大好きな人に会う日はお気に入りの着物を着て・・・
着物が好きです。
本当は毎日着ていたいです。
あと、和名の色の名前も好きです。
なので、趣味に走りました。
明日は大切な約束がある日。大切な約束の日だから普段と違う服装にしようと思う。
桐の箪笥のそばにいき、引き出しを開けた。たとう紙に包まれた着物を一つ一つ見ていく。
たとう紙には祖母の字で何の着物が入っているか書かれている。
お目当ての小紋を見つけて取り出した。たとう紙からだして衣桁に掛けて広げておく。
次は帯をしまってある引き出しを開けた。こちらもたとう紙に包まれて同じように祖母の字でどういう帯が入っているのか書いてある。
選んだ小紋は江戸小紋で淡紅藤色だから・・・困ってしまうわ。この黒地の花織の袋帯にしようかしら。それとも碧色の唐草模様の洒落帯にしようかしら。雪色の西陣九寸名古屋帯も捨てがたいわね。
それぞれの帯を取り出して小紋にあてて見たけどなんかしっくりこないわ。
そういう時は小物を先に合わせて見ましょうか。
なので、今度は帯揚げと帯締めを入れてある引き出しを開けた。
黒地の花織の袋帯には、白鼠色の帯揚げに柿鼠色の帯締めがいいかな。
碧色の唐草模様の洒落帯なら、女郎花色の帯揚げに潤色の帯締めなんてどうかしら。
雪色の西陣九寸名古屋帯には、白緑色の帯揚げとたまには合わせて同じ白緑色の帯締めでもいいわよね。この帯締めなら単色じゃなくて平織の模様入りですもの。
そうね。雪色の西陣九寸名古屋帯に、白緑色の帯揚げと帯締めに決めましょうかね。
着物が決まったから着るために、小物を取り出すことにした。
肌襦袢、裾除け、足袋、襟芯、紐、伊達締め、帯枕、帯板。それから和装ブラジャー。
あとは、長襦袢。これは祖母が若い女の子なんだからと選んでくれたもの。でもね、乙女色は、どちらかというと落ち着いた色になるのよ。
あとは手提げと草履。草履は薄藤色のものがあるからそれにしましょうか。手提げは他にプレゼントを包んだ風呂敷包みを持つつもりだから、かわいらしい巾着にしようかしら。それとも手提げタイプ?ああ、そうね。この間手作りした和柄バックでいいかな。これならいろいろ入れられるもの。ちゃんとファスナーで中のものは見えない様にしたんだし。
ああ、そうそう、先にプレゼントを風呂敷に包んでおかないと。
これで良し。後は、明日着物を着て出かけるだけね。
翌朝、朝食を食べていると祖母が言った。
「清香、今日は絵菜の所に行くのでしょう。昨日着物を出していたようだけど、着物で行くのかい」
「そのつもりなの、おばあちゃん」
「手伝った方がいいかい」
「ううん。今日は自分で着てみたいからいいわ」
「無理そうなら声を掛けな」
「うん。ありがとう」
朝食を食べ終わり歯磨きをして、髪を整える。凝った髪型なんて出来ないからお団子にまとめただけだけど。それから、着物を置いてある部屋にいった。
着ていた洋服を脱いで、まずは足袋を履く。次に肌襦袢と裾除けをつける。和装ブラジャーは今日はやめておいた。タオルの用意を忘れていたと持ってくる。胸の下や腰の所にタオルをあてて体形の補正をする。これをしないと綺麗に着付けることが出来ないからなの。
次に長襦袢を羽織ったところで、左右の衿先を体の正面で合わせる。左手で左右両方の衿先を持って、右手で背縫いを持って下に引き、衣紋を抜く。この時、背の中心の位置と衣紋の抜き加減に注意しながら姿見で確認をする。良さそうなので手早く紐で締める。
次は小紋を着る。身体に羽織り、衿先を持ち左右を前正面で合わせる。着物の衿は長襦袢より少し高くして、衿の背の中心を一緒にクリップで止める。
着物を持ち上げて体に添わせながらゆっくり下ろし、裾を床すれすれの長さまで平行に下ろす。上前の裾を右足のわきに合わせて、着物を着た時の丈と幅を決める。上前の位置を動かさないように注意しながら、いったん上前を左に広げて下前を巻く。着物がふくらはぎにつくようにつま先を3~4センチほど上げて、裾つぼまりになる様に調節をする。上前もつま先を少し上げながら、上前が足の甲に少しかかる位置にして、腰ひもを結ぶ。
前と後ろのたるみを伸ばし、お端折りを整えた。衿を体の中心で重なるように合わせる。この時背縫いが背中心にくるように気をつける。身八ツ口から手を入れて、下前の襟を整えてから胸の下で紐を結んだ。背中や前身ごろにシワがないか確認し、シワがあったら両脇に引っ張って伸ばしていく。脇にきたシワは織り込んでダーツの様にする。整ったら伊達締めを締める。
