都市伝説探偵高遠健一 (1)
「なぁ、ヒロ。メリーさんから電話がかかってきて、拘束するにはどうしたらいいと思う?」
その男はにやけた顔で尋ねてきた。
「あのな……かかってくるわけないだろ?いまどき、そんな忘れ去られた話なんて……」
そう答えたのは黒江裕仁である。
「俺が考えるには、まず外国製の人形を買い、ボロボロにする。それから家の近くのゴミ捨て場にでもそいつを投げ捨て、電話を待つ。電話がかかってきたらこっちのもんだ。最後の『もしもし、私メリー。今あなたの後ろにいるの』て電話がきたら、即座に後ろを向きの襲撃に備える。奴が使うのはたいてい刃物なんかだ。ガラステーブルのようなそこそこ大きい盾を使えば、防ぐことができる。防いだあとは殺虫剤をプシューとして、気絶させる。これで拘束できる。どうだ?」
「『どうだ?』て聞かれてもなあ……そんなアホなことを考えるのは世界探してもお前だけだぞ?高遠」
この男、高遠健一は無類の都市伝説マニアである。かの有名なメリーさんからの電話を先ほどのように、怪談系都市伝説を捕獲系都市伝説という発想にしてしまう。彼には怖いものなどないのだ。むしろ、口裂け女のような鎌をもつ者などには戦いたいと言い出すぐらいだ。この私、黒江裕仁はある事情で高遠の家に居候をさせてもらっている。もうすぐ、1年経つ居候生活。私は確かに高遠に感謝している。住む場所を失った私を救ってくれたのは本当に嬉しい。だが、ほぼ毎日といっていいほど、このような都市伝説を聞かされるのは正直うんざりしてきた。私にはこの話の何が良いのかが皆目見当がつかない。うんざりするのはそれだけでない。高遠の容姿は、あの水木しげるが生み出した、何とかの鬼太郎に似ているのだ。長い前髪が左目を隠していて、なんとなく雰囲気が近い。また、出かけるときはゲタを履き、季節に関係なく着物を着ているのだ……この男はほんとうは鬼太郎遺伝子とやらを持っているのではないだろうか……しかし、容姿とは裏腹に彼はこれまで起きた怪事件をごとごとく解決している。推理スタイルは【発想】と言っていた気がする。とりあえず、間違ってもいいからまずは発想する。発想したなかで可能性が最も高いものを突き詰めていく。そうすると、おもわぬ事実が判明し、見事に解決。高遠健一は実に物好きでおかしなやつである。
夕食を終えて、休息を楽しもうとしたが、かれこれ一時間、彼の話につきあっていたが、いい加減飽きてきた。さて、どうしよう。話を中断させる方法を考えていた時、ドアのチャイムが鳴った。