被害者、口裂け女 (1)
八月三日、日曜日。午後一時のS町のR公園ー。
大勢の人間が右往左往している。
空は快晴。気温は夏にも関わらず、やや涼しい。
「所持していた運転免許証によると、殺害されたのは屋代洋子さん、三十歳。死因は心臓を刃物にさされての、出血死。検視官によるとさされてから、数秒は多少の意識があったようで、即死ではないようです。」
口元にハンカチをあてた刑事が警察手帳を見ながら、報告をした。
「ふむ、そうか。それにしても……」
島田警部は普段から遺体に見慣れてるとはいえ、これほどまでぞっとしたのは初めてである。
「一体どういうことだ…ガイシャの口が耳元まで裂けているなんて。これじゃまるで…」
そう言いかけて、島田は遺体から目を背けた。
「耳元まで裂けた口…口裂け女ですか。」
若い一人の刑事が呟いた。
「おい、この傷は一体どういうことだ?説明しろ。」
「はい。どうやら、この傷は殺害された後につけられたもので、直接の死因には関わっていないそうです。」
「殺害された後につけられた?おいおい、何故犯人はそんなことをする必要があるんだ?」
「それは分かりませんが、とにかく先ほど述べた通りです。被害者は鋭利な刃物で口が裂かれています。」
多くの人が楽しみにしていた、夏休みは突如起きた猟奇的な殺人事件により、気まずいものとなってしまったのだ。