次は帯を締めるのよ。手先の長さを決め、帯を体に巻いて帯板を挟んでもう一巻きして、後ろで交差させる。それから、手先を前に持ってきてクリップでとめる。次にお太鼓の部分を決めるの。まずはたれの長さを決め仮紐で縛る。それから帯枕に帯揚げをつけたものでお太鼓の高さを調整しながら、帯枕を固定する。手先の部分を仮紐が通っている部分に折り返し、その手先を押さえるように帯締めを結び形を整える。最後に帯揚げを綺麗に見えるように結び直した。そうそう、仮紐を取るのを忘れないようにしないとね。
姿見に着終わった姿を映してみる。・・・うん。我ながら上手く着れたと思う。
使った道具を片付けて部屋を出た。居間を覗くと祖母と母がテレビを見ていた。私に気がついた祖母が声を掛けてきた。
「自分1人で着れたようだね。どれ、見せて見なさい」
そう言われたので、祖母のそばに行った。母も私に視線を向けてきた。ゆっくりとくるりと回転した。
「まあ、これなら外を歩いても着崩れせんじゃろ」
「そうね。いいと思うわ」
「本当に!」
よく着物を着る二人からの及第点の言葉に声をあげてしまった。顔もニッコニコの笑顔になっていることだろう。
「それにしても、清香が着物を着るなんて珍しいじゃない」
「それは、自分用の着物としてもらえたからよ」
母の言葉に笑顔のまま答えた。
うちの祖母と母は茶道と華道を嗜んでいる。嗜んでいるというよりも、それなりの地位にいるらしい。いるらしいというのは、私はそれについて知らされてないからだ。子供が産まれたら必ずやらせなければならないような家に、生まれたわけじゃないのも大きいのかな。
なので私は、茶道と華道は嗜む程度しかやっていない。それよりも、小さい頃から着物に魅せられている。金糸銀糸が使われているものから、螺鈿入りや、織りによる文様。他にも絞りや染め付けなど、和に関する物なら何でも興味がある。だから手ぬぐいや、はたまた暖簾に見入ることもあり、たまに一緒に出掛けた友人に呆れられる事態になったりしていた。
「ところで、家を出るまでにまだ時間はあるの」
「えーと、うん。まだ、30分はあるかな」
「じゃあ、台所に行きなさい。せっかくの着物にその髪はないわ。お母さんがやってあげるわよ」
「本当に。ありがとう」
台所に行って椅子に座ったら肩にビニール風呂敷を元にした肩掛けをかけられた。髪を解かれてブラッシングされる。それから櫛を使って器用に髪を纏められた。
「里美さん、この簪はどうかしらね」
「あら、お義母さん。清香には落ち着きすぎではないかしら」
「だけどね、その着物なら合うと思うけどね」
祖母が持ってきた簪は幅広の塗りの簪。絵柄は藤の花かしら。珍しいなぁ~。
母が受け取って髪に挿してくれた。
「あら~。いいじゃない」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
祖母と母が喜んでいる。私は立ち上がって鏡の所に行こうとしたら、母に止められた。
「まだ、だめよ。せっかくだからお化粧もしましょう」
「えっ。まだ私には早いよ」
「何が早いのよ。今どきの高校生はお化粧なんて当たり前なんでしょ」
そう言って母にお化粧をされた。軽くファンデーションを塗られ、頬紅と口紅も。
祖母が持ってきた手鏡を渡された。覗いてみたらいつもより大人びた顔の私がいた。
「いつもより3割増しに可愛いわ。嫌だ、心配になってきちゃったわ。私も一緒に行こうかしら」
「大丈夫よ、お母さん。私、モテたことないから」
「・・・でも、今日の清香は可愛いから」
「里美さん、あんたもそろそろ子離れせんといかんかのう」
「お義母さん・・・」
「心配いらんじゃろ。なあ、清香」
「うん。絵菜ちゃんの所に行くだけだから」
「ところでコートは着ていかないの」
「う~ん、暖かいからいらないかな」
「ダメよ。着ていきなさい。持ってきてあげるから」
そう言って母は取りにいってくれたの。戻ってきた母は、道行コートと道中着を持ってきた。道行コートは臙脂色で道中着は鼠茶色だった。
私は道行コートを着ていくことにしたの。
「遊んできてもいいのじゃぞ」
祖母の言葉に送られて私は家を出てバス停へと向かったのでした。
バスの中で・・・視線をとても感じます。やはり着物を着ている若い女の子は珍しいのでしょう。
駅前でバスを乗り換えます。絵菜ちゃんが住んでいる路線のバス停にはぐるりと回って行かなくてはなりません。
歩いていると誰かが私を呼ぶ声がした気がしたの。そちらを見ると・・・高校生くらいの男の子。なんか見たことがある気がするけど、離れていることとバスの時間が近づいているので、軽く頭を下げてそのまま歩いていっちゃった。多分、同じ高校の誰かでしょう。
