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彼らが来たのは、21世紀も終わりに近づいたある冬の日であった。
その日の天気は、嵐の前の静けさを思わせるものであった、と当時を知る者は皆言う。雲一つない青い空。もう冬だというのに、日本では蒸し暑い夏のような気温で、その日のニュースはそれで話題は持ちきりであった。急いで夏服を取り出し、コートを脱ぐ人々。彼らは予想しえなかった。いや、誰も予想などできようはずはなかった。
2099年、12月28日、その日は全人類にとって忌むべき日となった。そして、人類にとって最大の受難の日々の訪れであった。
彼らが最初に現れたのは、太平洋上であったということが、のちにアメリカ軍関係者より明かされた。アメリカ軍が捉えた一つの未確認物体。それは直径700メートルの円盤であった。鉛色に輝く、いかにも映画に出てくるそれは、突如そこに現れた。それは、哨戒に出たアメリカ軍の最新鋭戦闘機数機を、戦闘機の射程外から正確に狙撃し、撃墜した。その後、それは衛星軌道上のアメリカの軍事衛星を狙撃した。
次にアメリカの軍事衛星がそれを捕えたのは、日本であった。アメリカ軍が目を離した僅か数分のうちにそれは、地球上の物質では不可能な移動をし、日本の半分以上を焦土にした。
そして、それを皮切りに、世界中にこの正体不明の円盤が襲来。あらゆる兵器を無力化したこの円盤により、世界は瞬く間に火の海に覆われた。
「悪夢の一週間」と呼ばれた一連の円盤の襲撃により、人類はその人口を半分以下に減らした。
円盤の攻撃後、創作上でしか考えられなかった、人型の巨大兵器が現れた。円盤の仲間と思しきそれは、円盤と同じく鉛色であった。地球の物とは思えない超テクノロジーで作られた機械兵器により、さらに人類は虐殺され、その生存圏を奪われていった。
人類にとって転機が訪れたのは、「彼ら」が現れて五年の歳月がたった時であった。
一人の若き指導者により、それまで倒すことは不可能と考えられてきた巨人が倒され、そのテクノロジーの一端が人類にもたらされたのだ。
そのデータを基に、人類側は彼らに対抗するための兵器を作り出すこととなった。
様々な国や地域でその試みは行われた。もともとの兵器が人型であったために、それをコピーした人類側の兵器もまた人型のものとなるのは、自然なことであった。
最初に完成されたアメリカ製人型兵器「プラウド」は優れた生産性を誇り、一体の巨人に対し、複数で戦闘することをコンセプトとした。この戦術は数回の失敗こそあったが、成果を出した。
旧ロシアが開発した「ロフチョフ」は、高い防御性と環境適応性を持ち、巨人にとって不利なツンドラ地帯を中心に戦果を挙げた。
各国の技術者が人型兵器を作り、それらが戦果を挙げると、絶望続きの人類にも希望が一瞬垣間見えた。
だがそれもすぐに終わった。
新たな人型兵器や、怪物のようなグロテスクな兵器がさらに登場してきたからだ。それまで戦ってきた巨人は、尖兵に過ぎなかったことを人類は知ったのだ。
だが、希望が完全に潰えたわけではなかった。人型兵器を操縦する者たちや、技術者たちはいつかこの地球を取り戻すことを夢に見て、日夜戦い続けていたのだった。
西暦2110年。
暦の上では10月だが、まだ真夏のように熱い。これは、異星人の侵略の際に、彼らが使用した何らかの気象操作兵器によるものであることが、近年の調査で判明している。彼らはどうやら熱い環境でなければ生存できないのだろう。初期の頃、ロシアにおいて装甲が厚い以外では評判が悪いロフチョフが戦果を挙げれたのは、そのことも関係しているのだろう。
日本のかつての中心、東京。そこには現在民間人はほとんど住んでおらず、地上は荒れ果てている。超高層ビルも、家も何もない、瓦礫。しかし、その地下には広大な都市が広がっている。
