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アメミト型が東京を目前とした時、それを見た者たちは皆一様に息をするのもやめ、ただそれを見ているだけであった。数秒意識を失ったかのように止まっていたが、指揮官たちの声をきっかけに硬直が解けると、皆攻撃に移った。

誘導ミサイルが放たれる。ほとんど攻撃としては無力だが、敵の目をくらませる役にくらいは立つ、と考えられていた。その間に、八咫烏K型をはじめとした砲撃部隊が有効射程まで迫る。さらに、寺門少佐率いる第一航空MA部隊、三井少佐率いる第二航空MA部隊、設楽少佐率いる第三航空MA部隊が順次飛び立つ。ファルケユニットを装備した赤髭を先頭に、各隊10~13機の八咫烏が続く。


「第一隊攻撃準備!」


寺門の号令のもと、彼の指揮下のMA部隊は特殊炸薬を仕込んだバズーカを右肩に担ぎ、左手で固定する。同じように第二、第三航空隊もバズーカを構える。

アメミト型が見えてくる。地上からの攻撃に対し、アメミト型は複数のレーザー光線で地上部隊を攻撃していた。無線からは地上部隊が甚大な被害を受けていることを知らせる報告が入ってくる。寺門は歯がゆい思いを感じながら、敵が射程に入るまで待つ。

ロックオンの音がコクピット内に鳴り響く。セーフティを解除し、操縦桿のスイッチに手をかける。


「全機、攻撃開始!」


「了解!」


30機以上のMA航空隊の攻撃が始まった。バズーカから発射された特殊炸薬は、アメミト型に見事に命中した。アメミト型の丸い表面にわずかなひび割れが走った、と思うと、さらにひび割れが広がっていく。特殊炸薬は敵の装甲を抉り、ある程度すると炸裂し、無数の弾となる。表面こそ固いが、中も同じとは限らない、ということであった。アメミト型に対しては、こういった兵装が効果的であることが多くの犠牲の末にわかったのだ。

アメミト型はそれまで地上を中心に攻撃していたが、空の敵を認識した。アメミト型の円の中心部から、レーザー光線が放たれる。空気の中でどういう原理でか屈折し、空のMAを撃墜しようと追尾してくる。

非常に高い追尾性を持ち、また実弾ではないため、防ぐことは困難である。歴戦の航空MA部隊と言えども、無事では済まなかった。

寺門は赤髭を駆りながら、部下たちを見る。案の定、半数以上が今のレーザー照射の犠牲となっていた。


「全機、攻撃の手を休めるな!撃て!!」


叫ぶ寺門。彼は右前方で第二隊の隊長である三井の赤髭が二本のレーザー光線によって焼き尽くされるのを見た。


「三井!」


戦友の名を叫ぶ。三井は寺門と同期であり、ともに暗黒時代を生き残ってきたエースであった。三井の死を悼みながらも、寺門はこの悪魔の円盤を倒すために、悲しみを忘れ、怒りに身を任せた。




地下では半数以上のルートが敵の侵攻で使えないことが分かった。死傷者を出しながらも、撤収作業は続いていた。

アカネたちは倉沢たちを待ったが、彼らが来る気配はなかった。


「もう、やられたと考えるのが妥当ね・・・・・・。あたしたちも下がりましょう」


カエデが言う。倉沢たちがかなわなかった敵に、カエデたちがかなうとは思えない。一度味方と合流してから、と考えていたカエデの耳に、コウタの声が聞こえた。


「・・・・・・前方から急速に何かが近づいてくる!」


「・・・・・・味方?倉沢先輩たち?!」


カエデが問う。カストがスナイパーライフルを構える。


「カエデ、撃つぞ!」


「待って、味方かも・・・・・・」


「味方だったら信号を出すだろぉ!」


カストはそう言い、彼にしては焦った様子でライフルを撃った。アカネも赤髭に武器を持たせ、眼前に意識を集中させる。


「当たったか?!」


カストがコウタに聞く。コウタが驚いた様子で言った。


「敵なおも接近中!」


「くそったれ!!」


カストがののしる。アカネは赤髭を前に出す。


「カエデ」


「・・・・・・」


「カエデ!!」


呆然とするカエデに、アカネが叫ぶ。ハッとしたカエデに、アカネが言う。


「私がしんがりを務めるから、撤退して」


「・・・・・・!わかったわ」


アカネの意図を理解したカエデが機体を反転させた。そして、逃げるように走り出す。カスト機もライフルを折りたたむと、それに続いた。

コウタのMAが心配そうにアカネを見るが、すぐに逸らし、後に続く。

アカネは機体の向きはそのままに、ホバリングで後ろに下がる。両手にハンドガンを構えながら、その目を暗闇の向こうの敵に向けて。

やがて、それは現れた。半人半馬の、神話の怪物のごとき、機械の戦士が。

それは嘶くように、ぎちぎちと金属音を鳴らし、四本の足で力強く蹴り、接近してくる。


「カエデたちには近づけさせないッ!」


アカネはハンドガンを撃ち続ける。二丁のハンドガンの連射の中を、ぶくともせずに突っ込んでくるケンタウロス。アカネの射撃は、半分以上が命中しているはずなのにもかかわらず。

ケンタウロスは右腕に持つ槍を振るいながら走ってくる。穂先が不気味に光り、赤髭に迫る。


「駒鳥さん!」


コウタが無線で叫ぶ。それと同時に、コウタの八咫烏からと思われる射撃が赤髭の横を通る。ケンタウロスの近くにあたったものの、その進行は止められなかった。

左腕の弓矢のようなものが、ボウ、と光り、光線が放たれた。

アカネは後ろで何かが爆発した音を聞いた。


「コウタ!」


カストの叫びが無線で聞こえる。コウタが「大丈夫」という。コウタの八咫烏は右腕を失っただけであった様子だ。アカネは安堵するが、すぐに思考を切り替える。目前に迫る機械の怪物は、その槍を赤髭に向けていた。槍を回避し、懐に入り込むように滑る。ハンドガンを敵の腹に直接当て、引き金を引かせる。


「これだけ接敵すれば・・・・・・!」


ありったけの銃弾を撃ち尽くす。硝煙で前が見えない。アカネはハンドガンを手放すと、赤髭を後退させ、腰のアサルトナイフを構えさせる。

煙が晴れた先には、ケンタウロスがいた。あれだけ接近したにもかかわらず、ダメージはほとんどないように見えた。

終わりか、と思ったアカネだが、ケンタウロスはなぜかその場から動かず、両腕の武器も使用しなかった。


「アカネ、後退しなさい!」


カエデの声に、アカネは従った。何が起こったかはわからないが、逃げるなら今だろう。

赤髭は敵から距離をとり、くるりと反転し、限界速度でその戦場から離脱した。静かに立つケンタウロスは静かに、その赤い瞳を爛々と輝かせ、それを見つめていた。

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