バス停について1分もしない内にバスが着たの。なので、乗り込んだのね。
約10分後、バス停で降りたら絵菜ちゃんが迎えに来てくれていたわ。
「キャ~。清香ちゃんてば。私を萌殺す気なの~。写メ!写メを撮らせて~!」
「絵菜ちゃん。お迎えはうれしいけど、そんなに興奮しないでね。身体に障るよ」
とりあえず荷物を持ったまま5~10?枚くらい写メを撮られたのよ。
絵菜ちゃんが住んでいるマンションに着いて部屋に落ち着いたのは、写メをいっぱい取られた後でした。服の選択を間違えた気がします。
絵菜ちゃんが紅茶を入れてくれてやっと座ってお話しです。
「今日は来てくれてありがとう、清香ちゃん」
「こちらこそ、お招きに預かりました」
軽く頭を下げて、絵菜ちゃんと目を合わせた。そして二人して吹き出した。
「やだ~、清香ちゃんたら」
「絵菜ちゃんこそ~」
笑いが収まると私は持ってきた風呂敷包みを開けて中の包みを絵菜ちゃんに差し出した。
「どうぞ。気に入ってくれると嬉しいんだけど」
「ありがとう」
包装紙を外して箱を開けると、中にはタオルで作ったものが入っていた。それを絵菜ちゃんは取り出して手に持った。
「すご~い。これがおくるみね。タオルでできるんだね。ステッチも素敵。これは・・・」
もう一つの物を手に取って絵菜ちゃんは絶句した。と、思うとプルプル震え出すとキラキラした目で私を見てきた。
「なにこれ~。かわいい。可愛すぎるわ。赤ちゃん用ガウンみたい~。ねえ、これ、本当にフェイスタオル2枚で作れるの?」
「うん。着物の一つ身の応用なの。タオルだからお風呂上りにちょっと着せておいて絵菜ちゃんが服を着る間でもはだけないかな~、って思ったの」
「うん、うん。子供が生まれたら絶対使わせてもらうね」
絵菜ちゃんがとても嬉しそうに抱きしめていた。絵菜ちゃんはただいま9カ月目の妊婦さんなの。今日は私が作ったおくるみとガウンのようなものを届けに来たんだ。
ついでにいうと絵菜ちゃんは私のいとこで歳は8歳離れているの。でも、昔っから絵菜ちゃんには可愛がって貰っていたんだ。絵菜ちゃんの旦那さんは会社の元上司だったんだって。絵菜ちゃんより8歳(偶然だけど)上のイケメンさん。やさしくて頼りがいがある人なの。
実はここだけの話だけど、絵菜ちゃんを取られるのが嫌で彼には嫌がらせをしました。
だってね、絵菜ちゃんと出かける約束してたのに割り込んできたのよ。結局絵菜ちゃんと私と彼と彼の甥の4人で遊園地に行ったのよ!
でもね、絵菜ちゃんと結婚する前に、私に謝ってくれたのよ。いとこのお姉ちゃんを取っちゃってごめんなって。大切にするからって言ってくれたの。それから兄だと思ってくれとも言っていたのね。
・・・今となってはいい思い出よ。うん。嫌がらせをしたことについては私は悪くないと思うな。だって、絵菜ちゃん言っていたもの。もう少し仕事をしたかったって。今は専業主婦だもんね。
絵菜ちゃんと楽しく女子トークをしていたら、玄関のチャイムがなった。でも、絵菜ちゃんは慌てない。絵菜ちゃんは立ち上がってコーヒーメーカーのスイッチを入れた。そうしたらリビングの扉が開いて、家主の絵菜ちゃんの旦那さんと甥がはいってきた。
「いらっしゃ・・・」
旦那さんこと、達也さんが言葉を止めて口をあんぐりと開けて私を見ていた。いや、甥の智也君も同じだ。智也君は私と目が合うと顔を赤くした。
「どう~。清香ちゃん、可愛いでしょ」
絵菜ちゃんが私の横に立って肩に手を置いてそう言った。
「可愛いというより綺麗だよ。もともと絵菜に似て美人だったけど、着物の方がもっと雰囲気美人になるな」
達也さんがそう言ってから、智也君の背中を叩いた。
「おい。うかうかしてたらトンビに攫われるぞ」
「あ、ああ。分かっているよ、達也叔父さん」
智也君が私のそばに来て私の両手を握った。
「清香ちゃん、やっと親父たちを説得できたんだ。4月から同じ学校に通えるよ。だから約束通りに俺とつき合ってください」
智也君の言葉に嬉しさで私の顔に笑みが浮かぶのがわかる。
「はい。ぜひお願いします」
そう言ったら、智也君に抱きかかえあげられたのでした。
その様子を絵菜ちゃんと達也さんは微笑ましそうに見ていたの。
絵菜ちゃんが少し疲れた様子を見せたら、達也さんが慌てて寝室に休ませに連れて行っちゃったの。私と智也君を残して・・・。
二人でソファーに座っているんだけど、さっきから智也君がピッタリとくっついて離れてくれません。嬉しい気持ちは分かるけど、もう少し離れてほしいんだけどな。
まあ、お預けさせてた身としてはこれくらいは許容するしかないか。
えっ?何のことかって?
