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駒鳥アカネ中尉は、快適とはいえないマシンアーティファクトのコクピットから身を乗り出し、あたりの様子をうかがう。廃墟の中、ぽつぽつと燃え上がるのは、撃墜された敵と味方である。実力もしくは運がなかった味方に対し、アカネはただ心の中で冥福を祈った。墓など立てても忌みはないし、そもそも埋葬すべき遺体はほとんど残っていないだろう。敵は侵略初期よりも狡猾で残忍になってきた。機体が撃破されても、熟練のアーティファクター、つまりパイロットが生き延びれば、自分たちにも脅威となることが分かったからだ。ミンチにされて、肉片になったアーティファクターをアカネは多く見てきた。
どうやら生存者は彼女だけのようだった。
今回も生き残ってしまった。
アカネはそう思う。「真紅の死神」と呼ばれる彼女は、日本防衛軍きってのエースアーティファクターである。味方が壊滅しようとも彼女だけは生きて帰ってきたことから、いつしか畏怖の念を込めてそう呼ばれるようになった。
アカネは自分の機体を見る。彼女専用にカスタマイズされた、真紅のマシンアーティファクト「クック・ロビン」。ところどころ塗装が剥げ、細かい傷こそついているが、未だ撃墜されたことはなかった。
彼女はそれに乗り、敵をただただ殺し続けた。最初のころまで撃墜スコアを機体の右肩につけていたが、今ではそれも数えるのが億劫で、止まっていた。
アカネはふぅ、と息を吐き出し、目にかかる赤茶の髪を払った。
燃え盛る炎の中、彼女は思い出す。
人類の運命を大きく変えた、あの出来事を、そして、自分が辿ってきたそれまでを。
失ったものを取り返すために、さらに失い続けることを選んだ、あの時の事を。