行き詰まる捜査 (1)
午後三時。先ほどまでの涼しさが嘘のように、再び暑さが戻ってきた。
公園から少し離れたところ、島田はとある人物のもとを訪ねていた。
「すみませんが、この女性に覚えはありませんか?」
島田は一枚の写真を取り出した。
「ええ、洋子さんよね……でもどうして……」
屋代洋子の知人である、岡本綾子が呟く。
「実は、屋代洋子さんは何者かに殺害されました……」
「ええ?!うそ!そんな……」
綾子は驚きを隠せない様子だった。
「一体、誰に?」
「それはまだ捜査中です。犯人逮捕のため全力を挙げております。そのため、あなたのお話を聞かせていただきたい。」
「構わないわ……」
友人が亡くなってショックが大きいのだろうか、顔を伏せたまま声を出した。
「屋代洋子さんの交友関係を探るためS町に住んでいる人物を調べていたのですが、思ったよりも少なくあなたを含め、二人しかいませんでした」
「?!ちょっと待ってなんで交友関係なんか調べてるのよ?」
「屋代さんの所持していた財布に金銭が入っていたことから、金目的の犯行ではないと思ったからです。もしかしたら、それ以外の動機が隠されているのではないか……屋代さんの勤務する会社では、とりわけ問題のある人ではないことが分かっていますし、同僚および上司とのトラブルもありません。つまり、会社絡みの犯行ではない。だとすれば、次に思い当たることは、友人トラブルです。そのため、今こうしてあなたにお話を聞いているのです」
「S町以外の友人とかはどうなのよ?」
「そのことも考えてはみましたが、洋子さんが殺害された時刻、つまり昨日の午後十一時から今日の午前一時にかけては全員にアリバイがあることがわかりました。家族と一緒にいたり、友人が四〜五人で集まっていたことが発覚しています。なので、疑うつもりはありませんが、できる限り容疑をかけたくもないので、あなたの昨日から今日にかけての行動をお聞かせ願いたい」
「仕方ないわね。私はその時刻は寝ていたわ」
「それを証明する人は?」
「いないわよ。私、まだ結婚とかもしてないし、一人暮らしだもの」
「そうですか……」
その後も島田は綾子に、洋子についての事情を聞いてみたが、これといった収穫はなかった。 島田は一応あのことを聞いてみることにした。
「最後に、聞きたいことがあります。実は屋代さんの口が耳まで裂けていたのですが、このことについてあなたはどう思われますか?」
「……それって、都市伝説なんかで有名な口裂け女よね……そんなことって……私は何もわからないわ」
彼女は癖なのだろうか、右手の親指の爪を噛みながらこたえた。女性にしてはやや短い爪だなと島田は思う。
「わかりました。ご協力感謝します。また、何かあったら連絡します」
「ええ……」
玄関を出てすぐ、一人の刑事が島田に尋ねた。
「あの女の人、どう思われます?何かを隠しているような……」
「確かに怪しいとは思うが、今は二人目の人物に会いに行くことにするか」
「そうですね」