日本防衛軍東京基地である。壊滅した自衛隊の後継組織であり、人型機動兵器を用いて日本の防衛を行っている。人型機動兵器の開発と生産、訓練の場所である。彼らはここで訓練し、期待を受け取り日本全土に散らばっていく。
地下都市の中心に位置する防衛軍中央庁舎より南に七キロの場所に立つ施設がある。そこでは年若い少年少女が、戦闘訓練を受けていた。
志願兵を中心とした兵士の育成機関ベルクスである。
ベルクスの役目は二つ。人型起動兵器に搭乗する適正のある者の訓練と、彼らが乗る機体の研究開発である。志願した若者たちは、ここで約三年にわたる教育と訓練を経てパイロットとなる。教育を受けるものは、15~18歳の少年少女であり、彼女、駒鳥アカネもその一人である。パイロット候補生二年目で、同期の中ではエース格の成績を誇っている。候補生の中でも優秀な成績を修めた者には、配属時に特別な機体や装備が与えられる。すでにアカネには、紅く塗装された先行実装機が訓練機として配備されていた。
OPT-103 赤髭。日本において開発された人型機動兵器としては八機目であり、「トリシリーズ」としては三機目の機体である。OPT-101 鳩、OPT-102 八咫烏からの変更点は、運動性能向上のために装甲が薄くなっていることである。しかし、防御力が低下したということではなく、新素材の合金を使用し、運動性・装甲ともに向上させたのだ。この新合金は、異星人の技術の解析が進んだことで作られるようになったものであり、現在量産に向けて作られている。
アカネの乗る赤髭のほかに、24機が先行配備され、うち4機がベルクスに与えられている。
1機は三年生に、一年生にも1機配備されている。二年生には2機配備されている。各学年の主席の身に与えるはずだった赤髭が二機配備されているのは、アカネと常にトップを争うライバルの存在があったからだ。
小鳥遊カエデ。アカネと同じ16歳の少女で、幼なじみ。二年のダブルエースのもう片方である。
アカネの機体が真紅であるのと対照的に、カエデの機体はスカイブルーに染められている。
「アカネ。降参しなよ、あたしらのチームの勝ちだよ、今回は」
無線を通して降参を呼びかけるカエデ。気さくな口調だが、彼女の乗る蒼い赤髭は、油断なくこちらに銃口を向けている。実弾ではなく、模擬弾だが、当たれば衝撃が来る。進んで当たりたいとは思えない程度には。
集団戦闘において、カエデはアカネよりも優れた指揮を行ってきた。アカネがどちらかというと、単独行動を得意とする野に比べ、カエデは数で相手を圧倒し、翻弄することを得意とする。
今回の演習は、カエデのペースで進んでいた。
アカネはギリ、と奥歯をかみしめる。
「まだ、決着はついていないわ、カエデ」
「そう、かしら!」
無線から返事が来ると同時に、模擬弾が放たれる。カエデの指揮下にある、二機の八咫烏も同時に発砲する。アカネは操縦桿を握りしめ、愛機を走らせる。弾切れのアサルトライフルを捨て、腰にマウントされているアサルトナイフを2本、ホルダーから抜いて構える。まずは、アカネから見て右の八咫烏からだ。
アカネの駆る赤髭は被弾こそしているが、致命傷判定は出ていない。たやすく接近し、八咫烏のアサルトライフルをはじき、ナイフをその喉元に突き付ける。
『八咫烏、戦闘不能』
画面に表示が出る。撃墜した、ということだ。撃墜判定が出たため、ロックがかかった八咫烏は動きを停止する。アカネはそれを最後まで見届けずに、赤髭を動かし、次なるターゲットに向かう。
「八重子、来るわよ」
「わかっているよ、カエデ!」
無線の会話で警告を促すカエデ。
「でも、遅い!」
カエデの射撃で右腕に使用不能判定が出る。右腕にロックがかかり、動かせなくなる。だが、左腕も、両足も動く。アカネは跳躍し、もう一機の八咫烏を戦闘不能に追い込んだ。
対峙する二機の赤髭。
「結局、こうなるのよね」
演習の終わりはいつもこの構図になる。二年のダブルエースといわゆる由縁はここにもある。
「今、あんたとあたし、戦績はどうだっけ?」
