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復讐のゴブリン

いや、ちょっとした病気で1週間ほど入院していたんですが

あんまりにも暇なんで、1つネタ的に思いついたんで書いてみました。

そのゴブリンは道を歩いている人間を狙いすましていた。


殺す。


必ず殺す。


必ず殺すと書いてゼッコロ。


そのゴブリンは道を歩いている人間を

殺す事しか頭に無かった。


いや、殺し終わって家に帰ったら

周囲を散策して雌のゴブリンを

犯して孕ませる事もちょっと考えていた。


でも殺すことだけ考えていた。


何故か?


それは復讐だ。


そう、復讐の為に殺すのだ。


ゴブリンは思い出す。


子供の頃の事を。


子供の頃の幸せな時間。


毎日、勇敢な父ゴブリンと優しい母ゴブリンが

夜には新しい兄弟を作ろうと励んで

定期的に兄弟が増えていったあの頃。


父ゴブリンは毎日の様に、謎の美味しい肉を

自分達に持ち帰ってくれて

家族みんなで美味しいご飯を食べれて幸せだった。


そう世界はずっとこの穴蔵の中で

毎日美味しい食べ物がやってきて

面倒みなければいけない兄弟が増える。


世界とはそういうモノだと思っていた。


だがある日、そんな幸せな日々は崩壊した。


突如、自分達の家に人間達が飛び込んできて

何か大声で叫んでは、家族みんなを惨殺し始めたのだ。


それは恐怖だった。


力強い父も、優しい母も、大切な兄弟も

その人間達に何の容赦も無く切り殺されていった。


それは恐怖だった。

ただ恐怖でしかなかった。


そしてその時は子供だったゴブリンは逃げ出した。


今、家族が殺されていくのを知っていながら

それを盾にして、作っていた秘密の抜け道を通って

外の世界へと逃げ出したのだった。


初めて泣いた。


そんな気がする。


泣いて泣いて、恐怖に怯えながら

何処かも分からぬまま走って逃げていた。


そしていつの間にか自分が何処にいるのかさえ

分からない所まで逃げていた。


途方に暮れたその後に

家族を殺された絶望感がゴブリンを押しつぶした。


何故、こんな不幸が?


自分達はただ幸せに暮らしていただけだというのに

突如、ワケの分からない人間達が押し入ってきて

家族達を殺戮したのだ。


これは許される事なのだろうか?


ゴブリンは、そう自問自答し

混乱と恐怖の中でそれでも立ち上がった。


こんな理不尽は許されるべきではないと。


そしてそのゴブリンは誓ったのだった。

自分達を殺戮した人間達に復讐をしてやろうと。


目には目を、歯に歯を。


殺戮には殺戮を。


それが因果応報というモノだとゴブリンは思った。


そしてゴブリンは修行を始めた。


人間をこの手で殺せるように

復讐者になれるようにと懸命に

棍棒を振り回す稽古を始めた。


食事は森の中の動物を棍棒で襲って手に入れた。


人間を襲うのだ。

動物程度、棍棒で殺せなくてどうするか?


そう思ってゴブリンは毎日狩りを行い

それが同時に戦闘訓練にも成っていた。


ただ一回だけ、熊に遭遇し

逃げ回って命からがらの所で生き延びた等と

ゴブリンにしては大冒険もあったのだが

とにかく生きるための毎日を修行した。


と、修行をしている間に体も大きくなり

耐え難き内側からの欲望が己を支配し

歩いているとたまに出会う雌ゴブリンを見ては

魂の奥底から溢れ出す欲望に負けて

襲いかかり犯して孕ませる等という一幕も

一度や二度ではなかったが

それは本能だった。


本能であれば仕方がない。


そういうモノだ。


そんな修行の日々を不意にゴブリンは思い出し

僅かに笑った。


そして思う。


きっと犯した後に

そのまま逃げ去ったあの雌ゴブリン達は

自分の子供を身籠もって

何処かで生んでいるのだろうな、と。


自分の子供達がこの世界の何処かでは

生まれて、生きて、生活しているのだろうな、と。


それは母子だけの歪な状況だろうが

あの幸せだった家族みんなで暮らしていた

そんな日々と同じに違いないのだろうな、と。


そう思ってゴブリンは一瞬だけ微笑んだ。


だが、ゴブリンは復讐者だった。


ゴブリン生の全てを今まで復讐の為に投げ捨てて来たのだ。

何のために棍棒で動物を撲殺できるまでに成長したのだ。

最早、後には引けない。


沢山の動物を、この手の棍棒で撲殺してきた。

その血肉を以て、ゴブリンは復讐心の塊になったのだ。


後、撲殺してないのは人間だけだ。


そうか。


遂に人間死すべし。


ゴブリンは今、ようやく復讐者としての

その本懐を遂げようとしていたのだ。


ああ、そうだ。


これは復讐だ。


頼もしい父、優しい母、一緒に過ごした愛しい兄弟達。

それを何の理由も無く惨殺された復讐なのだ。


あの惨殺には何か理由があったというのか。


許せない。


絶対に許せない。


だから殺す。


故に殺す。


何人も殺す。


殺して殺して殺して、殺しまくってやる。


同じ怒りを、哀しみを、憎しみを、憤りを

あの人間達に思い知らせてやる。


それを思ってゴブリンの目が光った。


そうだ。


今こそ復讐を!!


そしてゴブリンは道を歩いている人間の前に

飛び込むように突撃した。


ああ、走れ自分。


ああ、唸れ棍棒。


この怒り。


このどうしようもなくわき上がる魂の怒りを

棍棒に乗せて、目の前の人間に叩き付けるのだ。


復讐だ。


これは復讐だ。


自分の復讐物語の始まりだ。


その圧倒的な歓喜に、ゴブリンは吠えた。


その雄叫びは何処までも天高くに伝わり

竜の嘶きさえ、かき消してしまうほどの勢いに思えた。


その時だった。


目の前の人間が自分に驚きながらも何やら呟いていた。


それが何なのかはゴブリンには分からなかった。

分かる必要も無かった。


ゴブリンにとっては殺すことこそが全てだったのだから。


だから雄叫びながら走っていた。


しかしその時、ゴブリンの中に猛烈な睡魔が襲ってきた。


何だこれは!?


何故、この様な時に眠気を自分は感じている!?


今の自分の

この圧倒的なまでの憎しみは、

この猛然とした憤りは、

ワケの分からない睡魔に負けるほど

ヤワなモノでは無いはずだ。


そうだ、この棍棒。


この棍棒をあの人間の頭に一撃で…


そう一撃で脳症をぶちまけさせ

殺された家族達へのせめてもの手向けにしよう。


そうだ、それがいい。


それが実にいい。


今、復讐は完遂されるのだ!


その思いを胸一杯にし

更に歓喜の雄叫びを上げたその時

ゴブリンの意識は無くなった。


そのゴブリンの意識は無くなったのだった。



そして、闇の中

恣意の何一つさえない世界。



無明の闇だけがそこに在った…

のかさえ分からなくなったのだった。



(終)

まぁなんていうか、

逆側の視点から見たら、きっとこんな感じですよね。

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