結婚なんかしない1
この作品は、過去書いたものなので、すでに完成済みです。スケールとしては七万文字くらいの作品です。けれど、直しに時間がかかると思いますので、一日一回四千文字くらいの投稿をして完結までに至るようにしたいです。
断っておきますが、
何しろ、昔、書いたものなので、とても古い部分があると思います。
でも、なんというのか、こういうクラシックな部分が、現代社会には必要なんじゃないかと自己弁護したりして
まどろっこしい言い訳は聞きなくないと思いますが…
寛大な目で読んでやってください^^ お願いします。
結婚なんかしない1
生まれて初めてラブレターをもらった。そこまではよかった。
この学校に入学して、一週間、女の子とはまともに会話を交わしてはいなかった。けれど、僕は、その手紙を下駄箱で見つけたとき、嬉しさのあまりジャンプして、トイレへ駆け込んで中身を読んだ。
ピンクの封筒に宛名が書いてある。半井気助様。僕だ。
ピンクの便箋に、まるっこい可愛い文字でたどたどしい挨拶と僕に思いを寄せる内容の文章が書かれてあった。
なんだ、僕って、モテるんじゃないか。
最後に、放課後、中庭に来てくれるように告げられ、最後に送り主の名前があった。
折原桜音という名前に『オリハラ・オウネ』フリガナがふってあり、追伸で『変な名前でしょ?』と汗の絵文字がある。
オリハラオウネちゃん!きっとかわいい子に違いない!絶対そうだ!
放課後が待ちどうしかった。
クラスメイトの二本木に話そうかと思ったが、やめておいた。二本木は、男と女の話に敏感なやつだから、騒がれて台無しにされては、困る。
明日には、あいつより一歩先を行った男になる自分を想像していたら、隣の席の二本木が見下したような目をして言った。
「なに一人で笑ってんだよ。気持ち悪い」
僕は、余裕の笑みで返してやった。今に見ていろ。ああ~オウネちゃ~ん。
退屈な長い長い授業が終わり、前々から二本木が提案していた運動部の見学を装いながら、スポーツに興じる女生徒を品定めするという不純な放課後ツアーの誘いをきっぱりと断って、僕はオウネちゃんとの待ち合わせの場所へむかった。
中庭の花壇には、すでに女子の後姿があった。走ってきた僕は、息を整え、髪をなでつけた。
僕は、なるべく平静を保って、オウネちゃんの背中に近づいた。
その人が振り向いて僕は、彼女をまじまじと見つめた。
「うお!」
思わず、驚いた声が出た。その人の顔は、どう見ても、おばあちゃんだった。
皺くちゃのお年寄りが、どうして、この学校の女子生徒の制服を着ているんだ!今日は、どこかでコスプレ大会かなにかあるのか。おばあちゃんの唇には、真っ赤な口紅が塗ってあった。おばあちゃんが、僕を見止めてその口を動かす。
「おー…こんにちは…半井気助くん…お手紙読んでくれましたかの…」
このおばあちゃんは、何を言っているんだ?どうして、僕の名前を知っている?人違いだ。僕は人違いした!あちこち見回して、折原桜音ちゃんを探してみた。
いない…
「急に呼び出して、悪かったです…そのお…この歳で一目ぼれというのもこっぱずかしいけれども…」
「あの…もしかして、折原桜音のおばあさんですか?」
「は?」
「おばあちゃんは、桜音さんのおばあさんですか?」
耳が遠いのかな。
「わたくしの祖母は、とっくの昔に亡くなっております。わたくしが、正真正銘の折原桜音でございます…」
僕は、再び、息をするのを忘れて固まった。
「もう一度、おっしゃいますにこの歳で一目ぼれというのもこっぱずかしい話ですけれども、色恋に年齢は関係ありゃしませんです…恋は若返りの薬ともいいますし、ここはひとつ、あたくしの話し相手から始めてもらって、ゆくゆくはその…生涯の伴侶としてめとってもらえますかいのお…」
僕はおばあちゃんから、一歩一歩、後ずさったが、おばあちゃんはぐいぐい、迫ってきた。
「急用があって無理です!」
逃げ出そうとしたら、すがりつかれた。
「れでぃ~の愛の告白を袖にするのかい!」
折原桜音が、こんなお年寄りだと知っていたら、ここには来なかった。考えるのも、嫌だが、恋愛をするには、歳が離れすぎている。そもそも、なんで学校に生徒の制服を着たおばあちゃんがいるんだ!
