表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都市伝説ファイル  作者: 藤笠 紺
怪人アンサー
13/13

最後の質問

 この世には様々な怪人が存在する。江戸川乱歩が創作した架空の大泥棒である、「怪人二十面相」。または、フランスの作家ガストン・ルルーによって1909年に発表された小説である「オペラ座の怪人」多くの人は代表例としてこの二つを挙げる。しかし、これ以外にも当然のことだが、怪人は存在する。

「怪人アンサー」。2002年以降にインターネット上で流布した都市伝説の一つである。後に、創作された事実が判明する。一時期、携帯電話を使って、怪人アンサーを呼び出すことが流行った。今まで、本当に呼び出して、身体の一部が失われたなどと言う馬鹿げた知らせは入っていない。しかし、もし本当に呼び出してしまったらあなたならどうするだろうか。九つまで質問はできるが、十個目、つまり最後の質問は向こうからされる。その質問は、一般人の常識を遥かに超えていて、到底答えることはできない。例えば、「今日から1万2538日後は何日の何曜日?」とか「君のお祖母さんのお父さんのおじさんの妹のいとこの息子は君からみて何? 」などである。実に恐ろしいとは思わないだろうか。冗談のつもりが、命を懸けたやりとりに変化している。

 便利になったインターネットの裏にある恐怖を、あぶり出しているのではないのか。私はそんな気がする。

 万が一、怪人アンサーを呼び出してしまったらどのような対策を取ればよいか。その答えの一つを見つけたのが、かの都市伝説マニアの高遠健一である。



 某日、私こと黒江裕仁は、通っている大学の推理小説研究会の仕事に忙殺されていた。その仕事とは、4月、8月、12月の計三回刊行している小説誌「探偵館」の編集である。編集と言っても、決して楽ではない。研究会のメンバーに執筆してもらった原稿のチェックをするのだ。

 楽ではない理由は、誤字脱字の確認をすることでもあるが、なにより大変なのは、話に矛盾を生じさせないことだ。たまにいるのだ、前々回で死んだはずの人物が、いつの間にか生き返っていることが。また、「探偵館」は常に高い完成度を求めているので、論理およびトリックがしっかりしていないといけない。絵空事ではいけない。なので、もし、論理が破綻していたり、無茶苦茶なトリックが使われているならば、それらを全て直さなくてはいけないのだ。その依頼を、執筆担当に話せば、「ああそうですか、すみませんね」の一言で片付けられる。だから、私が手間をかけて最低限読めるレベルまで修正しなければならない。全く嫌な仕事だなと思うが、仕方ない。なんせ、私が研究会の会長であり、全ての責任は私にあるからだ。一度、失敗すれば、読まれなくなる。そのくらい厳しい状況である。そんなことで、私はちょくちょく高遠に助けを求めるのだが、彼のめんどくさがり屋の性格か、一切の助けもくれない。たまに読む程度はするが、何のアドバイスもない。冬の時は、つまらなそうに読みながら、みかんを食べ、挙句の果てには原稿をポイと投げ捨て、コタツで寝てしまう始末だ。この間の春号は、花粉症がひどいからティッシュ代わりに使いたいと言い出すのだ。そして、今現在編集作業をしているのが、夏号である。夏なので、エアコンの効いた部屋での作業ができると思っていたが、高遠は、そんな現代的なものを使うなんて、何て奴だ。風鈴と自然風があれば、十分だろうと機嫌悪そうに言う。お前こそ何て奴だ。ここ数年の異常気象で、日本人はお疲れ状態なのに、それを見事にスルーしている。彼には疲れという言葉はふさわしくない。暇人、変人、超人……どの言葉がふさわしいのか。いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、この暑さと原稿の量をなんとかしてほしい。せめて、話に矛盾があるかどうか、論理が成立しているかどうか、トリックに無理がないかどうかだけでも知りたい。頭をかきむしりながら嘆いた。そんな時だった。高遠が珍しくアドバイスをくれたのだ。


「怪人アンサーを呼んだらどうだ?」

「怪人アンサー?」

「インターネット上に流布した、都市伝説の一種だよ。彼とある契約を結ぶとな、九つまでは何でも質問に答えてくれる。しかし、十個目の質問は逆だ。彼からしてくる。もし、その質問に答えられなかったら、その場でからだの一部をとられる。答えられれば何も無し。しかし、その質問はべらぼうに難しく、例えば、今日から1万2538日後は何日の何曜日とかさすがのシャーロックホームズ様でも即座には思い浮かばないような、まさに神の領域とでも言うべきか、そんな質問をしてくる」

「へぇ、で、そいつを呼ぶにはどうしたらいい?」

「一説によると、怪人アンサーは携帯電話を用いた儀式で呼び出せる怪人。10人が円形に並び、同時に隣の人に携帯電話を掛けると、すべてが通話中になるはずである。ところが、一つだけ別のところにつながる電話がある。それが怪人アンサーだと言われている」