カエデの問いに、アカネが口を開く。
「私の12勝9敗17引き分けよ」
「なら、10勝目をいただきましょうか!」
そうして、二機の赤髭がぶつかり合った。
「ごめんね、アカネ。あたしらが足引っ張ったせいで」
演習が10回目の敗北で終わった後、チームメイトたちが謝りに来たのを、アカネは笑って首を振る。
「いいえ、私こそごめんなさい。指揮官なのに、ろくに指示を出せなくて」
「そのとおりね」
横で話を着ていたカエデが言う。
「アカネは指揮官には向いていないわ」
「悪かったわね」
二人の口げんかに、周りも慣れた様子である。二人ともこう言っているが、互いの実力を認め合っている。二人がタッグを組んだ際の演習は、それは見事なもので、三年生相手に引き分けにまで持ち込んだほどであった。三年生チーム四人に対し、二人で挑んでの結果なだけに、皆驚いたものだ。
「それよりも、今回はあたしの勝ちだからおごりなさいよね、パフェ」
「わかったわよ」
自分は12回もおごらされているのだから、というカエデに、苦い顔で言うアカネ。パイロットスーツを着替えようと、女子更衣室に向かう途中で、やはりこちらも演習を終え、着替えようとする男子候補生たちをアカネは見つけた。
男子の中で、一人だけ周囲から離れている少年を見つけた。
檜水コウタ。アカネらと同じ二年の候補生である。成績は中の中。いたって平凡で特徴がない。アカネやカエデが、振り返るような美人であるのに対し、彼はどこにでもいる普通の少年といった印象だ。
彼以外の男子生徒は独りの生徒を中心としてグループを作っている。淀川カストは、男子の中では抜群の成績を修めている。学年ナンバー3であり、彼にあこがれる女子生徒も多い。
「相変わらず、淀川は人気ね」
アカネの言葉に、カエデが頷く。
「ま、イケメンだし、成績はいいしね」
とはいえ、この二人はまったくそういった恋愛ごとには疎かった。そもそも、自分たちは訓練のためにここにいるのだから、色恋に現を抜かすのは馬鹿のやることだ、という認識であった。ほかの女子たちは二人が恋愛ごとに関してライバルになることはないことを知って、安心していた。そのため、二人が優秀な成績を修めていても、妬まれることはほとんどないのであった。
ふとアカネは視線を感じた。檜水コウタが、アカネたちを見ていた、ような気がしたのだ。
だが、コウタはすでに別の方向を見て、そのまま歩き去っていた。
里奈・T・ベルクシュタインは、日本とドイツのハーフであり、防衛軍のエースパイロットの一人である。日本における最初の機動兵器による作戦「一号作戦」において敵兵器を数機で撃破して以降、多数の戦闘に参加し、生還した。27歳という若さで中佐にまで上り詰めた彼女は、戦闘による負傷で戦線を離脱し、後進育成のためにベルクスで教官を務めている。
全学年の訓練を受け持つが、基本的には二年生を受け持っている。
そんな彼女は、アカネやカエデといった女子生徒からは尊敬の念を集め、男子生徒からは日本人離れしたプロポーションとブロンドの髪で人気があった。
その憧れのベルクシュタイン教官からの呼び出しで、アカネとカエデは教官室を訪れていた。
教官室は質素であり、応接用のソファと机くらいしかなかった。
「少し待ってくれ。全員そろってから話す」
そういった教官はフッと笑う。鬼教官ともいわれる彼女だが、それは優しさからくる厳しさであり、人間味あふれる女性なのだと二人は知っていた。二人がエースとまで呼ばれる腕に成れたのも、彼女のおかげであった。
しばらくすると、二名の男子生徒が教官室に現れた。檜水コウタと淀川カストであった。
「今回君たちに集まってもらったのは、また模擬戦があるからだ。学年別のな」
教官がそう言うと、四人はここにいるメンバーで組め、ということなのだと理解した。
「なぜ、このメンバーなのですか?」
淀川カストが聞く。
「檜水は、その・・・・・・」
言いづらい表情のカストに、コウタは笑う。
