ飛び出していった。
「ちょっと!おい!」
「ミズリー!」
「コロちゃん?」
水利ちゃんと真冬さんが、振り返った。
「あら、永夏さんのお友達の方々」
「ミズリを返せ!」
コロナは、真冬さんを真っ直ぐ見すえて怒鳴った。
「何か勘違いをしておりませんこと?」
「コロちゃん、キスケさん、心配しなくていいんです」
とは言うものの、水利ちゃんは、ばつが悪そうにしている。
「ごめん水利ちゃん…一緒にお昼を食べようと思って…」
「そうだ!お前はどっかいけ!」
真冬さんは、余裕のある笑みを浮かべて、腕を組んだ。
「あなたたちは、どうして、わたくしたちを目の敵にするのかしら?」
「なにもされませんよ。コロちゃん、キスケさん。結婚のことでいろいろお話しをするんです」
「そんなにご心配ならば、あなたたちもお入りなさないな」
真冬さんが、コロナに近づいて顔を見つめた。鼻と鼻がぶつかりそうだが、コロナは退かない。
「あなた、よくみると可愛らしいわね。結婚相手は、お探しでないかしら?」
「うるさい。うちへ帰れ」
「恥ずかしがらなくてもいいんですのよ。恥じらいは大事ですけれども、どんなにおてんばな子にだって、お嫁さんを夢見ますでしょう?いらっしゃいな」
真冬さんが、コロナの手を取った。
コロナはさっと腕を引いて、真冬さんのお腹に突きを入れたと思ったら、逆にコロナがついた拳を取られて、腕をひねり上げられていた。
「いたい!」
とコロナが叫んだら、真冬さんは、ぱっと手を離し、コロナの制服の襟首をつかんで歩きはじめた。暴れると襟首を持ち上げて首を絞める。こうなっては、大人しくなるしかない。
「超ど級の花嫁修業が必要ですわね…まるで獣ですわ。この子」
コロナが持っていた弁当箱が地面に落ちたので、僕は、さっと拾い上げた。
「真冬さん、乱暴は…」
「わかっています。わたくしは永夏さんとは違いましてよ」
僕は、どうにもこうにもできずに結婚仲介所の中までついていく。仲介所の人たちに見張られて、二階の所長室まで誘い込まれた。
真冬さんは、部屋の中央のテーブルへコロナを座らせた。
「お座りになって。お食事をなさらない?」
それから手のひらを打ち鳴らすと、メイド服の女の人が、カートを押して料理を運んできて、お皿をテーブルに並べた。
僕は、断った。こんな居心地の悪いところで呑気に食事なんてできない。
「水利もいいです。ありがとうございます」
コロナは、真冬さんに敵意の眼差しを送り続けている。
「お食事なさる?」
「いるか!」
「残念ね。わたくしだけいただくのもなんだから、さげてちょだい」
メイドさんが、お皿を片付けると、コロナの腹がなった。真冬さんが、くすくすと笑う。
「遠慮なさらずともよろしいのに」
「キスケ、お弁当」
コロナが、恥ずかしそうに言って、僕は、それをテーブルに置いてやった。
弁当箱を開くと、枝豆がぎっしりつまっていた。
「それ、お昼?」
あまりに風変わりな昼飯だったから、僕はなにかの間違いかと思った。
「うん、あたしが作った。いつもは、エマちゃんが作ってくれるけど、今日は寝坊したんだ」
エマさんも今頃、同じものを食べているんだろうか。
「あなたは、永夏さんと寮で住んでいますの?」
コロナは、答えずに枝豆を食べている。
「おいしそうね」
「おいしい。お前には、あげない。どうーだ。まいったか」
口に物を入れたまま、勝ち誇っていうコロナ。真冬さんは、おどけて首をすくめた。
「水利さん、おかしなお客様は、お食事に忙しいようだから…先にお話を済ませましょう」
真冬さんは、封筒に入った冊子の束を机に広げて、水利ちゃんと話し合いをはじめた。なんとなくしか、わからないが、結婚についてのことだった。仲介所が水利ちゃんの結婚式を仕切るつもりなんだろう。
「花婿様は、いつ、こちらに来ていただけるのでしょうか?お二人で行うことですもの。はやめにお話しておかないと、段取りがうまくいきませんわ」
「そ、そうですね…」
「なにか問題がおありなのかしら?」
「そういうわけではないんですが…皆藤さんは、あまりこういうことには、無関心みたいなようで…」
「いけませんわね。いけませんわよ。お二方のお家の祝事は、学校にとっても、仲介所にとっても大イベントになるでしょう。多く人が注目しています。両家の全面的協力がなければ、成功もままなりません。いえ、失敗なんてもってのほかですわ」
「はい…」
力なく返事をする水利ちゃん。
「いいですわ。今日中に花婿様のところへ人をやってお呼びしましょう」
「それは、だめです!」
「なぜですの?」
「あの人のところに仲介所の人をいかせるのは、やめてください…水利が、あの人にお話しますので…」
「何を怯えていらっしゃるの?わけがあるなら、話してもらえませんこと?」
「いえ…」
真冬さんは、水利ちゃんの結婚相手のことを知らないようだった。
「どうやら、あなたもわかっていらっしゃらないようね。式は、何か一つでも問題があればスムーズにことは運びませんわ」
水利ちゃんが、しゅんとして椅子の上で縮こまった。
「あなたのそういうところ、じれったくてよ!これは、あなただけの事柄ではなくてよ!あなたの家、学校、仲介所に関係してくるの!言いたいことははっきりおっしゃりなさい!」
「もういいじゃないですか!」
僕は、真冬さんの激しさに絶えられなくなって、口をはさんでしまった。水利ちゃんが、結婚相手のことを詳しく話したくない理由もわかったから。
真冬さんは、僕をぎろりと睨みつけた。
昼休みが終わったことを知らせる鐘が鳴っている。
「ふう…はやいわね。あとは放課後にしましょう」
助かった…
教室へ戻る途中、僕は、水利ちゃんに聞かずにはいられなかった。
「結婚のこと、どうしても仲介所に頼まないといけないの?」
「はい…」
「あいつのこと、仲介所にも話していないんだね」
水利ちゃんは、コロナと手をつないだまま、目を伏せ、しばらく黙った。
「あの人は、この水利とは、結婚したくないみたいです」
「ほんと?」
「はい…そうです」
「ならさ。なんで結婚するの?あんなやつと、どうして、水利ちゃんみたいな子が」
「あいつ、悪いやつだよ…ミズリ」
気分を晴らすようにコロナは、弁当箱を掲げた。
「やっつけちゃおう!ね!」
「コロちゃん、そんなに簡単に人を叩いたりしたらいけないんです。叩いたら、せっかくのいい人も悪い人になっちゃいます。それに皆藤さんはいい人です。みんな、知らないだけです」
意気を挫かれて上目遣いに唸るコロナ。
「けど、あいつは、水利ちゃんを殴ろうとしたんだよ?エマさんに助けてもらおう」
水利ちゃんは、首を振った。
「両親や、皆藤さんのお父さんやお母さんや、仲介所の人たちや、学校の人、皆さんを裏切れません。だから頑張らなくちゃいけないんです」
「そんなのおかしいよ!誰のための結婚なんだよ!水利ちゃんは、ちっとも喜んでないじゃないか!」
「水利は幸せですよ」
彼女は、僕に笑ってみせた。
「キスケさん、かばってくれて、ありがとう」
水利ちゃんは優しすぎる。それだけに僕は、納得できなかった。