「そいつの正体とかは?」

「やつは頭だけで生まれてきた奇形児で、人のからだの一部をむしり取るのは、完全な人間になろうとしていからだと言う」

「いやな伝説だな。反吐が出る」

「まあ、あくまで伝説に過ぎないさ。僕はぜひとも会話をしてみたいが」

「なら、冗談でやってみないか?本当に呼べるかどうか」

「いいだろう。面白い」

「あ、でも、携帯電話が10個ないと駄目か…

 僕たちのを合わせても2個しかない」

「その点は大丈夫。この小説の力を侮ってはいけない。ちょちょいのちょいで、携帯電話は集まるさ」

「現実との区別がつかない、メタ発言をするなよ……それに実際に通じたとして、怪人アンサーはいわば幽霊的な存在だぜ。幽霊と会話をするなんて推理小説としては反則じゃないのか?」

「反則でもなんでもない。主人公が超能力を使って事件を解決しなければいいだけの話だよ。僕にはあいにくその力はない。偶然のトラブル扱いにすればいいさ。それに角川文庫から出版されている「心霊探偵○雲」の○雲も超能力ならぬ霊能力を使ってるぐらいだ。僕のような一般ピープルがそんなことをしても何にも言われないでしょう」

 私は呆れた。彼は屁理屈だ。何を言っても無駄の気がしてきた。推理小説の掟を半ば強引に突破しようとしている。しかし、そこにわずかな感動があるのは高遠が、小説の難しいところを理解しているからだ。

 そんなわけで、何とか携帯電話を10個集め、儀式の準備が整った。

「もしものために、11台目の携帯電話を用意した。身に危険を感じたら、すぐ島田さんに連絡するのだ」

「おいおい高遠、本当に出てくれるわけがなかろう。怪人様は私と同じくらい忙しいはずだよ」

 そういう私の手は、汗が出ていた。この緊張感は、小学校のマラソン大会のスタート前によく似ている。小学生は純粋で、負けず嫌いだ。走力が拮抗しているために、レース展開は激しい。その苦しさとも言える。とりあえずは、焦っているのだ。あるはずもない存在に怯えていることに。まさか…まさかね…

 さっそく、電話をしてみた。

 プルるるる……ただ、単調とした音が流れているだけだ。結局は何も起こらなかったのだ。焦って損した。そう思った時だった。

「もしもし怪人アンサーです」

 !!!口から心臓の飛び出すほど驚いた。かかった!かかってしまった!怪人アンサーは本当にいた!

「はい……」

 思わず、返事をしてしまった。明らかに冷静さを欠いている。紳士が発するような声で怪人アンサーは尋ねてきた。

「今からあなたからの九つの質問に正しい答えを与えましょう。ただし、十個目の質問は私からさせていただきます。私と契約しますか?」

 断る!断った方がいいに決まっている。命を賭した質問なんかさせられてたまるか!そう考え、断ろうとしたが、

「はい。契約します」

 高遠の馬鹿は、何のためらいもなく契約を結んでしまった。終わりだ…これで私たちの人生も終わりだ…せめて死にいくまでの間、意味のある質問をしたい…

 そう願った。だが、高遠は、

「まず一つ目の質問。この夏の暑さはどのくらいまで続きますか?」

 意味のない質問だ!まったくと言っていいほどに。夏の暑さなんかは、大抵9月の中頃まで続く。経験則から言える。

 怪人の答えは、

「10月の4日までは暑い日が続くでしょう」

 リアルな答えだ。10月とは言わず、4日もキチンとつけている。まるで天気予報士みたいだ……

「二つ目の質問。胃が痛いのですが、胃潰瘍の可能性はありますか?」

「まったくありません。ただの体調不良でしょう」

 お前らは、医者と患者さんか!てか、高遠は本物の医者に行け!

「三つ目の質問。のび○としず○ちゃんは将来結ばれますか?」

「はい、結ばれます」

 何聞いてんの?結ばれるに決まってるじゃん!あの流れで、出木○君が乱入することはない!

「四つ目の質問。黒江裕仁は将来幸せになれますか?」

「いつかはなれます」

 すごくやだ!質問の内容とその答えの両方ともおかしい!てか、いつかはって、それが正しい答えなの?

「五つ目の質問。日焼けのメカニズムを教えてください」

「日焼けは、通常日光(稀に紫外線人工灯)の過剰照射の結果として発生し、照射された紫外線がメラニンの保護能力を超えている時に起こります。 メラニンの成分量は個人差がありますが、一般に、より浅黒い肌の人々は色白の人より多くのメラニンを持っており、これは浅黒い肌の人は日焼けがしにくいことを意味しています。紫外線はUVA(長波長紫外線)、UVB(中波長紫外線)、およびUVC(短波長紫外線)に分けられます。

 地球の大気中のオゾンを透過する間にはいくらかの紫外線が取り除かれ、UVCは大気によってほとんど完全に取り除かれるが、15分未満で日焼けが生じる程度のUVAとUVBは、十分に残っています。以前は、UVBのみが皮膚ガンの原因となると考えられていたが、UVAとUVB両方が皮膚ガンを誘発します。