「不釣り合いだと思います、ということだろう、淀川君」
「あ、あぁ、うん」
微妙な表情のカストに、コウタは平気な顔であった。それが本当に気にしていない様子だったので、アカネもどう反応していいかわからない。
「まあ、そう思うだろう」
教官はそう言い、コウタを見る。
「彼は平均的なパイロットだから、データ収集には非常に便利、と言っては失礼だが、つまり、そういうことなのだよ」
気を悪くしないでくれ、という教官に、気にしていない様子でコウタは笑う。中の中、つまり平均値であるコウタは、データ収集には格好なのだというが、果たしてそれだけなのか、とアカネは感じたが、結局、教官の言葉を信じた。
二週間後の学年対抗模擬戦闘訓練まで、このチームで訓練をするように告げられ、話は終わりとなった。
翌日より、早速チームの訓練が始まった。
まずはチームリーダーを決めることになるが、それはカエデになった。指揮能力からカエデが適任だというアカネに、皆異論はなかった。
チーム名は、教官から伝えられており、スパローチームとなっている。
スパローチームのメンバーとそれぞれの乗機は次の通りとなる。
スパローリーダー 小鳥遊カエデ OPT-103 赤髭 (スカイブルー)
スパロー2 駒鳥アカネ OPT-103 赤髭(真紅)
スパロー3 淀川カスト OPT-102F 八咫烏F型改(紫)
スパロー4 檜水コウタ OPT-102T 八咫烏T型(深緑)
八咫烏F型は、初期の八咫烏よりも運動性能が30%ほど向上したタイプであり、現在実戦配備されている八咫烏のほとんどがこれである。それに赤髭が使用する新合金をテスト的に一部使用したのがF型改である。
八咫烏T型は、ベルクスの訓練生の大半が乗る練習機である。八咫烏のほかのタイプと比べれば装甲が薄いものの、小回りが効き、操縦も比較的容易であるのが特徴である。
三年生チームは赤髭一機、八咫烏F型改三機の編成であるという。一年生チームはハンデとして一チーム六機で、赤髭一機、八咫烏F型改二機、八咫烏T型三機である。
計算上の戦力非はさほどない、らしい。
「なら、戦術や装備が勝利のカギになるわけだな」
カストが言うと、カエデは頷く。
「そうね。淀川君は確か射撃が得意だったはずね」
カストのデータを思い出しながらカエデが言う。カストは射撃の腕では、アカネ・カエデよりも優れている。カストはそれには自信を持っていた。
「ああ」
「なら、装備は狙撃用のスナイパーライフルとサブマシンガンね」
次に、とカエデはアカネを見る。
「あんたは最前線に出て攪乱、可能であれば敵を撃破」
「つまり、機動力を重視する、ってことね」
「そういうこと。兵装は軽いハンドガンに、アサルトライフル」
「僕はどうすればいいかな?」
コウタが効くと、カエデが顎に手を当て考える。
「悪いけれど、あなたにはサポートをしてもらうことになるわ。兵装はアサルトライフルと、予備の兵装や弾薬補給のためのバックパックをお願いするわ」
「了解です、小鳥遊さん」
「それで、カエデの兵装は?」
「アサルトライフルとハンドガン、ナイフ一本くらいかしら。どのレンジでも対応できるようにしたいわね」
とりあえずの各機の役割分担を終え、早速フォーメーションなどの練習に四人は入った。
教官の見守る中、練習が始まった。
相手は四機の八咫烏T型である。皆、カエデやアカネの癖を知る友人たちである。
スパローチームの眼前には、荒野が広がっている。多くの遮蔽物があり、17メートルの機動兵器が隠れるには十分な場所がある。
アカネは赤髭を駆り、チームの秘匿回線を繋ぐ。
「アカネは先行して様子を見て。深追いはせず、こちらにおびき寄せてくれればいいわ」
「了解」
カエデの言葉にアカネが答えた。カエデはそのままカストとコウタにも命令を告げる。
「カストは狙撃に適したポイントを見つけたらそこに陣どって。アカネや私たちがうまくおびき出すから。コウタは私の前を、けれど離れすぎないで」
「了解」「了解」
