Channel MAID MIX 1. a-1/c-1
南の小さな島。椰子の木に囲まれた白い屋敷に、遅い朝が訪れていた。
がたがたと音がして、メイド部屋の片隅の古びた大きな木箱が開き、中から白いレースとフリルの塊がもぞもぞと這い出してきた。
木箱は、まるで沈没した海賊船から引き上げられてきたような宝の箱で、周囲には頑丈に鉄枠が打ち付けられ、ドーム型のフタの下にはお約束のように大きな鍵穴がついている。何箇所かにお札のような四角い紙の跡がベタベタとついているが、長年海の中にあったせいで剥がれたのか、それとも拾った者がはがしたのか、文字らしき部分が残っていないので何が書いてあったかはわからない。
レースの塊は床に降り立ち上がろうとしたが、とたんにすっ転び、ゴツンと大きな音を立てた。
まっ白いブロードの布が動くたびに、布の隙間やフリルの中からほどけたネックレスの赤や緑の宝石がぱらぱらとこばれ落ちる。
「いったたぁぁ・・・・」
不機嫌そうな声を出したレースの塊は、頭の上のヘアキャップを取ると、いまいましそうに箱の中にぽいと投げ入れた。軽くウエーブした水色の長い髪が、シャンプーの香りとともにふわりと背中に広がった。
「んんにゃあぁ・・・」
顔いっぱいにあくびをすると、彼女?は立ち上がり、よろよろと窓に向かった。レースの裾が箱の角に引っかかってビリビリと破ける音がしたが、気にとめる素振りも無く、彼女は窓につくと、カーテンを両側に掻き分けて観音開きの窓をばたんと勢いよく開けた。
朝の潮風が頬をなでて気持ちがいい。彼女はお日様に向かって「ふふ」と微笑んだ。
だだだだっ!爆裂音にも似た騒音が近づいてくる。
ドアを開ける音がバーン!と屋敷中に響き渡り、ガラガラと朝食のワゴンを引いたメイドが飛び込んできた。
「朝でーすっ!起きてください!いいお天気ですっ!お魚にエサをやる時間ですっ!」
ベッドの中の主は、パジャマの胸をはだけ、よだれを垂らし、くしゃくしゃの頭で眠りこけている。
「起きてっ!起きてっ!」
起きない。
メイドはベッドの上にひらりと飛び乗ると、爆睡中の男にエルボーをお見舞いした。
「うあっ!やめっ!ぁぅ!」
ドカッ!バキッ!ドスッ!バシッ!
寝込みを襲われあわてふためく男の上に馬乗りになり、メイドは手加減無く攻撃を続ける。
「ごらぁっ!起きろってんだ!何時だと思ってんだよっ!いつまでも寝てんじゃねえよっ!」
平手とパンチの連続で男の顔はみるみる2倍に腫れあがった。
「や、やめろーーーーっ!」
渾身の力を振り絞って男は叫んだ。
「あ。おはようございます♪」
メイドは我に返って手を止め、にっこりと笑うとベッドから降りた。
そして、ぱさぱさと音を立て、紺色のドレスと白いエプロンのドレープを整え、ワゴンの傍に立つと、恭しく礼をしながら言った。
「おはようございます、ご主人様。朝食を持って参りました」
「ん・・・痛いからもう一回寝る」
と言いかけたケイスケは、メイドの右手がぎゅっと握り締められたのを見て言い直した。
「ぃや・・・、寝ないけど。。そこに置いといて」
「かしこまりました」
メイドは軽く頭を下げて、ドアに向かった。
「失礼いたします」
部屋を出てドアを閉めようとして、メイドは思い出したように再び隙間を開けて首だけ覗かせた。
再び布団にもぐり込もうとしていたケイスケはベッドの上ではっと身構えて正座した。
「ご主人様?随分おねむなようですが、夜中のネット遊びはほどほどになさった方がよいかと存じますわ♪」
ばたんとドアが閉まり、廊下をスキップの足音が遠ざかっていった。
ケイスケは、腫れた顔で布団に突っ伏すと、
「かんべんしてくれよ・・・」と誰にも聞こえないように小さくため息をついた。