 日焼け現象には2種類あります。紫外線にあたった直後には発症せず、2~6時間後皮が赤くなり、痛みは6~48時間の後に最もひどくなるサンバーンと、24~72時間の間、色素沈着が進行するサンタンであります。日焼けが起こった3~8日後に、皮膚が剥離し始めます。

 サンバーンは紫外線UVBが表皮を透過し、真皮乳頭体まで達した結果、乳頭体内の毛細血管が炎症反応として充血を起こし、皮膚の色が赤くなった状態を指します。その際、紫外線量がメラニン色素の防御反応を超えていると、細胞組織が傷を受け、発熱や水泡、痛みが起きる。医学的にはこれを日光皮膚炎といいます。

 サンタンは紫外線UVAがメラノサイトに働きかけ、メラニン色素の生成を促します。メラニン色素を多く含んだ表皮細胞が基底層から角質層に達するまで新陳代謝による時間のズレがある為、紫外線を浴びてからしばらく後で皮膚が浅黒く変色するのはこのためであります。UVAは発赤や炎症を伴う事は無いですが、真皮の深部まで到達しシワ、タルミの原因になります。

 日焼けは熱傷深度I~II度の熱傷であり、障害部位において痛痒感、浮腫、赤変、皮膚剥離、発疹といった症状を引き起こし、その他全身症状として吐き気及び発熱と言った症状を呈します。一般に熱傷面積が広いため、熱傷深度の割には症状が重篤なものとなり、極端な日焼けでは、身体は衰弱し、入院を必要とする場合もあります」

 なげーよ!!長過ぎだろ!日焼けのメカニズム教えろと言っただけなのに、どんだけ長いんだよ。途中、関係なくないか?そろそろ突っ込むの馬鹿馬鹿しくなってきた。突っ込んでいるうちに、緊張感もなくなってしまった。

「六つ目の質問。ヒロが編集している原稿に矛盾や論理の破綻などはありますか?」

 まともな質問をしてくれた。これで、私の手間も大幅に省けるだろう…が、

「ありまくりです。登場人物の内、3人死んでいるはずですが、その3人とも何らかの形で蘇ってます。また、論理の方は、彼はバナナが好きだから、犯人ではないなど、本編に関係のない部分が推理で使われています。また、トリックの方ですが、アリバイ工作に用いたのがタイムマシンというSFでも禁じ手のトリックを堂々と利用しています」

 私の顔は青ざめた……省けるどころか、高い完成度すらない……頭の中で何かが崩れた音がした。

「七つ目の質問。今後、この小説にヒロインなんかは登場しますか?」

 おい、だからこれ以上のメタ発言はよせ。内心、さすがにまずいと思った。

「それは、作者の技量次第でしょう。私的には、難しいとは思いますがね」

 お前もかい!どうもこの小説は自由過ぎる。「都市伝説ファイル」のタイトルが似合わない。「メタ都市伝説ファイル」に改名した方がいいのでは……

 あと、二つの質問か…何を聞くのだろうか……高遠の表情を窺うと、全然余裕そうであり、気持ちの悪いくらいニヤついている。彼はドSだ。

「では、八つ目の質問。あなたは出した質問に正しい答えをくれるのは本当ですか?」

「はい。本当です」

 一体、どういうことだろうか。高遠の質問の意図がわからない。次が最後だというのに、何故そのような質問をしたのか……

「九つ目の質問。あなたが十個目に出す質問の答えは?」

 しばらくの沈黙が流れた。まさか……高遠は……そして、

「……水曜日」

 答えた。怪人アンサーは答えてしまった。自分でするはずの質問の答えを。

 これを狙っていたのか……正しい答えをくれるということを逆手にとり、上手いことおおむね回避不可能の質問を見事に回避する方法を見つけ出したのだ。恐ろしい男だ。改めて、感心する。

「では、私からの質問です。今日から1万28……」

 そう言った瞬間、

「水曜日」

「正解です。もうかけてこないでください。チクショー」

 ぷーぷーぷー……電話が切れた……


「いやー、実に充実した時間だった。まさか、本当に怪人アンサーに会えるなんて。声だけでも録音しとけばよかったよ」

「君はいいよな!呑気で。こっちは原稿の直しが山ほど増えてしまったのだよ。どうしてくれるんだ?」

「そんなの知らないさ。君が知りたいって言ったから、聞いてあげたのに」

「あーー!めんどくせえよ!あーー!」

 私は大声で叫び、頭をかきむしった。

「そうだ、もう一回怪人アンサーに質問しよう。この先どうすればよいか。そうしよう」

 しかし、私がいくら電話をしても、その後彼から連絡がくることはなかった……

 結局、精魂尽き果てるまで、仕事に取り組んで、、なんとか「探偵館」を完成されることができた。ただ、私の怒りは研究会のメンバーにぶつかったことは言うまでもない……





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