「離してください!」
「行かないで!わしを助けて!」
助けてほしいのは、こっちの方だ!
おばあちゃんを振り払うと、周囲からぞろぞろと男子生徒が現れて、僕らを取り囲んだ。
おばあちゃんは、僕から離れて、男子の集団の後ろへ回って言った。
「どうしても、生涯の伴侶にはなれないとおっしゃるか?」
いきなり出てきた男子生徒たちに僕は、唖然とした。
「なんなんですか…あなたたちは…」
男子生徒の一人が僕の前に出てくる。
「我々は、この縁談をまとめるために雇われた仲人だ」
「縁談だって?」
「そうだ。我々は、結婚仲介所のものだ。君は、このご婦人のとの結婚を認めるか?」
「そんなの認める分けないに決まってる!あんたたち、なに考えてんだ!」
おばあちゃんは、男の脇から僕にほくそ笑んだ。
「では、依頼人の意中の殿方を依頼人の意向に沿うように説得するため、事務所へお越しいただくことにするかどうか、決を採る。異議のあるものは、挙手のあと簡潔に理由を。では、わたしから…異議なし!」
リーダーらしい男が言うと、六人いた他の男たちがすぐに口を切った。
「異議なし!」
「異議なし!」
「異議なし!」
「異議なし!」
「異議なし!」
最後におばあちゃんが、異議なし!と締めくくり、男たち全員が、僕に向かって、なだれ込んできた。
「ちょっと!異議あり!イギアーリ!」
僕は、七人の男子生徒全員に身体を担ぎ上げられた。こんなことが許されるのか?前々から、怪しいと思ってが、今日、この学校のおかしな部分がはっきりと露になったぞ!ばあさんと結婚させられる!
だから、僕は、こんな怪しい学校に入りたくなかったんだ。それもこれも全部父さんのせいだ。
父さんから、この学校に入ることを勧められたとき、途方もない話を聞かされた。
父さんは、若いころ、山に登るのが趣味だった。数々の大山を登頂していた。
それは、父さんが、ある山に登っているときだった。崖から転落して動けなくなっている登山者をみつけて、救い出したのだ。遭難していた登山者の人は、父さんに命を救ってもらったお礼がしたいと言った。父さんは、お礼を受け取るつもりはなかったらしい。でも、遭難者の人の関係はそれからも続き、深い仲になった―僕は、この遭難者、都川のおじさんのことを小さいころから知っていたけれど、こういった経緯があるというのは、この学校に入る前までは聞かされてはいなかった―
けれど、都川のおじさんは、酒を酌み交わすたびに命を救ってもらったお礼をしていないと話すので、父さんは、酔った勢いで、無茶な冗談を言った。ちょうど、母さんのお腹の中に僕がいたころで、都川さんの婚約者にも妊娠したことを聞いていたことから…
『もし、俺に息子ができて、君に娘ができたら、俺の息子に君の娘を嫁にくれないか?』
都川のおじさんは、それを真に受けた。
それから、図ったように父さんには僕という息子ができ、都川のおじさんには娘が生まれた。そして、都川のおじさんは、素面に戻っても、命の恩人への借りを返すことを忘れなかった。
そういうことで、本来なら、僕らが、十歳のときに互いにあわせるつもりだったのだが、都川のおじさんは、離婚してしまい、娘さんは母親の方に引き取られていったらしいので、結局ぼくは、父さんから、その馬鹿げた話を聞くことも、都川さんの娘と会うこともなく、そのお礼のことは、ふいになったと思われた。
だけど、都川のおじさんは、約束を果たそうとした。父さんが、僕に薦めてきた、このおかしな学校でである。
この学校は、社会の少子化問題を懸念して、生徒たちを早期結婚させ、その家族を学校ぐるみで支援するという考えからできたらしい。法律もこの学校でなら、男子十六歳からの結婚を認めていた。そこで、都川のおじさんは、自分の娘もその学校に入れて、僕と巡り合わせたいようだった。父さんも、本気も本気の都川のおじさんとの関係を悪くしたくないようで、僕にその学校へ入ることを頼み込んだ。普通なら、そんな勝手な話、聞く耳持たないのだが、
「学校に入るだけでもいいから」
と説き伏せられた。けれど、それだけなら、ここには入学しなかっただろう。この学校には、入学試験というものがなかったし、この高校は大学附属なので、そのまま大学にも試験なしで上がれる。勉強のできるほうではない僕にとっては、これは魅力的だった。
そして、入ることに決まったあとで、僕は、母さんから、とてつもない金額の入学金と授業料を支払ったと聞いた。そこまでする父さんたちに、僕は、あきらめて、ものも言えなくなったけど…
おばあちゃんと、結婚させられるかもしれない。こんなことは聞いてない。このおばあちゃんと結婚させられるならば、まだ会ってもいないけれど、都川のおじさんの娘を…『都川刹那』を探して、結婚した方がましだ!
