部室問題(秋月ルカの同級生)
同じクラスの猫目の美少女が同い年の俺達は相手にしてはいけない相手だと春の時点で気づかされた。
中学に入学したてで、別な小学校からの生徒も居て、色々探りあっている中で一際目立つ容姿と………目立つ奇行の黒髪黒目の美少女が居た。どうも、2年にいる姉と3年にいる幼なじみを休み時間のたびに追いかけ回しているようだ。友人に作りに必死な俺達を嘲笑うかのようにそれはそれは楽しそうに。
同じ小学校だった奴等は、慣れているらしく、追いかけ回されている幼なじみの男が、あの藤堂鈴だと教えてくれた。確か、色々武勇伝は聞いてるが……はて、それよりも、ピアノのコンクールによく出ている俺にとって、彼は、別な意味で有名人だった筈だが、最近まであまり思い出せなかった。ここ数年彼が大会に出なかったせいだろうが。
神童なんてすぐ他の才能に潰されるんだし。
ーーああ、いや、彼は確かもっと悪質な悪意に潰されたんだった。まあ、見たことじゃないから、どうでも良いか。
毎日、毎日元気にリンーッだの。お姉ちゃん!だのと走っていく様子をボーッと見ていたら、クラスメイトの石川って女子が泣きながら、教室に戻ってきた。
石川中心に女子たちが輪を作る。女子ってこういう時、すぐ群れたがる。
聞き耳を立てていたら、なんでも、石川の入った部活には部室があるらしいが、一年は使えないし、掃除は一年がしなきゃいけない伝統があるらしい。……理不尽だ。しかし、体育会系では、ありがちだと放課後に俺が入った文化部の先輩にその話をしたら、うんうんと頷かれた。
部活勧誘の時は、あれだけ楽しく。だの、みんな仲良し。だのとアピールしておいて、実態はこれか。ありがち。
そんな事も忘れていた頃、突然、あの猫目の美少女ー…秋月ルカが2年の女子のグループに呼び出された。明らかな敵意を持っている目付きで。
ひょこひょこと出ていく秋月にクラス内が騒然とした。バカ。と。
「なんですか?」
秋月が廊下を出て、すぐに話し合いと云う見せしめが始まるらしい。正直、泣かせないでくれー。女子が泣くと煩いんだよ。と、わりと非道な事を考える。
「あんた、先生になにチクってるのよ!」
「………?」
野次馬丸出しで廊下を見れば、俺の他にも野次馬たちが。ちょうど、秋月の表情がよく見える位置だ。
くるくると猫目を大きく見開いて、意味を吟味しているらしい。しかし、心当たりがないのか、首を傾げるばかり。
「心当たりがないです」
「部室の件よ!」
「どの部室ですか?」
ーーこの時点で先輩方が秋月の恐ろしさに気づいてくれれば、悲劇は起きなかっただろう。彼女はこう言った。
どの部室ですか?と。
「白々しく……っ」
「なぎなた部ですか?この前、煙草の吸い殻を拾ったので先生に注意させて貰いました。」
「は?」
「それとも、チア部?部室で男女の不純異性はどうかと思うので、時間帯を見計らって先生を呼びました」
「う、うん…」
「テニス部は、缶ビールが有ったので、回収して先生に渡しました」
「…………」
「野球部は賭け花札をしていたので、証拠写真を先生に渡しました。ええっと、あとはー…、」
次々と羅列されていく悪事にサーっと顔色が青くなる先輩達。
しかも、秋月は悪びれもせずにさらに続けようとしている。が、後ろから誰かがーーいや、青みがかった黒髪の藤堂鈴が秋月に向かってチョップを後ろから落とした。
「あ、リン」
「ルカ。その件は、デリケートな問題だから口にするなと言われてたでしょ。……で、君たちは、どんな文句でルカに用事が?」
藤堂鈴に睨まれ、どの部活ですか?と首を傾げている秋月に先輩達は首を振ってもういいって……。
力尽きたようだ。
俺も、なんか疲れた。
その後の話として、どうも秋月に文句を言いに来たのは、石川の部活の先輩達らしく、石川が真っ青な顔で秋月をチラチラとよく見ている。友人たちと輪になって話している所に聞き耳を立てれば、どうやら、部室の件で腹がたって、先生に密告したのは石川だったらしい。が、秋月がその前から、うろちょろと部室の辺りをかぎまわっていたらしく、そして、他の部室の問題をチクっていたらしい。
チクったとは、本人的に大変不名誉らしかったが、本人は覚えのない密告も覚えてないけど自分がしたかもー程度に認識しているらしいので、やはり、チクったかもと自己完結していた。そして、何より一番の問題は秋月ルカを威嚇しに来た奴等の理由が一番、軽いものだったらしく、あんな風に誰の耳に入るかわからない廊下で他の部活の問題を暴露された結果、お咎めなしだった秋月ルカに秘密を暴かれた他の部活の先輩やら同級生に冷たい対応をされているらしい。秋月ルカは、その辺を華麗にスルーしているようだ、ダメージとして入りたかったという部活に拒否されたくらいしかダメージはなかった。
天匙の部活は多かった。不必要なくらいに。今の天久会長になってから、だいぶ減ったらしいが、それでも歴史があると、どうしても踏み込めない場所が出てくる。と、俺は生徒会にいる幼なじみ兼いとこにため息混じりに愚痴られた事がある。
……ただ、それ以来、秋月ルカという同級生が俺にとって特別になってしまったのが目下の悩みだ。……どうしたら彼女が俺に興味を持ってくれるだろうか。とー……。