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よめかよ  作者: FT
11/11

コロナ3(おわり)



3




 僕は、夏休みを自堕落に過ごした。変わったことといえば、二本木とプールにいったり、映画にいったりしたくらいだった。


 二本木に、コロナにフラれたことを話したら、あいつは、大笑いした。


「お前も俺と一緒のしょぼくれた夏休みだったのか!」


「笑うのやめろよ…本気で頭にくる」


「ひきずってんのか?」


「ひきずってなんかねえよ」


 と、思いたい。


「開き直れ。次にいくんだよ。ちょっと聞いてくれ。俺、なんかさあ。最近さあ、仲介所の美人所長が頭から離れないんだよね」


「真冬さん、結婚してるぞ」


「関係あるか。恋するくらい自由だろ!」


「それにあの人、どんなことしているか…」


「今日は、二本木くんの結婚相手を紹介しにきましたわ…その相手とは…」


 僕の話を聞かないで、突然、真冬さんの口真似する。


「このあたくしよ!ありがたく思いなさい!こんな感じでプロポーズされんのさ。どうよ?」


「どうもないよ。お前って見境ないよな。コロナが好きなんじゃなかったの」


「コロナちゃんもいいけど、あの女王様には勝てねえわ。しなやかですらっとしたボディラインそれでいてやわらかそうな肢体、完璧」


 毎回、脈略のない二本木の妄想に付き合わされていると、気が変になりそうだったので、たまにエマさんへ電話もした。


 エマさんは、新学期から停学を解かれるようだった。その代わり、真冬さんの監視がつき、夏休み中も仲介所に通わねばならないという厄介なことになったらしい。けど、エマさんに言わせれば、それは、真冬さんが押し付けがましい結婚を学校の生徒たちに勧めないよう、見張るためでもあった。


「虎穴に入いらずんば、というやつ。頑張ってみるよ」


 コロナについては、都川のおじさんが、僕の家へ来てくれた日、彼女と僕が婚約者であることを真冬さんに証明してくれて、今後、彼女に手出ししないようにしてくれたらしい。


 コロナは、僕のことを婚約者とは思ってはいないだろうが、彼女を守るための口実になるなら僕は、それでよかった。


 夏休みが終わる一週間前、エマさんから、電話がかかってきた。コロナが寮に戻っているという知らせだった。


「遊びにこいよ。相談室にいる」


 僕は、飛んで学校へ向かった。


 相談室の扉から、中から話し声がした。扉には、仲介所倉庫の張り紙がしてあったが、僕たちにとっては、そうではなかった。


 嬉しくなってノックすると扉が開いて、はしゃいだコロナが出てくる。


「キスケ!ミズリが帰ってきたよ!」


 部屋には、エマさんと水利ちゃんがいた。


「お久しぶりです。キスケさん」


「え、あ、なんで?」


「皆藤が、入院したらしい」


 エマさんが、含み笑いして言った。


「男の人のほうの夫婦教練がきついみたいです。ストレスで病気に…」


 水利ちゃんは深刻そうだった。


「そうなんだ…」


「相当、根性叩きなおされてんだろうな。はは!」


「笑いごとじゃないですよ~」


「まあ、あいつが、退院するまで、夫婦区画にいかなくていいんだろ?」


「はい、女子寮で待機するようにと言われてます…」


「トドメさしにいく?」


「もーコロちゃん」


 こいつは、本当にやりそうだから怖い。


「それもいいな…というのは冗談で。今日は、水利の気晴らしデーだからなあ…そうだな…海にでもいくか!」


「エマさん、仲介所のほうはいいんですか?」


 僕が、そう言うと、エマさんは歯を食いしばって、合図を送るように瞬きを繰り返した。


「エマちゃん、どしたの?虫歯?」


 コロナが、エマさんの頬をつつく。


 エマさんが、停学になっていたことは水利ちゃんには内緒だった。停学から復帰した代償で仲介所へ通わねばならないとは、話せない。


「仲介所になにかあるんですか?」


「いやあ…真冬も誘っていこうかなあ…なんて」


「そうですよね!せっかくだから」


 僕も話をあわせて取りつくろう。


「真冬さんと仲直りしたんですか?」


「まあ…なんせ海だし大勢の方が楽しいぞ。あははは」


「そうなんですかー」


 僕は、エマさんと一緒に馬鹿笑いをした。水利ちゃんもつられて笑っている。コロナは首をかしげて黙っていた。そうそう、君は、黙っとけ。


「海かー、僕、何も用意してきてないや」


「うんと…」


 コロナが、ポケットを探り、預金通帳を出して、僕に見せた。これは、僕がコロナに返したものだ。


「あたし、お金いっぱいもってるよ。ぱーっと遊べる」


「この、てめ!その通帳、おじさんに返したっていって!ホラ吹きやがったのか!」


「エマちゃんに渡すと使わせてくれないもーん」


「かせ!しょーもないもの、また買ったんじゃないだろうな!冷凍枝豆、三十袋とか!」


「いやー!」


 エマさんに追われて、コロナが部屋を出ていった。


 エマさんが、机から乗り出したとき、コロナのエケコ人形が倒れたので、僕は、その人形を起こした。


 あれ?


 相変わらず、マキビシがびっしりつけてあったが、そのすき間にのど飴がひとつ、はさまっていた。


「ケンカしないでー!キスケさん、いきましょう」


「いろんなことがあったけど、エマさんもコロナも懲りないよね」


「ふふ、ほんとですね」


 のど飴の袋には覚えがある。雨の日に僕があげたものだ。そういえば、コロナがあれを食べていた記憶はなかった。


 いろんなことがあったけど…少し変わったかもしれない。いや、単に飴をたくさん食べたいという願いごとをしているということもコロナならありえるかな。






 おわり


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