二人が返す。カエデはニヤリと笑みを浮かべ、チームメンバーに言った。
「さあ、始めるわよ!」
世界各国で作られる機動兵器は、マシンアーティファクト(略称MA)と呼ばれる。MAは、異星人の巨人から奪取したオーバーテクノロジーを解析して作られたもので、未だ未知の部分も多い。
人型なのも、その未知の部分によるところが大きいという。だいたいが16~17メートルほどの大きさである。
MAの最初期を飾ったプラウド、ロフチョフ、中国のツェンタオから遅れること、半年後に作られた日本製MA「防人」から現在開発されている「赤髭」まで、基本的なフォルムや技術は変わっていない。
どことなく日本の武士を思わせる甲冑の意匠を感じられ、人間とそっくりなフォルムを持つ。
OPT-102八咫烏の特徴は、背中のバックパックから延びる大型スラスターである。このスラスターがまるで三本目の脚に見えることと、機体の基本カラーが黒であることが名の由来である。
大型スラスターの追加で機動性とバランサーが改良されたことで、日本製MAはようやく戦えるようになったのだ。
それからさらに改良を加えた八咫烏F型改が二機、瓦礫の中を進む。赤髭を警戒しているのだろう。
赤髭は八咫烏の特徴である大型スラスターを廃止、脚部を肥大化させている。それによりホバリング移動が可能となり、足場が悪い場所でもスケートで滑るように移動ができる。
二機の八咫烏がアサルトライフルを構えながら進んでいると、突然目の前の瓦礫を砕いて真紅の機体が姿を現した。
アカネの駆る、赤髭だ。
赤髭はアサルトライフルよりも小さく、装填数も少ないハンドガンを構えると、それを撃つ。放たれた模擬弾が、八咫烏の持つアサルトライフルをかすめる。
「無力化に失敗したか!」
アカネが機内で呟く。ライフルを撃ちながら接近する八咫烏二機を、ホバリング移動で軽やかにかわしながら赤髭は物陰に隠れる。
「敵を発見、ポイント7!」
アカネが叫びと、カエデから「了解」という言葉がノイズ交じりに聞こえた。向こうは向こうで交戦しているらしい。
このまま合流してもいいが、どうするか、とアカネは考えた。八咫烏二機。一対一なら確実に勝てるが、一対ニならどうだろうか。
いや、やめよう、とアカネは思った。
右手にハンドガンを持ち、左手はアサルトナイフを握らせる。一機倒して即座に離脱。それでいこう。
「はああぁぁ!!」
アカネは操縦桿を倒し、ぐるんと物陰から赤髭を出すと、踊るように前に進む。その勢いで前方の八咫烏を体当たりで飛ばし、アサルトナイフで敵のライフルを破壊し、同時にハンドガンで後方の敵のライフルを狙った。狙いは逸れ、敵の右腕に模擬弾が当たった。ライフルの破壊はできなかったが、腕は潰せたので、アカネはそれでよしとした。落ちたアサルトライフルの銃身を潰し、使えないようにしておく。
このまま押し切れば勝てるかもしれないが、危険は避けたかった。アカネは機体を反転させると、再び瓦礫の海へとに飛び込んだ。
アカネが交戦している間に、八咫烏は一機が撃破されていた。カエデ、コウタが会敵し、その間にカストが狙撃で倒したのだ。
一機のみとなった八咫烏が味方の二機と合流しようと瓦礫を進んでいると、突然何かが現れた。いや、それが何かはすぐに分かった。血のような真紅の色であったから。
アカネは敵に察知されないよう、遅い速度で移動していた。そして、逃げてきた敵を倒すために待ち構えていたのだ。
急襲され、あっけなく撃墜判定をもらった八咫烏をしり目に、アカネはひとまず味方と合流するために機体を走らせた。
「一機撃破したわ。ほかの二機は一機は右腕使用不可能、もう一機は武器を破壊したわ」
「了解。それじゃあ、あたしもいくわ」
カエデが言う。
「リーダーが前に出ないでよ」
「あんたたちは一機ずつ倒しているでしょう?私にも譲りなさい」
「なら、私はもう一機喰うわよ」
幼なじみは余裕の笑みでそう会話をすると、通信を切って狩りに出ていった。