えーと、まあ、大体想像つくと思うけど、あの、絵菜ちゃんとのお出かけに割り込んできた日。智也君も一緒に来たのよ。その時は中学3年だったのね。私も彼も。本当は絵菜ちゃんとアウトレットモールにお買い物に行く予定だったのよ。楽しみにしていたのに予定を変更されて私は凄く怒ったのよ。
なのに、智也君に一目惚れされたらしいのよ。そのあとも、私と絵菜ちゃんのお出かけに乱入してくることが何度かあって・・・。だから、智也君のことも敵認定していたのね。
それが二人の結婚式の日に、智也君に告白されました。あっ、もちろん誰も居なかったわよ、周りには。で、この時は高校に入学したばかりでそんなこと考えられなかったから、お断りしました。だけど、絵菜ちゃんに呼ばれて家に行くと、必ず智也君がいて・・・。
察するよね。達也さんが協力してると。・・・ううん。絵菜ちゃんも協力してると知った時には・・・感謝したわよ。実はさ、最初の時から気にはなっていたのよ。
でも、出会いが最悪過ぎて素直になれないというかさ。
なので、夏休みに出かけた時にどうしたらつき合ってくれるか聞かれたから、ちょっと条件というか、願望を話したの。別にそれを本当に叶えてほしかったわけじゃないのよ。
条件は
・私は遠距離恋愛は自信がないからしない。
・私のことを束縛する人は嫌。
・押しつけをしない
などを言ったのね
そうしたら、智也君がその条件をクリアしたらつき合ってくれるんだな。って言ったの。
頷きましたよ。
そうしたらね、智也君は違う県に住んでいるんだけど、私が通う学校の方が智也君が通う学校より偏差値が高いとかで、父親を説得して編入したいと頑張ったらしいの。もちろん達也さんも後押ししたとか。それで、達也さんの所に下宿するはずが、絵菜ちゃんの妊娠発覚でお流れに。それでもあきらめずに説得してやっと転入の許可が出たそうなの。もちろん編入試験は好成績でパスしているのよ。
・・・恐ろしいことに、もううちの高校で、智也君の噂が流れているのよ。才色兼備のイケメンが編入してくると。
実は今日私は勝負をかけに来たの。だって、春休みの今を逃したら、智也君に告白できないと思って。だから、自分の大好きな着物で気合を入れたの。
まさか、彼から先に言われるとは思わなかったけどね。
私はそっと智也君の顔を見たの。智也君は私を見ていたようで、目が合うとニッコリとしたわ。
「あのね、智也君」
「何かな、清香ちゃん」
私の呼びかけに蕩けそうな笑顔で返事が来たの。
「私もね、智也君のことが好きなの」
「うん。知ってた」
えっ?知っていたの。
「だって清香ちゃん分かり易かったもの」
それって、モロバレだったということ?
あー、今真っ赤になっている自覚があるわよ。
「フフフッ、真っ赤になってか~わいい~。大好きだよ清香ちゃん。これからはそばで守ってあげるからね」
そう言って私のことを抱きしめてきた。来たんだけど・・・待って、うなじに息がかかるのよ。は・な・れ・て~。
「ねえ、着物って反則だよね。そんな色っぽい恰好されたら、どれだけ忍耐力試されるの俺って」
首筋に何か触った気がするけど・・・気のせい。気のせいで!
「清香ちゃん。俺ね学校に行くのが楽しみだよ。どんなやつにも負けないからね」
そう言って笑う智也君に、私はいろいろと間違えてしまったのかと思ったのでした。
すみません。
後半部分不完全です。
目の調子が良くなくて無理やり終わらせた感があります。
後日、書き直しをしたいと思っております。
お目汚しですみません。