結婚仲介所のやつらが、僕を神輿にして、掛け声で気合を入れている。
「婚姻届は、あるかー!」
「はいよおー!」
「印鑑はあるかー!」
「せいよおー!」
「真っ赤な血の色した朱肉はどうだー!」
「完備!完備!事務所に完備済みいいいいいいい!」
「はよ!はよ!嫁にもうてくれーい!!」
桜音が大声で合いの手をいれる。
「たすけてくれー!!」
「わっしょい!わっしょい!」
成す術もなく、僕は、運ばれていく。
突然、どこからともなく、口笛が聞こえてきて、結婚仲介所の集団が止まった。
「なんだ?この耳障りな口笛は、神経に障るぞ」
僕の足を持っている集団のリーダーが言った。
「下手くそな口笛で学園の風紀を乱しているのは、お前か!せっかくいい気分で仕事をこなしていたものを…そこをどけ、大人しく道を譲らないと痛い目に合うぞ!」
「弱いものいじめ、やめろ」
女の子の声がした。僕は、担がれているので空しか見えなかったが、結婚仲介所の集団に女の子が、立ちふさがっている。
「悪者だって?私たちが悪者だと?我々は結婚仲介所だぞ。学校で活動が認められている。まったくの逆だ。公務を遂行している我々を邪魔したお前が悪者なのだ!」
「どう見たってそれ、弱いものいじめだ。悪者のすること」
「こいつ…我々を舐めているな…」
また女の子は口笛を吹き始める。
「この小娘、わしの獲物を横取りする気か!泥棒猫め!わしものじゃ!」
桜音が僕の制服の袖を引っ張っていった。
「班長、排除しましょう」
僕は、仲介所のやつらに地面へ投げ落とされた。下は、芝生だったが、腰が痛い。腰をさすっていると、男たちの威勢のいい声が、うめき声に変わっていた。
女の子が、七人もいた男たちを叩きのめしていく。僕は、桜音の隣でその光景を見守った。
最後の男をやっつけると、女の子は、僕と桜音へと視線をやった。
「キー!覚えとれ!」
桜音は、捨て台詞を残して、老人らしからぬ足の速さで去っていった。
「あ、あの…ありがとうございます」
僕がお礼を言うと、倒れていた仲介所の一人が起き上がろうとしたので、女の子が蹴りを一発食らわして、止めを刺した。
「えーっと…助けてもらって失礼ですけれど…」
「お礼はいらない」
さっきの蹴りで、女の子の制服のスカートがめくり上がったままになって、彼女の純白の下着が丸見えになっていた。
僕は、目を背けながら、下をちょいちょいと指差した。
「ん?なに?悪いやつはもうやっつけたよ?」
無邪気に聞き返してくるので僕は口に出して言うしかない。
「スカート」
女の子は、下を見ると、急いで反転して、駆け出した。
「いやああああああああ」
渡り廊下を走り抜けようとしたが、渡り廊下の屋根を支える柱に頭をぶつけたようで、その場でうずくまった。僕は、走り寄って彼女の様子をうかがった。
「だ、大丈夫ですか?」
「ついてこない!」
女の子は、おでこを押さえながら、ふらふらと僕から離れていった。
ふと地面を見ると、チラシが落ちていたので、拾って読んだ。
「安心、安全、結婚相談室。学内結婚でお困りの方、親身になって相談に乗ります。お気軽にお越しください…」
チラシには、相談室の場所も書いてある。
あの子の落し物かな。返そうと思ったけれど、女の子はすでにいなくなっていた。
それにしても、ひどい目に遭った。僕は倒れている結婚仲介所の人たちを横目に中庭を後にした。




